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米仏選挙、脱炭素の速度左右も 実利が揺さぶる環境合意

Earth新潮流 日本総合研究所常務理事 足達英一郎氏

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

2021年の第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)の合意を経て、各国が「脱炭素」に向けた具体的な動きに出ようとしている。22年は各国にとって、目標と現実のギャップが目の前に立ちはだかる年になる公算が大きい。

現職マクロン氏に反発

そうした潮流のなかで、22年は世界の脱炭素に向けた速度を左右しかねない2つの選挙が注目される。4月に投開票されるフランスの大統領選挙と11月に行われる米国の中間選挙である。

仏大統領選挙は、現職のマクロン大統領がまだ正式に出馬表明していないが、極右政党・国民連合のルペン党首、最大野党である中道右派・共和党のペクレス氏の少なくとも3人の争いになる可能性が高いとみられている。

マクロン氏は気候変動問題には極めて熱心で「カーボンゼロ」を意識した規制強化やエネルギー課税を断行してきた。それが、経済的弱者や農業関係者らから反発を受け反政府抗議「黄色いベスト運動」の原因の1つになった。

ルペン氏は前回選挙での敗北後、環境政策も重視する姿勢を見せてはいるものの、再生可能エネルギーの普及には消極的だ。風力発電所の増設はフランスの景観を破壊すると主張し、エネルギー課税には反対の論陣を張る。

「国益重視の気候変動政策」

ルペン氏は「環境主義者のイデオロギー的圧力で自動車産業が打撃を被っている」とも批判している。生態系保全が漁業関係者を脅かすとの立場や、欧州連合(EU)が持続可能な食料システムを目指して掲げた「Farm to Fork Strategy(F2F、農場から食卓まで戦略)」にも農業関係者擁護の立場から反対している。

ペクレス氏は「気候緊急事態にはより完全な行動が必要」としながらも、マクロン大統領のやり方は権威主義的だと批判してきた。これまでの税金と罰金を中軸に据えた懲罰的な環境政策を改めることを主張し、国の既存代表機関を無視し抽選で選ばれた市民会議を優先させる体制を改めるよう求めている。国益重視の気候変動政策への転換を訴えている点も特徴だ。

4月の大統領選でマクロン氏が敗退することになれば、フランスの脱炭素への動きは減速する可能性が高い。それがEU全体の気候変動対策優先の雰囲気にも微妙な影を落とすことになろう。

米民主党議員が造反

米国でも理想より現実に引きずられる兆しが出ている。バイデン大統領が看板に掲げる気候変動・社会保障関連歳出を盛り込んだ「ビルド・バック・ベター(よりよき再建)法案」は21年11月に下院で可決(賛成220、反対213)されたものの、上院での審議が暗礁に乗り上げている状況だ。

同法案は①新型コロナウイルス禍に苦しむ困窮層の救済②大規模インフラ投資と雇用拡大③教育・育児を中心とする家族支援④財源確保のための税制改正――の4つが主な柱となっている。再生エネ推進、製造業の脱炭素化や再活性化、交通システムの革新、公正な移行のための地域支援など気候変動対策は②の項目に包含されている。

問題視されているのは、10年で1兆7500億ドル(約200兆円)に上る財政資金の規模だ。21年12月19日にウェストバージニア州選出の民主党上院議員ジョー・マンチン議員が法案への反対姿勢を表明した。

エネ業界の支持意識?

上院の議席構成は民主党と共和党が50対50で同数だが、法案審議で同数の場合は、議長のハリス副大統領が決裁票を投じて採決に至る。つまり、1人でも民主党上院議員が造反すると法案が成立しない状況にあることを意味する。

マンチン氏の信条は財政拡大や増税を嫌う共和党の保守派に近いと言われることがこれまでもあった。この法案の真の財政支出は4兆5千億ドル以上に達するとのペンシルベニア大学の推計が同氏の懸念の根拠とされる。

またマンチン氏は白人労働者の支持や石油・ガス、石炭など州内のエネルギー業界からの支持獲得を意識せざるを得ないという分析もある。

米国では11月8日に中間選挙がある。上院(任期6年、定数100)の約3分の1に当たる34議席、下院(任期2年、定数435)の全議席が改選される。マンチン氏は今回の改選議員ではないが、今後も地元の幅広い支持を獲得しないと当選がおぼつかないと考える民主党議員が出てくる可能性は十分にある。

EUは「脱原発」に火種

それによって、バイデン大統領の野心的な政策に何度もブレーキがかかる事態が想定される。さらに複雑なのは、共和党との調整や造反議員の懐柔を目的に政策の規模や内容を修正したり縮小したりしていると、今度は党内左派やリベラル層支持者からの反発が一段と強まる。結果として、民主党内の「分裂」が共和党を有利にしてしまうという構図が生まれるのである。

気候変動政策が政治に翻弄される趨勢は、なにも一国内に限ったことではない。1月1日、EUの欧州委員会は気候タクソノミー(気候変動の緩和と適応に貢献する経済活動の分類体系)に、原子力と天然ガス関連の経済活動を収載する方向で専門家協議を開始すると発表した。EU内には脱原発を掲げる国も複数あり、そうした国からは反対の声が一斉に上がっている。

米政治リスク調査会社ユーラシア・グループは3日に発表した22年の世界の「10大リスク」のひとつに「一進一退の気候変動対策」を挙げた。「脱炭素という目標が短期的な政策決定と衝突する事態が生じる」という予測が現実味を帯びる。フランスと米国の2つの選挙の結果がそうした予測通りになるのか、とりわけ注目したい。

[日経産業新聞2022年1月21日付]

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