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ファーウェイ独自OSで狙う「Google超え」

(更新)
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ファーウェイ独自開発の基本ソフト、ハーモニーOSはアンドロイドの牙城を崩せるか
日経ビジネス電子版

「電池の持ちもよくなったし、動作も速くなった。最高だよ」

華為技術(ファーウェイ)製品のファンである上海市内に住む40代男性は、6月2日に独自開発の基本ソフト(OS)「鴻蒙(ホンモン、英語名ハーモニー)2.0」が発表されると、すぐに更新作業に取り掛かった。「所要時間は30分ぐらい。特に途中で設定につまずくこともなかった」という。

男性が満足しているのは、単なる性能面でのメリットだけではない。ハーモニーOSはスマートフォンやタブレット、テレビ、家電、スマートウオッチ、車載機器など幅広い製品に対応した。「例えばスマホ画面をパソコンやタブレットに映し出し、スマホ内に保存した写真を操作したり移動したりすることが簡単にできる」という。

ハーモニーOSの開発を率いるファーウェイ幹部の王成録氏は「複数の端末で、スーパー端末を構成できる」と説明する。同じOSを異なる機種に搭載することで端末の垣根を越えて音声や画像などの各種データをスムーズに扱えるようになることが、ハーモニーOSの真骨頂だ。

同社のスマホ上位機種「Mate40」を利用する別のユーザーは「ハーモニーOSに切り替えてからおおむねスムーズに動作していたが、動きがもたついたり本体が熱くなったりすることもあった」と証言する。だが、その後ファーウェイが配信したアップデートを適用したことで問題は解消したという。

スマホのOSを巡っては、米グーグルの「Android(アンドロイド)」と米アップルの「iOS」が圧倒的なシェアを占めている。これまで米マイクロソフトや韓国サムスン電子など様々な有力企業が「第3のOS」の座を得ようと取り組んできたが、いずれも失敗に終わってきた。常識的には無謀とも思える挑戦にファーウェイが取り組んでいるのは、もちろん米国の制裁がきっかけだ。

ファーウェイは現在、スマホ新製品にグーグルのGMS(グーグル・モバイル・サービス)と呼ばれる検索や地図、メールなどのアプリを搭載できない。アンドロイドOSの中核部分についてはオープンソース化されているのでファーウェイも継続利用できるが、GMSはオープンソース化されていないため制裁対象となった。

中国本土ではもともとグーグルのサービスはごく一部を除いて使えないためGMSの有無によるスマホ事業への影響はほぼない。ただし、海外のスマホ市場においてはGMS抜きでは勝負の土俵に上がることすら難しいのが現実だ。また、ファーウェイはスマホ向けの先端半導体の輸入も封じられている。制裁が発動する直前に駆け込み調達して半導体在庫は大量にため込んだとされるが、従来のようなペースで積極的にスマホの新製品を販売することは不可能になっていた。

最初からIoTを想定して設計

ソフトとハードの両面で手足を縛られた格好のファーウェイは2020年11月、スマホの中下位機種事業を分離・売却することを余儀なくされた。調査会社の米IDCによれば2020年4~6月に世界首位だったファーウェイのスマホ世界シェアは、21年1~3月には5位以内に入れずランキング圏外となった。21年1~3月期の売上高は前年同期比16.5%減の1522億元(約2兆6000億円)と、20年10~12月期に続いて2四半期連続減収となった。

ファーウェイは、厳しい状況の中でどのような将来を描いているのか。今回のハーモニーOSの発表から全体像が浮かび上がってきた。

ファーウェイはハーモニーOSの中核部分をオープンソース化し、誰でも利用できるようにしている。その上で、アプリストアなど「HMS(ファーウェイ・モバイル・サービス)」を独自サービスとして提供する。ここまでは、グーグルのアンドロイドと同様の戦略と理解すればよい。

違いは、アンドロイドがスマホを念頭に開発されたのに対して、ハーモニーOSはもともとIoT(モノのインターネット)デバイスや産業用機器に組み込む用途を想定して開発が進められてきたため、スマホよりも低スペックな機器でも動作する設計思想になっていることだ。グーグルが「幅広い機器向けのOSを構築するための長期プロジェクト」として開発を進める新OS「Fuchsia」とコンセプトは近そうだが、商用化ではファーウェイが一歩先んじたことになる。

もはやスマホ事業の成長が見込めない中で、ファーウェイは自動車と家電、スマートウオッチなどIoT分野に狙いを定めた。様々な機器におけるネット接続が本格化すれば、置き換えや新規需要創出など市場規模拡大の余地は大きい。

ただし、競争が激しい最終製品までファーウェイがすべて提供するのは現実的ではない。そこで、ファーウェイは各種デバイスで利用できるOSをオープンソースとして提供することで「プラットフォーマー」としての地位を取りにいった。スマホOSではグーグルやアップルに勝つことは難しいが、IoT機器を含めたOSへと土俵を変えることで勝機を見いだそうとしている。

16%のシェアを取れるかが生死を分ける

自動車分野においては完成車メーカーがファーウェイのプラットフォームを採用すればすぐに自動運転などのIT(情報技術)を備えた電気自動車(EV)を生産できるようにした。「ファーウェイ・インサイド」と称し、モーターやバッテリーなどの部品のほかハーモニーOSを搭載した車載デバイスも併せて供給する戦略だ。

家電分野でも他社製テレビやスピーカー、冷蔵庫、電子レンジなどにハーモニーOSを搭載してもらう戦略だ。中国家電大手の美的集団や創維集団(スカイワース)、キッチン家電の九陽などと提携している。

スマホではファーウェイが分離・売却したブランド「HONOR(オナー)」が既存機種について順次対応していくことを発表したが、これは例外といってよい。小米(シャオミ)やOPPO(オッポ)、vivo(ビボ)といったライバルのスマホメーカーにとって、海外市場におけるアンドロイドとGMSの組み合わせを捨てることに合理性はないため、いずれもハーモニーOSの採用には二の足を踏んでいる。オナーですら、今後発売する機種の対応については明言を避けているのが実情だ。

ただし、14億人の中国市場におけるIoTデバイス用のOSとして存在感が高まれば、各スマホメーカーも対応を検討せざるを得なくなるかもしれない。ついに本格的に登場した国産OSに対する中国国内の期待は想像以上に大きく、ハーモニーOSの恩恵を受けるとみられる企業の株価は軒並み上昇している。

ファーウェイ幹部は「16%のシェアを取れるかどうかが生死を分ける」と述べ、当初はハーモニーOSの搭載端末数の目標を年内に3億台と設定していた。出足の好調さを受けて3億6000万台へとこの目標を上方修正している。この勢いを維持してパートナー企業を取り込み「ハーモニー経済圏」を拡大できるか。それが、ファーウェイの今後に直結することになりそうだ。

(日経BP上海支局長 広岡延隆)

[日経ビジネス電子版2021年6月18日の記事を再構成]

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