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学習塾の事務をデジタル化 実体験が生んだ新サービス

「祖父も父も会社を経営しており、いつか自分もと考えていた」と話す栗原氏。自身の塾講師の経験からコミルを生み出した(写真=吉成 大輔)
日経ビジネス電子版

報告書やお知らせづくりなど、塾や予備校の講師の負担になっている事務作業を効率化。自身の講師体験を基に開発した、専用の業務管理システムで全国シェア20%の獲得を目指すのが、学習塾向け業務管理プラットフォームを提供するPOPER(ポパー、東京・中央)だ。

◇   ◇   ◇

学習塾や予備校の講師の仕事は「生徒に勉強を教える」ことにとどまらない。授業の内容や生徒の習熟度を保護者に伝える指導報告書や塾からのお知らせの作成、成績の管理、授業料の請求書づくりまで講師が担うケースもある。講師が報告書を1枚1枚封筒に入れ、郵送する手続きを行っているところも少なくない。専門の事務スタッフが雇えない小規模の塾では、講師が事務作業に追われて生徒への指導に影響が出ることもあるという。

事務の負担が軽減すれば、もっと指導に力を注げるのに──。学習塾が抱えるこの課題を、事務作業のデジタル化で解決しているのがPOPERだ。

(写真=吉成 大輔)

学習塾向けの業務効率化システム「Comiru(コミル)」は、フォーマットに必要事項を打ち込むだけで指導報告書の作成や成績の管理ができ、専用アプリや対話アプリで保護者に報告書やお知らせを送付することができる。郵送では保護者の反応が見られない一方通行になるが、コミルならお知らせを読んだかどうかを確認できるほか、保護者が意見を寄せる機能もあり、双方向のやり取りが可能になった。

2015年にサービスを開始し、現在は全国に約5万教室あるとされる学習塾の5%ほどに当たる2600教室以上で導入された。デロイトトーマツミック経済研究所の調べでは、クラウド型の学習塾向け業務管理システムのシェアで業界トップ。導入先からは「講師が一つひとつしていた事務作業が、簡単にできる。人件費が従来の3分の2ほどに減るとともに、講師が教えることに集中できるようになった」(千葉県市川市の塾アルゴの杉浦一行取締役)との評価も聞かれる。

起業から1年で資金難に

学習塾に的を絞って着実に導入実績を積み重ね、ポパーの売上高は20年10月期に2億6000万円を超えた。このサービスが生まれた背景には、栗原慎吾代表取締役CEOの実体験があった。

07年に大学を卒業した後、素材メーカーやインターネット広告代理店の勤務を経て、12年に友人が立ち上げた学習塾に共同経営者として参画した栗原氏。講師として子どもたちを指導し、学力が伸びることに喜びを感じる毎日だった半面、指導報告書や請求書の作成に追われる日々に疑問も感じていた。平日であれば授業は夕方からだが、事務作業のために朝から出勤し、帰宅が深夜になることも少なくなかった。「事務を効率化して、生徒や保護者に向き合う時間を増やすことが必要だと感じていた」(栗原氏)

大手の学習塾が自前で開発した業務効率化システムを使う例はあったが、栗原氏が経営する塾をはじめとした小規模のところではそうはいかない。指導報告書などを作成できる使い勝手のいいシステムを作れば、同様の課題に悩む学習塾からの需要が見込めるのではないか。栗原氏はここをビジネスチャンスと捉え、創業を決意した。

銀行から創業融資を受けて15年にポパーを立ち上げ、つてをたどってフリーランスのエンジニアにコミルの原型となるシステムを作ってもらった。ただ、なかなか契約成立には至らない。「電話営業をしても断られ続け、何とかプレゼンまで持ち込んでも『いや、今はいい』と言われるばかりだった」と栗原氏。15年末の時点での導入実績は150教室にすぎず、すぐに資金難に陥った。

新型コロナも追い風に

新たな顧客を獲得するにはシステムの充実が必要だと考えていた栗原氏。しかし、もう手元には資金がない。そんなポパーを救ったのは投資家の支援だった。

16年、事業の継続さえ危ぶまれる中、栗原氏は最後の望みをかけてスタートアップを支援するアクセラレータープログラムに応募した。プレゼンではコミルのサービスの良さと塾経営の効率化の必要性を力説。熱意が通じてコミルはプログラムの最優秀賞に選ばれ、そこで知り合った投資家らから累計で数億円の資金調達ができた。

資金を得た栗原氏はそれまで外部委託していたエンジニアを3人採用するなど自社開発体制を強化。塾への生徒の入退出を保護者がリアルタイムで把握できる機能などを新たに開発したほか、エンジニアを自社内に抱えることによって、コミルを導入している塾からの細かな修正依頼にも即座に対応できるようにした。

Comiruを導入した塾の推移

導入教室は18年12月に450カ所、19年12月には1700カ所へと大幅に伸び、20年12月には2300カ所に到達。新型コロナウイルスの流行で保護者との対面でのやり取りがしづらい状況が続いていることも追い風になって、今では「月に400件近く問い合わせが来ている」と栗原氏は明かす。

現在はエンジニアも30人にまで増やした。今後も新たなサービスを加え、全体の5分の1に当たる1万教室での導入を目指す。「少子高齢化が進み、生徒の獲得に向けて学習塾は指導の質がより問われてくる。講師に負担がかかる事務作業の効率化は避けて通れず、そのときに選ばれる最高のシステムを作り続けていきたい」と栗原氏。学習塾のスマート経営化へ、機能の向上と向き合う日々が続く。

(日経ビジネス 藤中 潤)

[日経ビジネス2021年5月17日号の記事を再構成]

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