再生航空燃料のSAF、国産化へ供給網構築 コスト課題に

航空業界の二酸化炭素(CO2)排出量削減に向け、持続可能な航空燃料(SAF)の供給網構築が日本で活発になってきた。日揮ホールディングス(HD)と三菱地所は原料となる廃食油の回収で連携を決めた。ただ商用化は欧米企業が先行し、日本勢は出遅れる。コスト高の解決などが巻き返しのカギを握りそうだ。
三菱地所は2023年3月から、JR東京駅周辺の飲食店などから出る廃食油を日揮HDに供給する。日揮HDは集めた廃食油を使い、コスモ石油などと11月に設立した共同出資会社で24年度にもSAFを生産する。廃食油の調達先を増やし、生産量は年3万キロリットルとする。
SAFは廃油などを原料とし、航空機のジェット燃料と混ぜて燃やす。CO2排出量を8~9割減らせるといわれる。エンジンの大幅な燃費向上などは難しく、航空業界の脱炭素の有効な手段としてSAFが注目されている。
日本政府は30年に国内航空会社の航空燃料需要の1割(130万キロリットル)をSAFにする方針を掲げた。国連の専門組織、国際民間航空機関(ICAO)は「50年にCO2排出実質ゼロ」の長期目標を設定した。全日本空輸(ANA)や日本航空(JAL)は達成には50年に最大約2300万キロリットルが要るとみている。
これまでに商用化に成功したのは一部の欧米企業のみで、当面は輸入に頼らざるを得ない。ANAはフィンランドのネステから調達しており、JALもネステと調達契約を結んだ。
燃料の自給は経済安全保障にも関わるため、国産化プロジェクトが相次いでいる。三菱商事とENEOSホールディングスは27年にも年数十万キロリットルの供給網を国内に完成させたい考えだ。丸紅もゴミ由来のSAF製造技術を持つ米フルクラム・バイオエナジーにJALなどと出資し、国産化を検討している。
日本勢の巻き返しにはコスト削減が欠かせない。資源エネルギー庁が4月に公表した資料によると、SAFの生産コストは1リットルあたり200~1600円とジェット燃料の2~16倍で、普及のハードルになっている。
元売り大手の出光興産は植物由来のエタノールを原料に使えば100円台に下げられると分析しており、27年3月期にも千葉事業所(千葉県市原市)で生産を始める。30年に年50万キロリットルの生産規模とする。三井物産もエタノール由来のSAF生産を手掛ける米スタートアップ、ランザジェット(イリノイ州)に出資する。この技術でコスモ石油と28年3月期までにSAFを年22万キロリットル生産する検討に入った。
計画は相次ぐものの、想定通りに商用化が進むとは限らない。資源エネルギー庁の担当者は「30年時点の目標である130万キロリットルを充足する見通しはまだ立っていない」と語る。海外を見渡しても世界のSAF生産量は20年時点で年間10万トン程度と年間の航空燃料消費量の0.03%しかない。SAFの大規模な増産が必要で、今後も原料の争奪戦や国内外企業の提携が活発になりそうだ。