Google、AI×デジタルツインで物流の課題解決

今日のサプライチェーンの問題の多くは、業界が細分化し、デジタル化が進んでいないことにより深刻化している。
このため、特にAIと機械学習を使って可視性と効率を高められるテック企業にチャンスがもたらされている。2023年には世界の組織の推定60%がデジタルサプライチェーン技術への投資を計画している。
巨大テック各社は気象や電子商取引(EC)など広範なデータへのアクセスや、独自のAI・機械学習システムにより、「ファーストマイル(工場などから最初の物流拠点まで)」から「ラストワンマイル(最寄りの物流拠点からエンドユーザーまで)」までのサプライチェーン業界に貢献できる特有の位置に付けている。
特に米グーグルはクラウドコンピューティングの強みと地図アプリ「グーグルマップ」を通じたリアルタイムの物流データへのアクセスを生かし、新たなサプライチェーンツールを提供している。これによりクラウドの既存顧客にさらに広範なサービスを提供し、いずれは米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)などの上位クラウドから市場シェアを奪う可能性がある。

今回のリポートでは、グーグルのサプライチェーン戦略を3つのポイントに分けて説明する。
・自社のAI・機械学習をサプライチェーン製品に活用:グーグルマップなど既存の消費者向け製品を活用して、サプライチェーン管理者が配車を迅速化し、配送ルートの計画を効率化できるソフトウエアを提供している。
・デジタルツインでサプライチェーンを刷新:物流の問題点をより正確に追跡し、予測するため、デジタルツインを活用したサプライチェーンのシミュレーションをいち早くとり入れている。
・サプライチェーンのサステナビリティーに投資:複数の事業分野を通じて原材料や燃料などの資源を追跡することで、サプライチェーンのサステナビリティー(持続可能性)を推進する製品を開発したり、提携を結んだりしている。
自社のAI・機械学習をサプライチェーン製品に活用
グーグルは最近、自社の既存AI・機械学習機能を活用したサプライチェーン管理者向けソフトウエアを次々と提供している。例えば、
・22年に提供を開始した「オプティマイゼーションAI(Optimization AI)」は、ファーストマイルとラストワンマイルの配送ルートを計画するAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース=システム同士が相互に連携するための技術仕様)だ。交通状況など短距離ルートの計画の問題点を解決し、配達目安を短縮することで、サプライチェーン管理者が燃費と時間効率の面で配車計画を最適化できるよう支援する。
・同じく22年に提供を開始したラストワンマイル車両管理システムは、このAPIと同期してグーグルマップの分かりやすいインターフェースを配達員に提供し、速やかな配達を支援する。
こうした製品は現在、既存テクノロジーへの追加かフルシステムとして利用できる。既存の旧来型システムからの切り替えがすぐには進まない顧客が多いことを考えると、この市場開拓戦略は非常に重要だ。

