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伝説の投資マンガ「インベスターZ」、中国進出の成算

日経ビジネス電子版

北海道の名門中高一貫校に入学した少年が学校運営資金を稼ぐ「投資部」に入り、投資を通じて社会と関わり合いを学んでいくマンガ「インベスターZ」。ユニークな設定やストーリーの面白さもさることながら、投資を通じて様々な企業のビジネスモデルや社会の仕組みを学べる内容が相まって大ヒットし、テレビドラマにもなった。

その「インベスターZ」が1日、中国進出を果たした。中国版のタイトルは「大エイ家―新投資者Z」。「エイ」の漢字は現在の日本ではほぼ使われないが「勝つ」という意味の文字だ。日本流のタイトルにすれば「ザ・ビッグ・ウィナー」といったところだろう。

現在の中国のマンガ市場における主戦場は、スマートフォン向け配信だ。日本では見開きの雑誌や単行本を前提にしたコマ割りのマンガが主流だが、中国においてはスマートフォン上でストレスなく読める形式でなければ読者に受け入れられない。

そこで中国の人気マンガ家、転輪手槍(リボルバー)氏がウェブトゥーンというスマホに特化した縦スクロールで読めるフルカラーのデジタルコミックにリメークした。「快看漫画」「騰訊動漫」「微博動漫」など複数の中国向けマンガ配信プラットフォームで連日配信している。

インベスターZの作者である三田紀房氏は、リボルバー氏とのミーティングにおいて「キャラクターや設定も変えてかまわない。中国の事情に合わせてリボルバー氏が描きたいように描いてほしい」と助言している。その言葉の通り、舞台設定も中国経済の今を大きく反映したものになった。

中学1年生だった主人公は、中国版では貧乏な大学生だ。中国では中学生や高校生は「高考」と呼ばれる全国共通大学入試で高得点を取ることを目標にして猛勉強に日夜励んでおり、日本ほど放課後のクラブ活動が活発ではない。また、現実には未成年による株式取引口座の開設も認められていない。複数人の仲間が集まりある程度の時間を使って投資活動を行うなら、大学生という設定が自然だ。

主人公は学業の傍ら、フード宅配のアルバイトをしている。こうした配達員は今、中国の街中を歩いていて最も目に付く存在であり読者にとってもなじみ深い。主人公が最初に株を買うのも、このアルバイト先の企業だ。投資が決して日常生活から縁遠いモノではないことが、自然に理解できるようになっている。

三田氏とエージェント契約を結んでいるコルクの佐渡島庸平氏は「中国で(スマートフォンによるマンガ配信などの)プラットフォームが普及し、良いタイミングと考えている。日本のコンテンツは中国市場と親和性が高く、この市場にもっと積極的に取り組んでいきたい」と中国進出の意義を語る。

「質が高い日本のマンガというだけで受け入れてもらえるかは分からない。中国のSNS(交流サイト)でもファンが多いリボルバー氏にリメークしてもらうことで、受け取ってもらいやすくなる」(同)

リボルバー氏は「インベスターZのような素晴らしい作品のリメークを担当させてもらえるのは光栄だ。投資に興味を持つ人が最初の読者ターゲットになるだろうが、現在は様々な経済のトピックが注目を集めるようになっている。投資に興味がない人にも受け入れてもらえるよう、ストーリーの面白さを意識しながら多様な読者に訴求していきたい」と意気込みを語る。

証券会社にマンガ配信

中国版インベスターZを実現させたキーマンがいる。上海とシンガポールでファミリーオフィスを運営する出口信也氏だ。投資教育にも力を入れており、2019年から各国の学生に実際の投資を通じて学んでもらうプロジェクト「Z世代投資クラブ」を運営している。

米国や英国、シンガポール、中国など各国から学生の参加者を募り3~5人のチームに編成。「20年は全体で33.7%の利益を生み出した」(出口氏)。利益の2割は貧しい家庭出身の子供が大学に進学するために提供しているという。インベスターZは、この取り組みにおける教材としても活用してきた。

出口氏が関わったことで生まれた、中国版インベスターZ独自の新しい配信先がある。中国で海外株式を売買する人に人気がある富途証券のアプリだ。「配信開始から3週間弱で延べ280万回以上閲覧された」(出口氏)。今後、中国の株式情報交換サイトなどでの配信も計画しているという。

インベスターZは、ユーグレナを起業した出雲充氏や、堀江貴文氏など実在の企業や経営者が登場したことが話題を呼んだ。投資をテーマにしたマンガとしての魅力が高まるばかりでなく、企業にとっても一般読者に事業内容などを理解してもらえるメリットがある。中国版でも今後ゲーム大手企業などが実際に登場する予定だという。

中国本土の株式市場における個人投資家は1億9000万人程度とされ、14億人という人口と比べればまだ少ない。ちなみに東京証券取引所によれば日本のそれは5981万人だ。中国の株式市場に参加する人の多くが短期売買での利益獲得を目標にしており、投資についての考え方は未成熟というのが実態だ。

「今回の取り組みを通じて、中国に長期投資や分散投資と言った投資の王道を広めることに貢献できればうれしい」と出口氏は語る。インベスターZが成功するかどうかは、日本のマンガビジネスが中国市場で成功できるかという以上の意味を持っているのかもしれない。

(日経BP上海支局 広岡延隆)

[日経ビジネス電子版 2021年10月19日の記事を再構成]

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