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気候変動対策、中銀も動く 産業界との直接対話が重要

Earth新潮流 三井物産戦略研究所シニア研究フェロー 本郷尚氏

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

日本銀行が9月22日、「気候変動対応を支援するための資金供給オペレーションの運営に関する細目」を発表した。「最後の貸し手」と呼ばれる中央銀行が気候変動対策に乗り出したのだ。

中銀の役割、分かれる見方

しかし、もっと踏み込むことを期待していた人たちはがっかりしているようだ。他方で、ほっとしているのは中銀の役割を超えるのではないかと懸念していた人たちだろう。気候変動問題における中銀の役割と期待についての見方は分かれている。

気候変動オペレーションは気候変動対策に取り組む銀行に対して、日銀が金利ゼロで融資する仕組みだ。7月に導入を決めて以降、どこまで具体的な条件を日銀が示すのか注目されていた。

利用する銀行には気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に沿った情報開示と気候変動融資の目標と実績の公表が求められる。

また、対象となる事業の条件も決められた。環境関連事業に資金使途を絞ったグリーンボンド(環境債)や、脱炭素に向かう途中段階の技術などに投融資するトランジション・ファイナンス(移行金融)などで、かつ、日本の温暖化ガス削減に貢献する事業だ。要件を示すことで具体的な判断は銀行に任せている。

欧州は積極派、米国は慎重

中央銀行が気候変動対策に取り組むのは世界的な傾向だ。欧州中央銀行(ECB)は2021年7月に「行動計画」を発表した。銀行の気候変動についてのストレステストを行い、社債などの買い入れや担保評価の際に気候変動リスクを考慮する。

中国の人民銀行は情報開示やストレステストに加えて、銀行貸付や外貨準備の運用で気候変動対応を優遇する。ECBの設立目的は金融システムの安定だ。それに対し中国人民銀行は経済成長も目的であり今後さらに踏み込んだ対応も可能だ。

一方慎重なのが米国だ。ニューヨーク連銀がストレステストを行うなどの動きもある。しかし米連邦準備理事会(FRB)はこれまでのところ慎重にみえる。情報開示は「基本中の基本」であり共通だが、どこまで市場に介入するかは意見が分かれている。

背景に危機意識

積極介入論の背景にあるのが危機意識だ。今は気候変動問題に関して非常事態にあり、金融市場を含めた全ての資源を気候変動対策に向けるべきとの考えだ。

第2次大戦後の経済復興では、基幹産業に集中投資する傾斜生産方式がとられた。このとき日銀は復興金融金庫経由で社債を買い上げ、大量の資金を供給した。大胆な介入の成功事例だろう。また国際金融も「グリーン化競争」の時代であり、思い切った金融のグリーン化を進めないと日本市場から資金が逃げていくと指摘する人もいる。

一方、慎重論者は「中銀の本来業務は金融市場の安定であり、気候変動問題だけが特別ではない」と考える。また中銀は政策金融とは一線を画すべきだとの意見がある。1980年代、途上国で対外債務問題が多発した。成長優先政策により大量の資金が投じられた国営企業が投資の成果を挙げられず、経営を悪化させたとの教訓からだ。

2つの考えとも十分な理由があり、正解・不正解はない。しかし中銀や金融当局にも気候変動対策のプレッシャーは高まってきている。中銀がさらに気候変動問題に踏み込み、十分な成果を上げるためには、金融市場にもそれを受け止める準備ができていることが条件となる。

金融市場に3つの条件

まずは排出規制との距離だ。排出規制が整備されないまま金融だけが先行すれば、実際の投資需要から乖離する。実態とのギャップが大きくなりすぎれば、それは「気候変動バブル」だ。規制に先行することが金融の取り組みの意義だが、丁度良い距離感が肝心だ。

第2は判断基準。気候変動問題には20年、30年といった長期の視点が必要だ。しかし長期戦略や技術イノベーションに慣れていない金融機関は少なくない。環境格付や良い投資と悪い投資に「仕分け」するタクソノミーなどの外部評価も活用されるだろう。しかしエネルギーや技術は多様で、企業の周辺環境も同じではない。最適な脱炭素の道筋は企業ごとに異なるだろう。画一的な評価手法は金融市場混乱のリスクを高める。企業ごとに丁寧に戦略を評価することが欠かせない。

第3は排出量の多い部門への対応だ。脱炭素への構造転換には時間と資金が必要だ。排出が多いというだけで投資を引き揚げたら構造調整が進まない。「良い投資」を後押しするだけでは脱炭素社会への産業構造転換は進まない。

日常の取り組みに

中銀の取り組みの影響力は大きい。気候変動対策が一部の金融機関の先進的な取り組みであった時代からそろそろ卒業する時だろう。全ての金融機関の日常的な取り組みにならなければならない。

例えば、脱炭素社会への転換には中小企業が取り残されるのではないか、との懸念もある。そうした企業の経営に深くかかわっている地域金融機関への期待は大きい。日銀には金融市場が3つの条件を満たすように誘導していくことが求められるだろう。そして3条件に共通するのは産業界との直接対話の必要性だ。

[日経産業新聞2021年10月22日付]

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