自転車向けから病院向けへ 変化で生き残る
先読みウェブワールド(野呂エイシロウ氏)
このコラムを書いていて面白いことがいくつかある。すでにこの世の中から消えた企業、サービスはいくつもある。それはスタートアップ企業の運命のようなものだが、うまく変化した企業にも出会えるのだ。2016年5月の本コラムで取材したペダルノート(東京・豊島)は当時、盗難自転車の追跡サービスを手掛ける企業だった。それが6年の歳月を得てガラリと事業内容が変わっていたので再度取材した。
新事業は、医療機器が病院内のどこにあるのかを常に可視化するというサービスだ。ビーコンを付けた自転車をスマートフォンのアプリで追跡するという盗難防止サービスで蓄積したノウハウが、今度は医療現場で役に立っているようだ。

早速、社長の小原芳章氏にその経緯を聞いた。「自転車盗難防止サービスを手掛けている際、たくさんの問い合わせがあった。その中に、ある医大から医療機器に関する問い合わせもあり、私たちの"探す仕組み"をいかせば、病院内の機器(の位置)を可視化できるんじゃないかと考えた」(小原社長)
当時、小原社長は盗難された自転車を街中で追跡するサービスには、発信器の普及など成長に向けては課題があると感じていた。病院内の医療機器の追跡サービスにビジネスを切り替えられないか考えた。
小原社長らは、医療機関を訪問し、現状を調査した。すると、調査した中で多いところでは、7000以上もの医療機器を抱えていたという。これを臨床工学技士(ME)たちがメンテナンスをしているが、毎朝貸し出している機器が病院内のどこにあるか探すところから業務が始まるなど、無駄な時間が多かったことに衝撃を受けた。
そこで、場所が一瞬でわかり、更にメンテナンスの周期も管理、報告業務も簡素化できるサービスを提供することにした。医療機関からは「『24時間所在管理ができているので、機器を探すなどの時間が少なく会議リポートの提出が楽になった』などの意見をもらっている」などの反応があるといい、小原社長は手応えを感じている。

このサービスはスマホ連携とすることで使いやすい、医療機器の稼働時間などの情報を電子カルテと連携すると診療請求漏れがなくせる、といったメリットもあるという。すでに大学の医学部付属病院などの地域の基幹病院で導入されているという。
「医療現場の人たちは、アナログ的な環境のなかで時間が浪費されていることもある。この無駄な時間をなくすことで、病院が確実に安全な診療ができる環境を提供し、医療の現場をITの側面からサポートしたい」と小原社長。ペダルノートは自転車の盗難防止サービスを手掛ける企業から、医療現場の"見張り番"としてのIT企業へと生まれ変わったのである。
今月14日には、SBIインベストメントなどが設立したコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)などから資金調達したことも発表した。今の時代、カメレオンの様に変化する企業だけが生き残っているといっても過言ではない。長年、連載をしていると企業の変遷にも立ち会えるものだと実感した。
[日経MJ2022年1月24日付]