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パナソニックが大型買収「ハードだけで生き残れない」

日経ビジネス電子版

パナソニックは9月17日、米ソフトウエア会社のブルーヨンダーを約71億ドル(約7700億円)で買収した。買収話の口火を切ったのは、25年ぶりに出戻った樋口泰行専務執行役員だ。ブルーヨンダー買収の背景や狙いを聞いた。

――ブルーヨンダーの買収は、パナソニックにとって約10年ぶりの大型M&A(合併・買収)です。

「実は、私たちが買収をする間際、ブルーヨンダーには株式上場という選択肢もありました。上場後の価格は120億~130億ドルになると言われていた。ブルーヨンダーの株式を保有するファンド2社からすれば、上場させたほうが得です。それでもパナソニックが買収できたのは、ブルーヨンダーのギリッシュ・リッシ最高経営責任者(CEO)がファンドを説得してくれたからです」

――よく説得してくれましたね。

「ブルーヨンダーの成長をさらに加速させようと、2017年に招かれたのがリッシCEOです。彼はM&Aを繰り返してバラバラになっていた会社を、『アライメント(一致)』という言葉でまとめあげ、成長路線に導きました。企業価値を高めた実績があったので、彼に対するファンドの信頼はとても大きいのです」

――買収はいつごろ考え始めたのですか。また当初、津賀一宏会長の反応はどうでしたか。

「18年春ごろから、パナソニックはソフトも重視しなければ生き残れないことを津賀に言い続けてきました。最初は津賀も非常に慎重で、他の経営陣から理解を得るのは相当大変でした」

「例えばソリューションビジネスでは、顧客から相談を受けた後でコンサルティングをして、システムを構築していく。ただし国ごとにビジネススタイルが異なるため、ノウハウを一朝一夕に蓄積することは難しい。この感覚は、いい製品さえ作れば、国境を越えて販売を拡大していけるというビジネスを経験してきたパナソニックの幹部には理解しづらいのです」

――ブルーヨンダーを選んだポイントはどこにあったのでしょうか。

「サプライチェーン事業に力を入れるという方向性を我々の社内カンパニーで決めた後、ブルーヨンダーを含め3社を買収候補に挙げていました。他社はサプライチェーンの一部しか対象にしていなかったのに対し、ブルーヨンダーは製造から小売り、物流まで一連を網羅していた。客観的な判断をするため、コンサルティング会社など第三者にも、ブルーヨンダーのビジネスの将来性を検証してもらい、買収すべきだという私の確信は強まりました」

――パナソニックは、過去、大型M&Aで辛酸をなめてきました。

「1991年に米映画会社MCAを買収したのは、パナソニックのプロジェクターを売りたい一心からでした。映画会社なのでどれだけ良いコンテンツを作るかが最も大切なのに、メーカーの論理で優先順位を混乱させてしまったことが背景にある。コンテンツを手掛ける会社とメーカーでは、水と油のように反発し合う。例えば、ジャニーズ事務所をつくったジャニー喜多川さん(故人)とうちの事業部長が会話しているようなものです。想像しづらいですよね」

――買収合意の発表会見で「ブルーヨンダーから学ぶことが多い」と述べていました。

「古くなってしまった伝統的なパナソニックの経営の近代化を進めるうえで、学ぶところは多いです。企業文化は変えてきたつもりだけど、現状でも普通に近づいただけであって、日本企業全体が遅れているのでもっと変えなければいけない。会社の歴史が長くなると、無駄なことをしているのに気付かないということもあります」

「上から目線だと、必ず失敗する」

――買収後のマネジメントでは、これまで「上から目線」なところがあったとも聞きます。

「私が大学卒業後、松下電器産業(現パナソニック)に入社した1980年代、会社はとても勢いがありました。『松下様』と言って、取引先はみんな本社がある大阪の門真に来てくれる。だから、自分も含めて勘違いをするようになるのです。何様のつもりなんだろうと」

「しかし今は、そうした意識は変わってきました。私も、『上から目線では必ず失敗する』と社員に言っている。むしろ、ブルーヨンダーが上。話は早いし、官僚的なところもない。いい会社に巡りあえました」

――買収を成功させるため、社員に繰り返し言っていることはありますか。

「間違っても、パナソニック製品を売るためにブルーヨンダーを動かそうとしてはいけないということです。サプライチェーンに関わるハードウエアの開発は、リッシCEOにも一部監修してもらいます」

――樋口さんは、2017年に25年ぶりにパナソニックに戻ってきました。津賀さんから「会社を変えてほしい」と声をかけられたと聞いています。

「世の中の潮流に照らしたなかで、パナソニックはどうあるべきなのかを考えました。まず、着手したのが大企業病からの脱却でした。打てば響くような組織と企業文化に変えなければ、お客様からも愛されないし、変化に取り残される。経営の近代化も遅れる」

――そして、今回、ブルーヨンダーを買収した。これも変革の一環だったのですか。

「はい。ベースには企業文化の改革があって、その上でビジネスモデルのシフトが必要と考えました。ハードウエアだけで戦っていると遅かれ早かれコモディティー化し、劣化していく。強いポートフォリオを次世代に継承するため、弱体化するビジネスと将来性あるビジネスとを入れ替えなければなりません。これをしなければ経営の責任を果たしたことになりません」

「パナソニックは、ポートフォリオにおいて、足し算はできても、引き算がなかなかできなかった。画一的な文化がベースになっていたからでしょう。一緒に働いてきた仲間や先輩を否定することができずに、事業撤退の意思決定が遅くなってきました。でも今後は、そうした覚悟が必要になります。ブルーヨンダーから学ぶことで、カルチャー面だけでなく戦略面でも変化をもたらし、全社に波及していければと思います」

(日経ビジネス 中山玲子)

[日経ビジネス電子版 2021年10月18日の記事を再構成]

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