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米ウォルマートの「無人配送戦略」占うテック企業9社

CBINSIGHTS
米小売り最大手のウォルマートが無人配送の本格展開に向けて提携戦略を強めている。米国のスタートアップなどと組み、完全自動運転のトラックによる無人配送やドローン(小型無人機)を使った宅配などの実証実験を進めている。物流の人手不足の深刻化を見据え、新技術を活用しようとするウォルマートの戦略を、同社が提携・出資するテクノロジー企業9社から分析した。

米小売り最大手ウォルマートが無人配送の未来を見据えてどんな戦略をとっているかを理解するため、CBインサイツのデータから同社の提携や出資、M&A(合併・買収)関係を抜き出した。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

ウォルマートは2019年以降、無人運転車による宅配(配送拠点から家庭まで)と中間配送(配送拠点から店舗まで)の両方で他社と関係を築いている。

配送分野の多くの企業にとって、ウォルマートの取引業者やパートナーになれば大きなチャンスが見込める。参考までに、業界アナリスト予想によると27年の無人宅配市場の規模は417億7000万ドル(約4兆7800億円)に拡大する。しかも、これは無人配送市場全体のほんの一部だ。

今回の記事では、ウォルマートの無人配送分野の動きと提携相手――中国インターネット検索最大手の百度(バイドゥ)や米フォード・モーター、米アルファベットなどの大手企業から数々のテックスタートアップまで――を全て分析する。ウォルマートは40年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロにする目標を掲げており、これらの取り組みや提携企業による脱炭素への影響を評価しているようだ。電動の無人配送車の導入も目指している。

宅配スタートアップの全容を理解するには記事「ラストワンマイル配送を変革 スタートアップ95社」を参照してほしい。ウォルマートと関係がある企業も多く登場する。

それでは、ウォルマートのビジネス関係についてみていこう。

ガティック(Gatik、米国)

発表:19年7月、20年12月に拡大

タイプ:提携/実証実験

分野:中間配送

ウォルマートのビジネス関係で最も興味深い案件の一つが、ガティックとの提携だ。これは中間配送で唯一、ウォルマートが公表している提携だからだ。ガティックは19年以降、ウォルマートのオンライン注文専用の店舗(ダークストア)からウォルマートの本社がある米アーカンソー州ベントンビルの食品スーパー「ウォルマート・ネイバーフッド・マーケット」まで、電動の自動運転トラックで商品を配送している。

両社は20年12月、米ルイジアナ州でも無人配送サービスを開始した。21年11月には、ガティックが同年8月からアーカンソー州の配送ルートで完全自動運転車を運行していることを明らかにした。

ガティックとウォルマートの提携は、台頭しつつある小型の物流倉庫・配送拠点(マイクロフルフィルメントセンター=MFC)やダークストアから、店舗や他の配送センターなどの(オンライン注文した商品を受け取る)ピックアップ場所に商品を運ぶニーズがあることを示している。注文から15分以内に配達する「超速宅配」の競争が激化しつつあることを踏まえると(下記のグラフが示す通り、21年1~4月のこの分野への投資額は20年通年の5倍に増えている)、ダークストアは今後重要な戦場になるだろう。

運送業界の人手不足救う 自動化テックに投資資金1兆円」の記事で分析したように、自動運転トラックの分野には豊富な資金力を持つライバルがひしめいている。主なライバルは米コディアック・ロボティクス(Kodiak Robotics)、米エンバーク・トラックス(Embark Trucks)、中国の嬴徹科技(Inceptio Technology)、米国の智加科技(Plus)、米ニューロ(Nuro、ウォルマートと提携)、中国系の図森未来科技(TuSimple)などだ。

アルゴAI(Argo AI、米国)

発表:21年9月

タイプ:提携/実証実験

この提携の別の当事者:フォード

分野:宅配

ウォルマートは米国のフロリダ州マイアミ、テキサス州オースティン、ワシントンDCの3都市での無人宅配の実証実験に向けて、アルゴAI(企業価値72億5000万ドル)と提携している。フォードも加えた3社で提携しており、フォードはアルゴAIの自動運転技術を搭載したハイブリッド車「エスケープ」を提供している。

アルゴAIはフォードが経営権を持ち、独フォルクスワーゲン(VW)からも出資を受けている。米ゴースト(Ghost)や米アプライド・インテュイション(Applied Intuition)などがライバルだ。

クルーズ・オートメーション(Cruise Automation、米国)

発表:20年11月、21年4月

タイプ:提携/実証実験と出資

分野:宅配

ウォルマートとクルーズは20年11月、アリゾナ州スコッツデールで電動の無人配送車を実証実験するために提携すると発表した。ウォルマートは当時、クルーズについて「全ての車両が100%再生可能エネルギーによる電動の自動運転車である唯一の企業だ。当社が掲げる40年の脱炭素目標の達成を支えてくれる」と期待を示した。

