経営は再現性のゲーム
SmartTimes グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナー 高宮慎一氏
投資の世界ではスタートアップ投資にしても上場株投資にしても、一時的に市場の平均や指数などの基準を超えてリターン(投資利益)を出すことは、さほど重要視されていない。真に重要で難しいのは、長期間持続的に基準を超え続けることだ。

市場参加者全員が同じ投資家としての力をもっていたとすると、投資を繰り返せば繰り返すほど、皆が同じ市場の平均的なリターンに収束するし、おのおのが異なる力だとすると、おのおのの実力通りのリターンに収束する。
そのなかで、自らの強みがある業界や経営の知見にもとづくことで、再現性をもって持続的に超過リターンを生み続けることが重要なのだ。
そのような観点では、スタートアップをはじめ事業会社の経営も同じく再現性のゲームと捉えることができる。経営の意思決定において、その時点の外部環境下で、または限られた手持ちの情報で圧倒的な正解でなくとも、合理的に考えうる中での最善手の意思決定をする。
そして、外部環境が変化したり、事業の検証が進み手持ちの情報が増えたりしたら、再度最善の打ち手を繰り返す。仮説・検証ともなった形で最善の意思決定を繰り返していくことで、一回一回の意思決定自体は競合に勝つ時もあれば、負ける時もあるかもしれない。しかし、長期的な繰り返しの中で、トータルで見た時に勝つことができる。
事業やプロダクトをゼロからイチを生み出す初期においては、クリエーターの属人的なひらめきや天才性に依存せざるを得ない部分もある。その属人性を超えて、再現性をもって競合よりも少しでも高確率でヒットを生み出し続けることが経営の役割となる。
どんなに優れたクリエーターでも毎回当てることは難しく、一定確率でしかヒットは生み出せない。長期的にトータルで見た時のヒット確率を上げるためには、クリエーターの回転効率を上げるしかない。クリエーターでしかできないゼロイチのフェーズを超えた時、または当該プロジェクトの失敗が確実になった時には、クリエーターを速やかに次の打席に再配置する。
また、たった一人のクリエーターに依存するのではなく、外部から新たにクリエーターを登用したり、職人的な徒弟制度の中でクリエーターの育成を加速したりして、クリエーターの母数を増やすことも経営ができることだ。仕組化や組織化を推進して、長期的な目線で、企業トータルでのヒットの確率を上げ続けていくことも経営の再現性といえる。
スタートアップが、一時の打ち上げ花火に終わらず、ゴーイングコンサーンとして、100年後も世の中に価値を出していくためには、経営の再現性が重要となる。
[日経産業新聞2022年10月26日付]
