2050年炭素ゼロ実現へ IKEAが提携した13社 - 日本経済新聞
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2050年炭素ゼロ実現へ IKEAが提携した13社

脱炭素に対する消費者の目が厳しくなる中、大量生産で安価な家具を扱うイケアにも環境配慮の圧力が強まっている。イケアは2050年までに二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロにすることを目指しており、電気自動車(EV)関連企業などとの提携を進めている。現在のビジネスと環境配慮を両立するためにイケアが提携した企業13社についてCBインサイツがまとめた。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

スウェーデンのイケアは60を超える国・地域に450店以上を展開する世界有数の家具大手だ。無駄を排したミニマルな北欧デザインで知られており、手ごろな価格の家具と大型の体験型店舗で売り上げを生み、支持を得ている。

同社は大量生産した家具を部材に分けて平たくコンパクトに梱包する「フラットパック」方式で販売し、消費者が自分で組み立てるモデルを編み出し、スケールメリットと商品棚のスペースの有効活用でコスト削減を果たしている。低価格は消費者にとっては魅力だが、使い捨てに等しい製品を販売している「ファスト家具」ブランドだとの批判もある。

1943年にスウェーデンで誕生したイケアは今や、サステナビリティー(持続可能性)向上を求める圧力にさらされている。各国政府は企業に対し、CO2排出量の削減を迫っている。例えば、欧州連合(EU)は2030年に域内のCO2排出量を55%削減する目標を掲げている。こうした状況を受け、イケアは原材料から自社製品の使用に至るまでバリューチェーン全体でのCO2排出量を30年までに50%削減し、50年には実質ゼロにする計画を打ち出している。

中長期戦略の一環としてCO2排出削減を優先課題としているのはイケアだけではない。企業の決算説明会ではここ2年、脱炭素やCO2排出削減に関する発言が急増している。消費者も持続可能な企業や商品を優先する姿勢を示している。世界自然保護基金(WWF)は21年、世界で持続可能な商品に関するネット検索数が71%増えたと報告した。最近の複数の研究では、持続可能な商品やサービスにもっと多くの料金を払ってもよいと答えた消費者がかなりの割合に上ることが明らかになっている。

イケアはCO2排出削減のためにどんな対策を講じているのか

イケアはここ2〜3年、配達や商品の輸送、発電など自社事業のCO2排出削減を支援する企業と提携している。

さらに、消費者がより持続可能な暮らしを送れるよう支援するために、他社の買収や提携もしている。例えば、売れ残った食品を販売したり、リサイクルした水をシャワーに使ったり、消費者による中古品の再販を支援したりする企業などだ。

EVの導入

製品輸送は現在、イケアのバリューチェーンのCO2排出量全体の約4%を占めている。同社は気候変動対応計画で概要を示したように、30年までに製品輸送による温暖化ガス排出量を15%、客の来店や宅配サービスによる排出量を50%それぞれ削減する目標を掲げている。この目標を達成するため、配送拠点から家庭までの「ラストワンマイル」や物流拠点や倉庫などをつなぐ中間物流「ミドルマイル」の輸送でのクリーンエネルギー車の利用を支援する企業と提携している。

ラーベングループ(ポーランド)とボルボ・トラック(スウェーデン)

関係:提携

イケアとラーベングループ、ボルボ・トラックは22年、製品輸送にCO2排出ゼロの電動トラックを展開するために提携した。

この電動トラックは再生可能エネルギーを使って充電され、ポーランドにあるイケアの2つの工場間で製品を輸送する。

モーバー(Mober、フィリピン)

関係:提携

イケアは21年、フィリピンでの宅配にEVを導入するため、物流配車プラットフォームのモーバーと提携した。

イケアは同年にフィリピン1号店を開店した。マニラ首都圏での家具の配達にモーバーの電動バンや電動トラックを活用している。

米フルードトラック(Fluid Truck)

関係:出資、提携

イケアの親会社インカグループは21年、フルードトラックの資金調達ラウンド(調達額6300万ドル)に参加した。フルードは法人を対象に宅配用EVトラックのレンタルを手掛ける。

この出資に加え、イケアは米ニューヨーク市での宅配サービスにEVを活用するため、フルードと提携した。イケアは20年、宅配事業でのCO2排出量を25年までに実質ゼロにする目標を打ち出しており、フルードとの提携はこの目標に基づいている。

