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有料で「美女と野獣」すぐ乗れる 東京ディズニーの戦略

日経ビジネス電子版

東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランド(OLC)は、19日から「ディズニー・プレミアアクセス」と呼ばれる新サービスを導入した。これは、1回当たり2000円を支払えば園内の対象アトラクションを時間指定で予約できるもの。対象となるアトラクションは東京ディズニーランド(TDL)の「美女と野獣"魔法のものがたり"」および東京ディズニーシー(TDS)の「ソアリン:ファンタスティック・フライト」の2つで、いずれも園内で一、二を争う人気施設だ。

これまでにも人気で待ち時間の長いアトラクションを優先利用できるサービスは存在した。新型コロナウイルス禍前の2020年3月までは「ファストパス」を運用し、20年9月以降は、運営状況に応じ、一部のアトラクションで「スタンバイパス」と呼ばれるスマホアプリを活用した整理券の取得を求めている。

新型コロナ感染対策の観点から導入された仕組みで、スタンバイパスを取得した来園者は、指定された時間に対象施設に並ぶ「権利」を得ることができ、長時間並ばずともアトラクションを楽しめる。長い待機列の短縮化には効果があったが、一方でスタンバイパスを取得しないと対象施設を利用できない不便さもあった。

プレミアアクセスは、ファストパスやスタンバイパスをさらに進化させたものといえるだろう。発行枚数には上限があるが、お金を払えば「来園者が自分でアトラクションの利用時間を指定できるのが特徴」(OLC)で、システムが空き状況を判断し、来園者に利用時間を自動的に指定する従来の仕組みとは異なる。より計画的に園内を回ることができるほか、帰宅時間の早い来園者が人気アトラクションを楽しめない、といった機会損失の防止にもつながる。

これまでも、入園料が食事、宿泊などとセットになったプラン「東京ディズニーリゾート・バケーションパッケージ」でアトラクションを優先利用できるサービスを付帯してきたが、優先利用サービスを単体で販売するのは初めてだ。混雑緩和や、来園者の満足度向上に向けたサービスとも捉えられる。問題は、2000円という金額だ。

現在、東京ディズニーリゾートでは入園料を需要動向に応じて変えるダイナミックプライシングを導入しており、大人1人当たりの場合、7900円、8400円、8900円、9400円と4段階に分けられている。これにプレミアアクセスを追加で利用すれば、食事やお土産を除く費用だけでも1人1万円を超えてくる。SNS(交流サイト)上では「家族連れには負担が大きい」「今までの優先サービスは無料だったのに」など、来園者にコスト負担を求める施策に対する反発の声もあった。

入園者数の減少を客単価増でカバー

日本人の平均賃金が長らく横ばいで推移する中、22年に入りエネルギーや食品価格の高騰が顕著だ。消費者の財布のひもは固くなり始めており、そんな中でのサービス有料化は「客離れ」が懸念される。だが投資家の考えは違うようだ。5月13日のプレミアアクセス導入の発表を受け、16日のOLCの株価は一時、1万8375円と13日終値から7%近く上昇した。

感染対策の観点から入園者数に上限をかける状況が続く限り、入園料収入の大幅な増加は見込めない。OLCは入園者増に頼らない収益構造の確立に向け、さまざまな施策を打っている。入園料の価格変動制導入や、ハロウィーンシーズン限定で販売された、朝に全身仮装で東京ディズニーランドに入園できる特別チケットの販売はその代表だろう。飲食や商品販売も強化している。

4月27日に発表された22年3月期決算では、21年度の入園者数が約1205万人と、コロナ禍前の約3200万人(18年度)の半分以下にとどまるが、客単価は1万4834円と、18年度の1万1815円から大幅に伸び、過去最高を記録した。プレミアアクセスの導入も今後の客単価の向上に貢献できる施策だけに、投資家はOLCの収益性向上に期待したようだ。

客離れの懸念はないのだろうか。優先入場サービスに関しては、大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)がすでに導入している。「ユニバーサル・エクスプレス・パス」と呼ばれるもので、価格は優先入場できるアトラクションの数によって異なる。最も多い「プレミアム」は、日によって異なるが1万5800~4万900円で販売されている。プレミアムは、ハリー・ポッターやマリオカート、ジョーズなど、13の人気アトラクションに関し1回ずつ優先入場できるチケットだ。

この金額をアトラクション1つ当たりに換算すると、1200~3100円程度。エクスプレス・パスの販売動向に関しUSJは「混雑を避けて楽しみたいお客様の引き合いは強い。今年の大型連休中のエクスプレス・パスは、4月はじめには一部の時間帯が完売していた」と話す。客離れは起こっておらず、むしろ選択肢が増えた点が評価されているようだ。

USJの価格水準と照らし合わせると、ディズニー・プレミアアクセスの2000円という価格設定は高くもなく、安くもないといったところか。OLCを長年ウオッチしているある国内証券アナリストは「対象アトラクションを2つに限定している点から見るに、まだ様子見なのでは」と分析する。顧客の反応を見ながら今後の価格設定や対象施設拡大は進められるだろう。

入園料の引き上げやアトラクションの優先利用サービスの有料化は利用者側からすれば一見、マイナスとも受け取られる。だがコロナ禍で園内の混雑や長時間の行列は好ましいものではなくなり、入場制限により多くの来園者が「行列なきディズニーランド」の快適さを体感した。お金を払ってもいいから混雑を避けたいと考える人が増えてもおかしくはない。値上げを許容できる雰囲気が醸成された点は、OLCにとっての「追い風」になったといえる。

コロナ禍が長引く中、大勢の人との接触を余儀なくされるレジャー産業は苦戦を強いられてきた。安全・安心に対する個人の考え方や価値観は多様であるだけに、画一的なサービスからの脱却が重要だ。さまざまな選択肢を提供し、顧客の満足度を上げていく策が今後も求められるだろう。サービス価格の複線化、多様化はその鍵を握るものとなりそうだ。

(日経ビジネス 馬塲貴子、武田安恵)

[日経ビジネス電子版 2022年5月17日の記事を再構成]

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