「工場ロボット化」企業連合 立役者はキーエンス出身
イオン子会社で東海地方を地盤に食品スーパーを展開するマックスバリュ東海のデリカ長泉工場(静岡県長泉町)。総菜などを製造する4台のロボットが、金属バケットに入ったポテトサラダを取り出し、トレイに次々と盛り付けていく。
従来は7人がかりだった作業にロボットを導入し、作業者は3人に減らした。ラインにはさらに追加のロボットも投入する予定といい、マカロニサラダなどほかの総菜でもロボットを活用できないか鋭意、検討中という。

ロボットハンドの企画・製作はスタートアップのコネクテッドロボティクス(東京都小金井市)が担当。ハードウエア・ソフトウエアの両面で自動化ライン全体の設計や構築などを取り仕切ったのがTXFAだ。
ロボットでは難しかった総菜の扱い
ポテトサラダは決まった量を取り出すのが難しい。肉の量り売りのように増やしたり、減らしたりして量を調整していると時間がかかる。ところが、この工場で導入されたロボットはスムーズに必要な量を取り分ける。
ロボットには質量センサーが取り付けてあり、高度な機械学習とセンシング技術、制御のノウハウが埋め込まれている。これまでロボットでは難しかった、柔らかくて形が定まらない総菜の取り扱いの自動化を実現させた。
難儀したのはロボットハンドへのサラダのこびり付きだった。定量でつかむことができても、盛り付ける時にロボットの手に残ってしまうと、その分が誤差になる。手の形状を変えたり、表面を特殊加工したり試行錯誤を繰り返した結果、食品用ビニールカバーを加工してハンドにかぶせる解決策にたどり着いた。
不定形の総菜の扱いはロボットには難しいとされ、これまで人の手に頼り切っていたが、最新のデジタル技術と工夫で乗り越えた。スーパーにとっては慢性化する人手不足への対応策となるほか、投資回収後には工場の収益力を高められる。
もう一つの特長はデジタルツインだ。ロボットシステムの構想設計の段階からどういったロボットを配置し、どうモノを流すか仮想空間でデジタルシミュレーションを繰り返した。生産性などの課題を洗い出し、デジタル設計したラインロボットシステムをそのままリアルな現場に構築。設計から据え付けまで大幅に効率化した。
「ロボットを用いた自動化は顧客でも気付いていない課題が眠っている。それを診断し生産性の高い工場に変えていくのが、我々の使命だ」。TXFAの中核会社FAプロダクツ(東京・港)の天野真也会長は語る。
スマート工場、企業連合で素早く構築
TXFAに参画する幹事企業の1社、ロボコム・アンド・エフエイコム(東京・港)の南相馬工場(福島県南相馬市)を訪れれば、ロボットSIerとしてのTXFAの実力の一端が見て取れる。


