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NTT、「光の半導体」で限界突破 電気から技術転換

日経ビジネス電子版

現実世界と仮想空間が混然一体となった高度なデジタル社会。膨大な情報量を処理するため世界中でデータセンター需要は右肩上がりとなり、電力消費量は爆発的に増える見通しだ。このままではカーボンゼロ実現のお荷物になりかねず、米国のグーグルやアップルなどGAFAは発電時に温暖化ガスを出さない再生可能エネルギーの導入を急ぐ。

だが、難局を乗り切るには電力消費量そのものを大幅に減らす技術革新を起こすしかない。限界を突破しようと、国内通信のガリバー、NTTが開発を進めるのが「光の半導体」計画だ。

次は芝生にいるバッタの視点で頭上を飛ぶボールを見てみよう――。近い将来、こんなふうに好きな場所や視点から、サッカーの試合のゴールシーンを視聴できるようになる。NTTの研究企画部門で次世代通信基盤IOWN(アイオン)の推進を指揮する川島正久氏は、技術革新によってどこにいても可能になる新たなスポーツ観戦のスタイルを紹介する。

仮想空間「メタバース」上での映像表現などで使われる「ボリュメトリックビデオ」技術では、現実世界の場所や人物を撮影して3次元データにして取り込む。立体映像として360度全方位の自由な位置や角度から見ることができる。

何台ものカメラで撮影した映像をコンピューター処理して再合成するため、リアルタイム中継するには、毎秒数百ギガ~数テラビットのデータを転送する必要がある。テラビット級の無線伝送を目指すアイオンだから実現可能な世界だ。

アイオンでは受信アンテナを膨大に配置し、データを処理する機能をクラウド上で共有する。そして、分散しているデータセンターをぶどうの房のようにつなげて、ひとかたまりのように動かす。システムの隅々まで光通信を張り巡らせることによって、「高速かつ遅延のない大容量データの受け渡しと、超低消費電力を両立できるようになる」(川島氏)という。そして、このアイオンを支える中核技術の一つが次世代の半導体だ。

半導体チップに「光」の通る回路を作り情報を処理する

かつてない技術をひっさげて、通信の巨人が新たな情報通信革命を起こそうと牙を研ぐ。神奈川県厚木市の丘陵地にあるNTTグループの研究所。緑に囲まれたこの研究所のクリーンルームなどで「光の半導体」の技術研究開発が進んでいる。

正式には光電融合デバイスと呼ばれる。フォトニックネットワークデバイスプロジェクトの亀井新プロジェクトマネージャが、開発したチップを見せてくれた。亀井氏によれば「従来の半導体上で電子回路が担ってきた情報のやり取りを光回路に置き換える」という。

電子が通る銅配線のかわりに、シリコンに光を閉じ込めて通す道「光導波路」を形成する。従来のように半導体工場の製造工程で生産することができる。電子ではなく、より高速の光を使って、情報を伝えて処理することで、「これまでにない超低消費電力、超高速処理で半導体が動くようになる」(亀井氏)のが特徴だ。

どういうことか。NTTは現在でも通信回線に光ファイバー回線を使って「光」で情報を伝えている。2030年の実現を目指す次世代通信基盤のアイオンではネットワークに加えて、端末やチップの中でも「光」で情報を処理する。光を電気信号に変換する装置がいらなくなり、電力損失や処理の遅れが大幅に減る。

「限界打破のイノベーション創出」。NTTはこうしたスローガンを掲げて電気の時代から光の時代へとパラダイムシフトを図る。壮大な技術転換を決断したのは、大容量データやエネルギーの送受信を電気だけには頼れないと判断したからだ。

あらゆるモノがネットにつながるIoTや、人工知能(AI)などが進化したデジタル社会では、世界全体のデータ量が爆発的に増加する。2010年に2ゼタバイト(ZB、ゼタは10の21乗)だったのが、15年後の25年には90倍の175ZBになる見込みだ。これに伴ってデータセンターを中心に電力消費量は急拡大する。科学技術振興機構の推計では、国内のデータセンター消費電力は、30年に18年比で6倍の900億キロワット時に達する。

こうした将来にNTTは強い危機感を持つ。有効な対策を打たなかった場合、NTTの温暖化ガス排出量は40年に13年比で1.8倍に増えてしまう。これをアイオン導入効果で45%、再生可能エネルギー利用拡大で45%引き下げて、40年度までにカーボンニュートラルを実現させるという壮大な構想を持つ。

半導体を「抜本的に生まれ変わらせる」

この実現には、通信網を支える半導体の進化が欠かせない。既存の半導体は微細化が物理的な限界を迎え、計算量当たりの消費電力を引き下げることが難しくなっている。そのためNTTは半導体を「抜本的に生まれ変わらせる」ことを決断したわけだ。アイオンにより消費電力は100分の1、伝送容量は125倍、遅延は200分の1となる性能向上を目標としている。

「その昔、真空管ラジオからトランジスタラジオに変わって、サイズが小さくなり電力効率も劇的に良くなった。電気を光に変えるのは、そのくらいのインパクトがある。最終的には決して逆戻りしないイノベーションになるだろう」。冒頭で紹介したIOWN推進室の川島室長はこう力説する。

スポーツやエンターテインメントでの活用だけではない。完全自動運転車による次世代移動サービス「MaaS(マース)」、遠隔ロボット制御、スマート工場などでの活用が見込まれる。

例えば、アイオンを使えば「仮想発電所(バーチャルパワープラント)も実現しやすくなる」という。

大規模な発電所による広域給電から、小型分散電源を生かした新たな電源システムの在り方が模索されている。中小規模の分散電源をまとめて、さながら一つの発電所のように制御し、地域の発電量と消費量のバランスを見て、余っているところから足りないところへ電力を融通する。需給調整システムを安定稼働させるのがアイオンの通信基盤になる。NTTはエネルギー伝送に耐える光ファイバー網も研究している。

「キーとなる光電融合デバイスの開発を24年までに、システムレベルの開発をそれぞれ25年に完了し、26年からは商用サービスを展開する。まずスマートシティーなど象徴的なアーリーユーザーに対して提供し、技術をアップデートし、30年ごろには、より効果の高いものを幅広いユーザーに出していく方針」(川島氏)

光通信が始まったのは1980年代。それからおよそ40年で光ファイバーによる通信速度は6ケタも高速化した。光電融合デバイス、そしてIOWNが実用化されれば、インターネット革命を上回る衝撃を私たちの社会にもたらすかもしれない。

(日経ビジネス 岡田達也)

[日経ビジネス電子版 2022年1月19日の記事を再構成]

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