ウォルマートはその6カ月後、クルーズに評価額300億ドルで出資し、関係を強化した。ウォルマートは出資を発表した際、こう述べた。

「当社は20年11月にクルーズと提携し、アリゾナ州スコッツデールで宅配サービスの実証実験を始めた。クルーズの他社にはないビジネスモデル、唯一無二の技術、自動運転の実証実験の素晴らしい運営ぶりに感銘を受けた。脱炭素の未来に向けてともに歩める点も評価している」

ニューロ(Nuro、米国)

発表:19年10月

タイプ:提携/実証実験

分野:宅配

ニューロ(企業価値86億ドル)とウォルマートは19年10月、ニューロの自動運転車を使ってテキサス州ヒューストンで食品を配達するために提携した。アリゾナ州フェニックスでの実証実験の成功を受けての動きだった。

もっとも、その後は両社の提携が拡充する兆しは全くみられない。ウォルマートのガティックやクルーズ、フォードなどとの動きを踏まえると、ニューロとの提携は終了したか、小規模にとどまっているようだ。

同社には多くのライバルがいる。無人宅配分野のライバルのうちの3社がウォルマートと提携している。

ドローンアップ(DroneUp、米国)

発表:21年6月

タイプ:提携/実証実験と出資

分野:宅配

ドローンアップはウォルマートのドローン(小型無人機)配送分野での圧倒的な勝ち組のようだ。ウォルマートは後述するようにイスラエルのフライトレックスと米ジップラインとの提携を公表した後、20年にドローンアップとの提携を、21年6月には同社への出資を発表した。

この出資に伴い、ウォルマートとドローンアップは21年11月、アーカンソー州のウォルマート本社からドローン配送サービスを正式に開始した。

フライトレックス(Flytrex、イスラエル)

発表:20年9月

タイプ:提携/実証実験

分野:宅配

ウォルマートは米ノースダコタ州でドローン配送を実証実験するため、フライトレックスと提携した。20年9月には、米ノースカロライナ州ファイエットビルで食品や日用品を配達するために実証実験を拡大した。

ジップライン(Zipline、米国)

発表:20年9月

タイプ:提携/実証実験

分野:宅配

ウォルマートとジップラインは20年9月、アーカンソー州北西部にあるウォルマート本社から半径50マイル(約80キロメートル)以内の地域に「健康・ウエルネス」商品を配送するために提携した。当初の目標から数カ月遅れたものの、21年11月にアーカンソー州ピーリッジのウォルマートの店舗でサービスを開始した。

前述したように、ウォルマートはドローン配送で複数の提携に乗り出している。ドローン配送や他の宅配サービスを手がける多くの企業がウォルマートと提携している。

ウェイモ(Waymo、米国)

発表:18年7月

タイプ:提携/実証実験

分野:宅配(やや独特)

ウェイモ(アルファベット子会社)とウォルマートの提携は締結から3年以上たつが、アリゾナ州での実証実験以外には発展していないようだ。このため、最も興味深く「へそ曲がりな(理解しがたく奇妙な)」提携の一つになっている。

この実証実験では、顧客に食料品を配達しない。顧客はまずウォルマートのサイトで食品を注文し、割引サービスを受ける。ウォルマートの店員が注文の品を用意する間に、ウェイモは顧客が注文した品をスーパーまで受け取りに行くための移動手段を提供する。

これは確かに奇妙な提携といえる。注文した食料品を車に乗って取りに行かなくてはならないという利便性ゼロの送迎サービスを想像してほしい。

このサービスの売りは割引だったのだろう。うまくいかなかった点を知る由もないが、ウォルマートが提携と出資を通じてクルーズと密接な関係にあることを考えると、ウェイモは、はみ出し者だったようだ。

ユーデルブ(Udelv、米国)

発表:19年1月

タイプ:提携/実証実験

この提携の別の当事者:バイドゥ

ユーデルブとウォルマートは19年1月、ユーデルブの自動配送車で食品の配達を実証実験するために提携した。提携の一環として、ユーデルブはアリゾナ州サプライズでの食品配達サービスで自動配送車「ニュートン」を提供した。

ニュートンには当時、バイドゥの自動運転ソフトウエア「アポロ」が搭載されていた。地政学的な懸念やここ3年にわたって提携が更新されていないことを考えると、この実証実験はうまくいかなかったか、別の理由で棚上げされたようだ。

ウォルマートは米アマゾン・ドット・コムに対抗し続けるため、今後も無人配送を推進するだろう。

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