安川電機、エプソン、ファナック、三菱電機――。一歩足を踏み入れると、日本の主要ロボットブランドのロボットが、多種多様な作業にいそしんでいる様子が目に飛び込んでくる。自動化の「競演」といった光景が広がる。
あるロボットは注文内容に応じて棚からTシャツを取り出し、バケットに収納。あるロボットは唐揚げのダミーサンプルをつかんで弁当箱に詰める。ねじ締めや部品の圧入などスマートフォンの組み立てを治具なしでやってのける双腕ロボットもある。人工知能(AI)による画像認識技術を使ったピッキングロボもそろえる。
「我々の客先である工場は千差万別。例えば工場内の明るさも違うが、我々はロボットやラインに埋め込むカメラもレンズも照明も、条件に応じて最適なモノを組み合わせて納入できる」(天野氏)。TXFAとして、画像判定用AIも16社以上のシステムを取りそろえているという。モノの移動に欠かせない自動搬送車(AGV)もお手の物。ラインの特徴に合わせて自由自在にシステムを設計する。
TXFAが企業連合の形態にしている最大の理由は、製造業にとって変種変量、マスカスタマイゼーション(個別大量生産)が当たり前の時代になっているからだ。
ロボット制御、ロボットやその他の機械を全体制御するネットワーク技術、デジタルツインまで「『合本主義』で対応していかないと、1社だけだったり、その都度、協業先を探したりしているようでは、変種変量のスマートファクトリーを構築できない」と天野氏は語る。
合本主義とは日本の資本主義の父、渋沢栄一が唱えた「公益追求の目的を達成するために最も適した人材と資本を集め、事業を推進させる」という経営哲学。天野氏はこれを現代のデジタルモノづくりの指針に置き換える。
マスカスタマイゼーションでは、ロボットやベルトコンベヤーなど何か特定の役割をこなせるハード単体では意味をなさない。ハードを組み合わせていかに千両役者の工場に可変させていくか、その課題解決力がロボットSIerに求められる。
異なるメーカーのロボットや装置もつなぐ
どんなロボットや機械設備、検査装置でも相互に通信で結びつけ、変種変量に対応しやすくするソリューションもその一つだ。
例えばTXFAの幹事会社であるオフィス エフエイ・コム(栃木県小山市)は2021年、ヤマハ発動機のスカラロボット(水平多関節ロボット)と、カワダロボティクス(東京・台東)のヒト型ロボットを「ORiN(オライン)」と呼ばれる制御用の通信規格でネットワーク化。NTTドコモの5G(第5世代)通信網を介してロボットを一体的に遠隔操作することに成功した。
オラインはつながる工場の要の一つとも言え、製造業でも注目のネットワーク技術。天野氏は「オラインを扱えるのはTXFAの大きな強み」と話す。
TXFAは、新工場立ち上げやラインの新設・改造などおしなべて年20件以上の大型プロジェクトを抱えている。黒子に徹しているため「取引企業はなかなか明かせない」(FAプロダクツ)が、新型コロナウイルス禍にもかかわらず21年は売り上げを伸ばした。中核のFAプロダクツは11年8月の会社設立以来、おおむね黒字を確保しながら成長を続けている。
顧客は自動車・電機業界に多いが、近年、受注を増やしているのはマックスバリュ東海のような、食品・化粧品・医薬品の「3品業界」。この業界には生産技術部門がないメーカーが圧倒的に多く、自動化の玄人はほとんどいない。これらの業界でも人手不足は深刻で、TXFAは有望市場とみて需要の掘り起こしを進めている。
「ロボットフレンドリー」を顧客に訴求

天野氏は売上高営業利益率50%以上をたたき出すファクトリーオートメーションの雄、キーエンスの出身だ。キーエンスには1992年に入社。営業パーソンとして第一線で社長直轄プロジェクトなどをけん引。海外を含む数々の新工場プロジェクトを成功に導いた。
顧客すら知らない潜在需要を見いだし、利益を生む工場に変える豊富な経験知が天野氏の強み。2009年にキーエンスを離れ、その後FAプロダクツを起業した。その後、人脈地脈を生かして、モノづくりのDX(デジタルトランスフォーメーション)を一緒に進める企業を仲間にした。
「ロボットSIerの梁山泊(りょうざんぱく)」という趣のTXFAが、いま注力するのは、「ロボットフレンドリー」なモノづくりだ。簡単にいうとロボットが作業しやすいように人間の側が配慮するというコンセプトだ。
例えばロボットはポテトサラダを見た目良くトレイに置くことはできない。この点ではまだ人間にはかなわない。6個入りの唐揚げ弁当であっても、大きな唐揚げばかりをつかんで5個で所定の重量にしてしまうかもしれない。
人が手を出してこれを修正していては本末転倒。「店頭でラッキー唐揚げ弁当がまじっていて、それをお客さんが楽しむ心があってもいいのではないか。ロボットフレンドリーへの訴えも含め、顧客の自動化要求と向き合うのがロボットSIerの仕事」と天野氏は説く。
日本の製造業が置かれた競争環境は厳しい。だが、天野氏はこう唱える。「生産技術はまだ日本がリードできる分野。日本製ロボットの世界シェアは高く、センシング技術にも一日の長がある」
「デジタルツインやロボット制御を駆使して、勝ち抜ける工場に変えていくのが我々の使命。日本のモノづくりを面白くしていきたい」。キーエンス卒業生の視線は製造業の将来を見据えている。
(日経ビジネス 上阪欣史)
[日経ビジネス電子版 2022年5月19日の記事を再構成]
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