「黒死病」の起源は中央アジア DNA分析で解明
ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所などの国際研究チームは、14世紀に欧州などで感染症のペストが大流行した「黒死病」の起源が中央アジアにあることを解明したと発表した。キルギスの墓地から発掘された人の歯から、感染していたペスト菌のDNAを解読し、黒死病で流行した菌の祖先にあたることなどを突き止めた。黒死病の起源には中国など複数の仮説があり未解明だった。

独テュービンゲン大学や英スターリング大学とカザフスタンなどの国際研究チームの成果で、英科学誌ネイチャーに論文を発表した。ペストは細菌のペスト菌による感染症で、主にペスト菌に感染したネズミなどの血を吸ったノミが媒介して人にうつる。
黒死病の1346~53年の流行は欧州や中東、アフリカ北部に広がり、これらの地域の人口の6割が死亡したともいわれる。これをきっかけにペストの第2次パンデミック(世界的大流行)が始まり、19世紀半ばまで500年近く続いた。黒死病の起源には中国などの東アジア、黒海とカスピ海に挟まれたコーカサス地方など複数の仮説があり、論争が続く大きな謎だった。
研究チームはキルギス北部にある2カ所の墓地の遺跡に注目した。調査記録によると黒死病が始まる直前の1338~39年に埋葬が急増し、疫病で亡くなったとの碑文も残っていた。墓地から発掘された7人の歯に含まれるDNAを分析し、そのうち3人から同じペスト菌のDNAを検出することに成功した。
このペスト菌のDNAを第2次パンデミックで流行した菌などと比較すると、黒死病の菌の祖先にあたることが判明した。さらに現代のペスト菌の中では、キルギス東部など天山山脈周辺のネズミ類から見つかった菌に最もよく似ていた。キルギスを含む中央アジアのネズミ類に感染していたペスト菌が交易などを通じて西に伝わり、黒死病の起源になったと結論づけた。