JTB、宿泊施設の記帳や会計 システムで一括管理

JTBは会計システムや自動チェックアウトなど宿泊施設向けの複数のサービスを統合する取り組みを始めた。旅行需要が回復に向かう中、業界では人手不足への懸念が再び強まっている。大規模な投資に踏み切れない中小規模の施設に売り込み、デジタルトランスフォーメーション(DX)による業務効率化を後押しする。
開発したサービスは「JTBデータコネクトHUB(ハブ)」。多くのホテルや旅館では予約や価格、料金精算といった情報を一元管理するPMSと呼ばれるシステムを導入している。これに加えて、自動チェックアウトや多言語対応のチャットボット、施設内での物品購入などの周辺サービスもそろえる。
これまでPMSと周辺サービスはシステム設計の違いやコスト面からデジタル上でつなぐことが難しかった。データコネクトハブはPMSと周辺サービスを統合することで従業員の業務を自動化して、接客や調理など付加価値の高い作業に時間を割くことができるようになる。
例えば客が客室内にある飲み物を買った場合、通常はチェックアウト時にフロントの従業員に伝えて追加料金を払う必要がある。従業員は伝票を起こして、PMSに手作業で入力する手間がかかる。データコネクトハブではスマホ上で宿泊客が決済して、自動的にPMSの情報を上書きするケースなどを想定する。

チェックインやチェックアウトは一日のうち、午前中や夕方の特定時間に集中しており、宿泊施設にとって多くの人手が必要になる作業の1つだ。開発を担当したの蛯名匡実氏は「繁忙期には臨時で人を雇うホテルもある」と語る。JTBが2022年2〜3月、箱根にある約60部屋の旅館で実証実験したところ、チェックアウト業務の時間を8割減らせたという。
伝票入力の作業はなくなり、チェックアウトも部屋の鍵を返すだけのため1分以内に済む。1年に換算すると1300時間の削減になり、館内案内や清掃などに人手を回せるようになる。
JTBは個人経営や中小企業が運営母体となる30〜200部屋規模の宿泊施設を主な顧客に据える。周辺サービスとPMSを直接連携すると数百万円かかる場合もあり、デジタル投資に踏み込めない施設が多い。どのような設計にも対応するデータコネクトハブがそれぞれのシステムの橋渡し役になることでコストを抑えられる。契約内容や規模、予約数などにもよるが、サブスクリプション(定額課金)で提供する予定だ。
将来的には水族館など入館料がかかる施設もデータコネクトハブでつなげたい考えだ。「観光地全体のデジタル化を促すことで、JTBグループとしての収益機会も広がる」と蛯名氏は話す。散らばっていた顧客情報やアンケート結果などを集約して分析すればリピーター作りや、より効果的な販促活動にも生かせる。
政府の観光喚起策「全国旅行支援」や水際対策の大幅緩和を受けて、足元の需要は急回復している。観光庁の宿泊旅行統計調査によると、22年12月の全国の延べ宿泊者数は前年同月比20%増の約4703万人。日本人旅行者に限定すれば19年12月も上回る水準だ。

新型コロナウイルスの感染拡大前から指摘されていた人手不足も再燃している。帝国データバンクの10月の調査では旅館ホテル業の65%が正社員の不足を感じており、非正社員だと75%に上る。「人手の問題から100%営業できない施設もある」。担当者の1人である高橋広氏は持続可能な運営には他業種と比べて遅れていたDX化が必須になるとも指摘した。
今後、訪日外国人(インバウンド)はさらに増える可能性が高い。言語や決済への対応を迫られる施設も多くなりそうで、JTBでは早期に全国2000施設への導入を目指している。
(佐伯太朗)

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