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旧Facebookのメタバースの行方、買収企業から読み解く

CBINSIGHTS
米メタ(旧フェイスブック)が仮想空間「メタバース」を事業の柱に据えた。専用端末を用いたゲームやオンライン会議に注目が集まる一方で、同社の戦略の全体像まではまだ明らかになっていない。米マイクロソフトが1月18日に大手ゲーム会社の買収を発表するなど、メタバースを巡る大手企業の動きが激しくなっている。フェイスブックが過去3年間に買収・提携した企業から、同社の今後の注力分野やメタバースの未来を読み解く。

旧フェイスブックはこのほど、デジタル世界を構築する方針を発表し、リアルな世界に衝撃を与えた。2021年10月には社名を「メタ」に変更し、メタバースは大きな話題になった。だが、同社は何年も前から、メタバース構築に向けたツールを淡々と集めてきた。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

例えば、14年にはゴーグル型の仮想現実(VR)端末を手掛ける米オキュラスVRを買収し、この分野の土台づくりに着手した。今ではオキュラスのテクノロジーを使い、ライブイベントからオフィス、ヨガスタジオまでリアルな世界とバーチャルな世界をつなぐ没入型体験を築いている。このつながりが定着すると、メタバースも定着する。

メタバースの未来はまだ完全には明らかになっていないが、メタの経営方針はそのビジョンについて大きな手がかりを与えてくれる。

CBインサイツのデータを使い、メタの過去3年間の買収や提携から同社がメタバースで重視している5つの戦略技術を突き止めた。この5つの分野でのメタとのビジネス関係に基づき、各社を分類した。

・VRゲーム

・VRライブイベント

・職場向けVR

・3次元(3D)マップの作製と世界の構築

・ハードウエア

VRゲーム

すでに実用化されているメタバースの用途のうち、最も優れている用途の一つがVRゲームだ。ユーザーは没入型の環境を探索し、友人と交流し、バーチャルグッズを売買するほか、一部のケースではオリジナルのアバター(分身)や全く新たな仮想世界を構築できる。

メタは19年11月、チェコのVRゲーム制作会社ビートゲームズ(Beat Games)を買収した。ビートゲームズが開発したVRゲームは音楽ゲーム「ギターヒーロー」に似ており、曲のリズムに合わせて飛んでくる仮想ブロックをサーベルで切りつける。プレーヤーは高得点を競ったり、1対1で対戦したりできるほか、米シンガーソングライターのビリー・アイリッシュや米ロックバンド、リンキン・パークの楽曲セットなど、様々なゲームセットを購入できる。

メタはそれ以降、VRゲームを取得し続けている。20年には高い評価を得たVRゲーム「アスガーズ・ラス(Asgard's Wrath)」をリリースしたばかりの米サンザルゲームズ(Sanzaru Games)を買収した。さらに無重力空間を体験しながらパズルを解いたり、ロボットと戦ったりするVRゲーム「エコー(Echo)」シリーズを手掛ける米レディアットドーン(Ready At Dawn Studios)も傘下に収めた。

最近では、人気ゲームの制作方法をVRの世界に応用しているゲーム開発会社を傘下に収めている。21年6月には米ダウンプア・インタラクティブ(Downpour Interactive)を買収した。ダウンプアは「コール・オブ・デューティ(Call of Duty)」にヒントを得たVRゲーム「オンワード(Onward)」を開発した。さらに「VR版フォートナイト」と呼ばれるVRゲームを開発したスタートアップ、米ビッグボックスVR(BigBox VR)も取得した。

買収以外の手段も活用している。21年7月にはアクションゲーム「アサシンクリード(Assassin's Creed)」を手掛けたフランスのユービーアイソフト(Ubisoft)と提携した。同社のゲーム「アサシンクリード・リベリオン(Rebellion)」はメタのゲーム配信プラットフォーム「フェイスブック・ゲーミング(Facebook Gaming)」で配信されている。

VRライブイベント

メタはデジタルとリアルの世界を融合させるため、ライブイベント分野のスタートアップや大手企業と提携している。同社はVRがライブイベントへの標準的な参加方法になるだけでなく、リアルの会場と同じかもっと優れた体験を提供できるようになると期待している。

メタは18年5月に英メロディーVR(MelodyVR)と、20年9月にスウェーデンのタイダル(TIDAL)との提携を発表した。これにより、メタのVRイベントサービス「ホライゾン・ベニュー(Horizon Venues)」のユーザーは没入型のコンサートを体験できるようになった。タイダルはかつて米歌手のカニエ・ウェストやジェイ・Z、ビヨンセなどのスーパースターが共同所有していたことで知られる。同社によると、VRコンサートの観客は「音楽界の大物」のコンサートを他のファンとともに最前列で楽しんでいるような臨場感を得られる。

VRコンサートには音質が良く、列に並ぶ時間が短く、ステージが遮られないなどのメリットがあるため、ユーザー基盤が拡大すれば、メタのライブ音楽会場の利用も広がる可能性がある。ホライゾン・ベニューはファンが世界中のコンサートに出入りする玄関口になる可能性がある。さほど有名ではないアーティストも、メタバースのコンサートで知名度を上げられるかもしれない。ホライゾン・ベニューは小規模のプライベートコンサートからデジタル交流会まで、アーティストが規模を自由に調整してファンと交流する手段も提供する。

