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アサヒ「生ジョッキ缶」 動画映えで家飲み需要を刺激

日経ビジネス電子版

「もこもこの泡が出てアトラクションみたいで楽しかった」「クリーミーな泡が出てお店で飲む生ビールのようだった」──。

これらは「アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶」を開封した写真に添えてSNS(交流サイト)「ツイッター」に投稿された消費者の感想だ。アサヒビールが4月6日にコンビニエンスストアで先行販売した生ジョッキ缶は、SNSなどを通じたキャンペーンによって潜在需要が膨らみ、販売直後から店頭には本数を制限するポップが並んだ。

先行販売の2日後に出荷を一時停止。4月20日に全国発売したが翌日に再び出荷を止めた。想定外の速さで同月分の98万ケース(1ケースは340ミリリットル24缶)が売れたためだ。6月15日から改めて販売するが、30万ケースに数量を限定している。

生ジョッキ缶はコロナ禍の巣ごもり需要を的確に捉えた商品と言える。缶胴内側には特殊な塗料を焼き付けたクレーター状の凹凸がある。開封時に缶内の圧力が解放されると、この微細な凹凸部分から発泡する仕組みで、こんもりと白い泡が広い飲み口を覆う。泡の触感やビールの香りを楽しむ体験価値が差異化のポイントだ。アサヒビール・ビールマーケティング部担当副部長の宇都宮敬氏は「動画との親和性が高く、1月から4月にかけて戦略的に情報を開示してきた」と明かす。

生ジョッキ缶を公表したのは1月の年初発表会。発売日までの3カ月を戦略的なマーケティング期間と定めた。ターゲットとしたのはビールになじみのない20~30代。アサヒビールはワイドショーやバラエティー番組での露出を狙った。2月にはお笑い芸人の松本人志さんがテレビ番組で商品を取り上げている。こうした情報を視聴者がSNSで拡散することで、販売前から潜在需要が広がり始めた。

宇都宮氏は「『おいしい』とアピールしても味はモニター越しに伝わらない。生ジョッキ缶は開封して泡が出るなどの『動き』に特徴があるため、視聴者に『試してみたい』と思ってもらえるビジュアルの情報発信に注力した」と説明する。

インフルエンサーが魅力を拡散

SNSでいち早く情報を伝達するには多くのフォロワーを抱えるインフルエンサーへの訴求が欠かせない。アサヒビールはツイッターや写真を媒介にしたSNSの「インスタグラム」、動画配信の「ユーチューブ」などで活躍するインフルエンサーなど影響力のある2000人に発売前の商品を送って先行体験者となってもらった。彼ら、彼女らが写真や動画とともに語る体験談を名詞、動詞、形容詞とキーワードで拾い上げ、消費者の楽しみ方を分析。当初の狙い通りSNSでは「泡」「フタ」などの単語が目立ち、「すごい」「楽しい」などの好意的な言葉も多かった。

もっとも、SNSを活用したマーケティングはもろ刃の剣でもある。過去にない飲み方を提案する商品であるため、否定的なコメントが拡散すれば発売前から悪印象がついてしまうのだ。例えば、12度以上で開封すると泡が吹きこぼれることがある。実際にそうしたコメントがSNSで配信された事例もあった。「継続的においしく飲んでもらうため、缶には大きく『生ジョッキ缶の楽しみ方』を表示した」(宇都宮氏)。2次元バーコード(QRコード)も印刷しており、スマートフォンなどで読み込めば飲み方を解説した動画が流れる。

しかし、高い需要に対して数量限定の販売となっており、現状では供給責任を果たせていない。消費者は商品が入手できないことにフラストレーションを感じる可能性がある。買い占めた商品を高額転売する事例もアサヒビールのお客様相談室に寄せられているという。転売をやめてもらうようにフリーマーケットのサイトやアプリを運営する会社と協議しているが、個人間の売買を制限するのは難しい。6月の再発売以降の計画も未定という。こうした状況は長期化するとみられる。

供給のボトルネックは缶のふたの不足にある。アサヒビールはマーケティングの成果も勘案しつつ、国内製缶会社に依頼して生産計画を年間300万ケースから400万ケースに増強してもらっていた。しかし3割増の生産体制でも需要の上振れを補えなかった。ふたを製造する会社は新たな生産ラインの増設を進めており、担当者は「生ジョッキ缶のふたは食品缶詰などに使われているものだが、飲料向け市場に出すのは初めてとなり、現状の設備では増産が難しい。新ラインは秋以降に整備される見通しだ」と説明する。

(日経ビジネス 江村英哲)

[日経ビジネス電子版 2021年5月18日の記事を再構成]

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