再生可能エネルギー

イケアは業務での再生可能エネルギーの利用増加などにより、30年までに温暖化ガス排出量を80%削減する目標を掲げている。

もっとも、同社の温暖化ガス排出量のかなりの部分は顧客が家庭で使用する同社の製品の電力消費から生じている。このため、この分野でイケアと提携している企業の多くは、消費者の再エネ発電設備の設置や家庭での再エネ利用を推進している。

米エレクトリファイ・アメリカ(Electrify America)

関係:提携

イケアは22年、米18州の自社店舗でEV充電スタンド225台を提供するため、米エレクトリファイ・アメリカと提携した。

EVを所有する消費者は充電速度(最短30分。速度によって料金が変わる)を選べる。これはイケアが掲げる30年までに客の来店や社員の通勤による排出量を50%削減するとの目標に基づいている。

OX2(スウェーデン)

関係:出資、提携

インカグループは22年、スウェーデンの3つの洋上風力発電プロジェクトの権益49%を再エネ発電会社のOX2から6100万ドル余りで取得した。このプロジェクトが稼働すれば、スウェーデンの電力使用量の25%相当を供給できるとされる。

イケアも18年、フィンランドに4つのウインドファーム(集合型風力発電所)を建設するためにOX2と提携した。約7万6000世帯分の電力を賄う。

米サンパワー、ソーラーゲイン(Solargain、オーストラリア)、スベアソーラー(Svea Solar、スウェーデン)

関係:提携

イケアは22年、消費者の自宅に設置する太陽光パネルを提供するため、サンパワーと提携した。イケアの住宅用太陽光発電システム「ホームソーラー」は現在、米カリフォルニア州で販売されており、全米に拡大する計画だ。

米国外ではソーラーゲインとの提携を通じてオーストラリアで、スベアソーラーとの提携により欧州10カ国で提供されている。

その他(食品、炭素会計、製品)

イケアは消費財の廃棄物削減に関連する温暖化ガス削減目標も示している。

特に食品のサステナビリティー向上に力を入れており、30年までに食品関連の温暖化ガス排出量を25%削減する目標を掲げている。25年までに自社レストランのメニューの半数を植物由来にする取り組みも進めている。

グリーンレベルフーズ(Green Rebel Foods、インドネシア)

関係:提携

イケアは21年、植物由来の代替肉を手掛けるグリーンレベルフーズと提携した。レストランで植物由来食品を活用する取り組みの一環として、イケアインドネシアは植物肉を使った料理4品をメニューに採用した。

イケアは22年時点で、自社レストランでの食品廃棄物を17年比で50%以上削減したとしている。

マッツマート(Matsmart、スウェーデン)

関係:出資

イケアは19年、非生鮮食品を格安で販売するオンライン食品店マッツマートのシリーズB(1800万ドル)に参加した。マッツマートは過剰生産、梱包の破損、季節的なトレンドといった要因により販売が難しい商品を調達している。

ドコノミー(Doconomy、スウェーデン)

関係:出資

イケアのベンチャー投資部門インカ・インベストメンツは22年、企業や個人のCO2排出量を測定するドコノミーの少数株を取得した。

ドコノミーは21年、英北部グラスゴーで開催された第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)で、自らのライフスタイルの選択が気候に及ぼしている影響を測定できる個人向けの「ライフスタイル・カーボン・カルキュレーター」を発表した。

フローループ(Flow Loop、デンマーク)

関係:出資

イケアは22年、水をリサイクルするシャワーヘッドを手掛けるフローループに出資した。イケアによると、フローループのシャワーヘッドは通常の製品に比べて水の消費量を最大80%減らせる。

今後の見通し

イケアはEUに拠点を置く企業であるため、米国など他の国の企業よりも多くのCO2排出削減に関連する課題や規制に直面している。

世界各国の企業によるCO2排出削減に向けた脱炭素分野の活動を考えると、CO2削減戦略は今後もイケアの長期成長戦略の柱になる公算が大きい。一方で、同社は引き続き低コストの家具の大量生産と、CO2排出削減とリサイクルやアップサイクル(価値の高いものへの再利用)の推進とのバランス維持という課題への対応も迫られる。

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