「謝罪会見を開かない」は賢いか あるメーカーの教訓
不祥事はいつでも起こり得る。事業を営んでいる限り、隣り合わせのリスクだ。実際に不祥事が起こってしまったら、経営の危機ととらえて対応することが必要になる。多くの場合は謝罪することになるが、ソーシャルメディア上で炎上が止まらず、信頼を回復できないケースが後を絶たない。
謝罪を巡って取り上げたいことの一つに「会見を開かない」という企業のトレンドがある。個人がネットで情報を収集することを前提に、自社のウェブサイトに謝罪文を載せるケースが増えた。会見を開くべきかどうかの境界線はどこにあるのか。最終的に会見を開いたものの、事案発生から時間が経過して傷口を広げた三幸製菓(新潟市)の例を見てみたい。
◇ ◇ ◇
2月11日深夜、新潟県北部の村上市にある荒川工場で火の手が上がった。おかき餅の生産ラインにあった焼釜室からの出火で、従業員6人が死亡、1人が負傷した。安全確認を優先するため、他の工場を含め全ての生産をいったん停止させた。

三幸製菓は「雪の宿」や「チーズアーモンド」で知られ、亀田製菓に次ぐ業界2位。知名度は高く、様々な関係者にショックを与えた。火災の後、13日の日曜日にウェブサイトで事故の経緯を報告。遺族や地元の関係者、消費者などに向けて謝罪した。
だが、記者会見はすぐに開かなかった。地元メディアの報道によると、遺族や記者クラブが会見を開くよう求めたが、「検討する」との回答が得られただけだったという。
最終的に会見を開いたのは約3カ月半後の5月末。時間がかかった理由について、三幸製菓の担当者は「火災事故調査委員会の調査がまとまり、5月末の時点で想定し得る原因と再発防止策を説明できる状況になったから」としている。
企業はどんな事案の場合に会見を開くべきなのだろうか。
会見を開くべき3つのケース
企業広報戦略に詳しい上智大学非常勤講師の黒田明彦氏は(1)人命や健康に被害が出ている場合(2)メディアから会見要請があった場合(3)監督省庁が説明を求めた場合――の3点を挙げる。
企業のリスク対策を支援するエルテスの國松諒ソリューション本部リスクモニタリング部長は、三幸製菓について「会見をすぐに開くべきだった」と話す。
開かないと、次のような流れになるケースが目立つ。あるメディアが事案について報道し、その後さらに別のメディアが深掘りする形で、間を置きながら順番に取り上げられやすい。結果として、批判が長期化する。
実際に三幸製菓の場合、火災から半年以上たっても複数のメディアが特集を組み、そのたびにネットで「二度と買わない」という声が上がった。
アンチファンが増えてしまう
國松氏は「会見をしないとアンチファンが増えかねない。例えば、企業が新商品を発表したときに、不祥事のことで何も説明していませんよねと指摘されてしまう」と話す。同社の商品を扱う東京都内のあるスーパーは、消費者から「問題のある企業の商品を売るのはいかがなものか」と指摘され、目立たない棚に陳列するようになった。
日本リスクマネジャー&コンサルタント協会(東京・渋谷)の石川慶子副理事長は「会見には、謝罪をより広く周知させる上でメリットがある。トップの姿勢も伝えやすい」と語る。資料を棒読みするような会見の様子が伝わるとマイナスに働いてしまうのだが、謝罪は対面で行うことが望ましいという通念を考えれば、ネットで一応の対応ができる現在でも会見は意味を持つ。
さらに、謝罪の会見を開くのであれば企業はいつ、何を企図して行うのかを明確にすることが欠かせない。黒田氏によると、不祥事を起こした企業は4つの局面を経て信頼を回復させていく。その過程で2回、会見すべき時期があるという。

まずは事案が発生したとき、企業は信頼失墜期にある。レピュテーション(評判)や株価が下がる局面だ。この下落を食い止めるのが、事案の状況や対策を説明し、さらには原因を究明していくと宣言する会見だという。会見で評判などの下落がほぼ止まる信頼停滞期に入る。そこから信頼を上向かせていくのが原因と責任の所在、再発防止策を説明する会見だ。
三幸製菓は5月末の会見で、再発防止に向けた避難対策や発火対策、延焼対策を講じると発表した。せんべいくずや電気配線からの発火をどう防ぐか、発火した場合はどのように早期発見するかなどについて、図やイラストを用いて解説した。その後には、9月から荒川工場を再稼働させたことなどをサイトで報告している。今後は再発防止策が継続、徹底されているかの報告も必要になるだろう。
東京オリンピック・パラリンピックを巡る汚職事件。組織委員会の元理事・高橋治之容疑者が、電通OBの立場を利用して贈賄側企業に便宜を図り謝礼を得たとされる。
AOKIホールディングスやADKホールディングスなど様々な企業のトップが立件される中、唯一会見したのがKADOKAWAだ。角川歴彦元会長らの逮捕・起訴について、夏野剛社長が謝罪した。企業の危機管理広報を支援するエイレックス(東京・港)の江良俊郎代表は「さすがだったのは調査委員会の報告書をすぐ出したこと」と話す。
8月に会社関係者が特捜部の聴取を受けると、外部弁護士からなる調査チームを設置。聞き取りやメールの解析を事前に進めていて、10月5日の会見で中間結果を報告した。専門家は「汚職問題の裁判が始まれば、やり過ごそうとする企業への批判が出る。早い段階で謝罪したのは正しい選択」と指摘する。
(日経ビジネス 朝香湧)
[日経ビジネス電子版 2022年12月16日の記事を再構成]
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
この投稿は現在非表示に設定されています
(更新)
関連リンク

企業経営・経済・社会の「今」を深掘りし、時代の一歩先を見通す「日経ビジネス電子版」より、厳選記事をピックアップしてお届けする。月曜日から金曜日まで平日の毎日配信。
関連企業・業界