職場向けVR

メタは職場にもメタバースをもたらそうとしている。この分野では主に提携に力を入れ、人気アプリをメタの職場向けVRプラットフォーム「ホライゾン・ワークルーム(Horizon Workrooms)」に連携させることを主眼に置いている。

メタは21年10月、「スラック」「マンデー・ドット・コム」「ドロップボックス」など様々なビジネスアプリを自社の仮想世界に連携させると発表した。

メタは仮想オフィスを発展させ、参加企業を増やすための提携も進めている。21年9月にはウェブ会議システム「ズーム」と提携し、ズームのユーザーがホライゾンの仮想オフィスに入れるようにした。仮想オフィスでは社員のアバターが会議テーブルを囲んで集まったり、共有のホワイトボードにアイデアを掲示したりできる。

これにより、メタは提携相手だった米スペーシャル(Spatial)のライバルになった。スペーシャルはビジネスや娯楽向けに仮想空間を構築し、主催している。両社は20年9月、ユーザーが仮想オフィスに入れるホライゾン・ワークルームに似た機能を持つオキュラスのアプリを共同で開発した。

メタはビジネス用サービスを拡大するため、巨大テックにも目を向けている。21年11月にはマイクロソフトと提携し、マイクロソフトの職場向けアプリ「チームズ(Teams)」とメタの同「ワークプレース(Workplace)」に相互運用性を持たせた。この提携は両社間のワークフローを円滑化するのが狙いだ。例えば、チームズのアプリを使っている人物が、ワークプレースのプラットフォームで開催されているライブ動画を視聴できる。

こうしたテック大手は明確にVRで手を組んでいるわけではないが、メタが思い描いているメタバースに何らかの知見をもたらす可能性がある。実際、マイクロソフトもホライゾン・ワークルームと直接競合するVRプラットフォーム「メッシュ(Mesh)」の開発を進めている。相互運用性を高めれば「ネットワーク効果」が高まり、顧客がさらに増える可能性がある。

3Dマップの作製と世界の構築

メタによると、未来の拡張現実(AR)端末が有用なサービスを提供するには、ユーザーの位置や状況(コンテキスト)を詳細に理解する必要がある。こうした情報を得るために、メタは3Dマップの作製を手掛ける企業との提携や買収を進めている。

地図作製がメタのAR戦略とどう関連するのかを知るには、メタの3つのARチームやプロジェクトを理解することが重要だ。

1.リアリティーラボ(Meta Reality Labs):メタの野心的なAR/VR体験の開発を担う部門

2.ライブマップ(LiveMaps):リアリティーラボが19年9月、世界を詳細に表示する3Dマップを構築するために始めた取り組み

3.プロジェクトアリア(Project Aria):20年9月に発表したARハードウエアとソフトウエアの研究開発プロジェクト。ライブマップを土台とする。

メタはライブマップを構築するため、企業買収に動いている。20年2月には英ロンドンに拠点を置くスケープ・テクノロジーズ(Scape Technologies)を買収した。スケープは映像解析技術(コンピュータービジョン)を使って路上の画像を解析し、センチメートル単位の精度を持つ3Dマップを作製する。スケープの地図作製ソフトは、特定の場所でコンテンツを開発しているAR開発者に外販されている。

メタは20年6月、映像解析技術を使って画像をまとめ、精巧な3Dマップを作製するスウェーデンのスタートアップ、マピラリー(Mapillary)も買収した。

さらに最近では、オフィスやビルなど屋内の3Dマップに注目している。21年6月には居住空間や商業空間、公共スペースの3Dマップの最大のオープンデータベースをリリースするため、米マターポート(Matterport)と提携した。

ハードウエア

メタは半導体からリストバンドまで、メタバースの運営に必要となるリアルな装置・部品にも資金を投じている。

例えば、VRゴーグルが有効に機能するには高解像度と低遅延に対応する必要がある。メタは現在、米半導体大手クアルコムと提携し、メタのVRゴーグル「オキュラスクエスト2(Oculus Quest 2)」にクアルコムのチップコンポーネント「スナップドラゴンXR2(Snapdragon XR2)」を搭載している。もっとも、メタは米アップルなど他のテック企業と同じ路線をとり、半導体を自社開発してハードウエアの裁量権を拡大しようとする可能性がある。

メタは19年3月、半導体メーカーの米ソニックスを買収した。フェイスブックの広報担当者によると、この買収は自社にシリコン専用チームを設立する方針と関連があるという。

メタは私たちがAR/VR、さらにはメタバースとやり取りする手段を変える機器の開発も進めている。リアリティーラボは19年9月、脳からの筋肉信号と電気信号によりコンピューターに指示を出すリストバンドの開発を手掛ける米コントロール・ラボ(CTRL-Labs)を買収した。コントロール・ラボのテクノロジーはリアリティーラボが21年に発表した研究成果と一致している可能性が高い。リアリティーラボはこの発表で、AR環境でジェスチャーや動きを命令として読み取る人工知能(AI)を搭載したリストバンドを披露した。

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