地方の宝を世界に
SmartTimes 公益資本主義推進協議会副会長 田中勇一氏
「IT×農=地方の宝を世界に」をミッションに、ドローンを活用した農業支援事業を展開するのは、ドローン・ジャパン株式会社(東京都千代田区)代表取締役社長勝俣喜一朗さん。大手IT企業の役員を退任し、農業支援に取り組む勝俣さんの原点は幼少期にある。それは農機具メーカに勤めていた父がよく語っていた言葉「お前の時代は日本の自然・水で食べ物をつくる農家さんの時代になるぞ。決して近代化されていくことが大切ではない」である。

とはいえ、勝俣さんは最初から農業支援に携わったわけではない。大学生の時は、米国での弁護士資格取得に向けて、法律と英語を徹底的に学ぶ。そして、留学資金を貯めようと、学んだ英語と法律を活かして短期的に稼げそうな仕事を探す中で、当時日本支社を立ち上げたばかりのマイクロソフト社に目をつけ、自ら売り込み見事入社を実現。
勝俣さんは、急成長するマイクロソフト社で頭角を現し、IT業界黎明期にWindows3.1(95の前のバージョン)の日本のパソコンメーカーでの標準採用を実現する牽引役となるなど成長に貢献する。それらの貢献が認められ業務執行役員にまでなった勝俣さんに転機が訪れる。それは、俳優の永島敏行さんとの出会い。2003年から青空市場を開催し続ける永島さんの「生産者と消費者を結びつけることで日本の生産者が元気になってほしい」という想いに共感し、ITでの農業支援の模索を始める。
海外と接点が多い勝俣さんだからこそ、限られた資源・領土の中で循環型共存共栄の社会を実現していた日本の価値観や、古くから受け継がれてきた農の匠の技術が、世界で見直されていることを実感。
「農の匠の意志と技を受けつぐ若者が農に夢を持つことができ、日本の農村と海外の人たちが出会い繋がり続ける環境を創りたい」と思うようになる。さらに、勝俣さんは、化学肥料や農薬を使用しない有機農法の可能性に着目。農薬は病害虫や雑草の発生を防いでくれる半面、生物の多様性を損なう恐れがあり、化学肥料は製造時に化石燃料を必要とする。つまり、有機農法が広がることで地球環境改善が実現するのだ。
食糧危機、環境問題など現在の社会システムが限界にきていると感じた勝俣さんは、ドローンを活用した有機農業支援に可能性を感じ、2014年11月に退路を断ち、起業を決意。会社設立後、勝俣さんは、農業リモートセンシングサービスを民間で初めて事業化に成功。有機農業では育成にムラが出ることがあるが、ドローンを使って遠隔で農地の生育状況を分析できるようにした。さらに、ドローンエンジニア育成のためのドローンスクールを国内最初に立ち上げ、390名のドローンエンジニアを育成。
今年になって農水省が「2050年までに有機農業を農地全体の25%に拡大する」という目標を掲げるなど、時代の追い風を受けながら、高い志と情熱をもって農業支援に取り組む勝俣さんの更なる活躍に期待したい。
[日経産業新聞2021年10月27日付]