さらに、グーグルは米物流大手XPOと提携してクラウドで積み荷や配送ルートを最適化し、XPOの顧客を支援している。サプライチェーンの自動化を手掛ける米デマティックとも組み、ECやオムニチャネル(店舗とECの統合)の受注配送管理にAI・機械学習技術を提供している。
歴史的なインフレ、燃料費の高騰、人手不足によりサプライチェーンは不経済になりつつある。こうした影響を軽減し、収益性を高めるために、企業はサプライチェーンの一部内製化に資金を投じている。
グーグルクラウドは既に小売りから医療まで様々な業界の大手企業をサポートしている。サプライチェーン機能の拡充に伴い、こうした顧客企業のサプライチェーンの要求拡大に対応しようとしている。
グーグルマップから物流データを取り込むことで、グーグルのサプライチェーン支援サービスと、米アマゾン・ドット・コムの企業物流一括受託サービス「サード・パーティー・ロジスティクス(3PL)」の違いを出せる。
デジタルツインでサプライチェーンを刷新
デジタルツインは現実空間の物体やシステムを仮想空間に再現する技術を指す。これにより、起こり得るシナリオをモデル化できる。
サプライチェーンのプランニングでは、その企業のサプライチェーンのボトルネック(目詰まり)や天候、交通など様々なソースのデータを組み合わせて可視性を高め、環境を予測し、在庫を最適化し、プロセスの改善点を特定できる。
高度なクラウド基盤や演算機能を持つ巨大テック各社は、サプライチェーン向けデジタルツインの開発をけん引している。グーグルは21年7〜9月期、グーグルクラウドのエコシステム(生態系)内でデジタルツインを作成するツール「サプライチェーンツイン(Supply Chain Twin)」を発表した。
サプライチェーン大手各社はこのツールで武装し、オペレーションを効率化するために戦略的判断を下したり、予期せぬ物流問題が発生した際に遅延を軽減したりできる。このツールの使用により、グーグルの顧客の分析処理時間は最大95%減少した。
グーグルは買収や提携も活用し、デジタルツインを強化している。例えば、以下の通りだ。
・22年には環境データを提供するイスラエルのブリーゾメーター(BreezoMeter)を買収し、サプライチェーン全体で地域の環境をより正確にモデル化できるようになった。
・法人向けAIを手掛ける米シースリーAI(C3.ai)と提携し、シースリーの製品をグーグルクラウドに搭載した。これによりサプライチェーン管理者は運転手や配送車両、荷物の潜在リスクをより正確にモデル化できるようになった。

グーグルの他のサプライチェーン製品と同様に、サプライチェーンツインは同社がクラウドコンピューティング機能を拡充して追加収入を得る手段になる。
物流分野は細分化が進んでいるため、ネットワーク全体でデジタルツインを構築するのは難しい。だが、グーグルは既存のクラウド製品や幅広い顧客層、他社の買収や提携により、サプライチェーンというパズルの組み立てを支援できるだろう。
サプライチェーンのサステナビリティーに投資
多くの業界では、サプライチェーンは温暖化ガス排出量の80%以上を占めている。
グーグルはサプライチェーン管理の取り組み全般で、持続可能で強じんなサプライチェーンの構築により顧客企業の排出量削減を支援しようとしている。グーグル自身は30年までに二酸化炭素(CO2)を排出しないカーボンフリーエネルギーでデータセンターを運営する目標を掲げており、現在は事業運営でのカーボンニュートラル(CO2排出量実質ゼロ)を達成している。
サプライチェーンツインなどグーグルのクラウドを活用したサービスにより、サプライチェーン大手各社はより正確な分析を受け、どのプロセスが改善可能かを判断できる。例えば、配送車の積載効率の改善や追跡精度の向上、燃費の良いルートの走行が可能になる。米物流大手UPS はグーグルクラウドの分析プラットフォームを活用し、燃料消費量を年間1000万ガロン削減している。

サステナビリティーの目標を達成するため、グーグルのデータをサプライチェーンのさらに早い段階でとり入れることも可能だ。例えば、英食品・日用品大手ユニリーバは「グーグルアース」の衛星画像とAIを活用し、自社のサプライチェーンでの森林破壊を検知している。
グーグルは21年、米ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)とエネルギー大手のイタリア炭化水素公社(ENI)と提携し、企業が自社のサプライチェーンの環境への影響を測定し、エネルギー移行で協力できるプラットフォーム「オープネス(Open-es)」を設立した。
グーグルはデータ分析だけでなく、配達手段の実験も進めている。親会社の米アルファベットは22年時点で、傘下のドローン(小型無人機)配送企業ウィングによるラストワンマイル配送を25万回以上完了している。
規制当局や消費者がドローン配送を受け入れるようになれば、グーグルはドローンを組み込んだフルシステムを提供する可能性がある。ドローン配送での荷物1個あたりのCO2排出量はディーゼルトラックよりも84%少なく、エネルギー消費量も94%少ない。
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