東レ、5G透明アンテナ基材フィルム、ガラスで目立たず
東レは17日、高機能樹脂「ポリフェニレンサルファイド(PPS)」フィルムを透明化したと発表した。PPSは高速通信規格「5G」対応スマートフォンの内蔵アンテナの基材に使われている「LCP(液晶ポリマー)」と同程度の誘電特性があることから、Subー6(サブシックス)やミリ波用アンテナとしての用途を見込んでいる。
このフィルム上に透明なアンテナ配線を施せば、外観を損ねない透明アンテナにできる。室内や車内に設置して、電波の直進性が高く障害物の陰に電波が届きにくい5Gのエリア化につなげる。この他、透明性が重視されるフレキシブルディスプレー用フレキシブル基板などでの活用を見込んでいる。

PPSは、ベンゼン環と硫黄(S)原子から成る合成樹脂。従来のPPSフィルムは黄色く透明度が低い。これはフィルム内部にある大きさ数100ナノメートル(ナノは10億分の1)のボイド(孔)が光を散乱するためだ。このボイドは、縦方向と横方向にフィルムを伸ばす「2軸延伸」という製造工程で、フィルムを構成するPPS粒子と、PPS粒子同士の摩擦を軽減するための添加剤「滑剤粒子」とが引き離されることで発生する。
そこで東レは、PPS粒子と滑剤粒子の両方を新規開発し、ポリエチレンテレフタレート(PET)並みの透明度を達成した。具体的には、両粒子の接着を強め、かつPPS粒子に伸縮性を持たせることで、フィルムが延伸しても粒子同士の接着状態を保つようにした。滑剤には従来無機系を用いていたが、延伸に強い有機系に変えた。


これらの開発で、光の散乱度を表す「ヘイズ」が77%から2%以下に低減、光の透過率が71%から85%に向上した。「(透明アンテナとしての開発例がある)フッ素系樹脂よりも透明度が高い。具体的なコストは非公開だが、低コスト化のポテンシャルもある」(東レ)と、PPSの優位性を強調する。
10ギガヘルツ(ギガは10億)での誘電特性は、比誘電率が3.1、誘電正接が0.002であり、従来のPPSやLCPと同程度である。透明アンテナの基材として使う際に、「配線を透明にするか、視認できる材料にするかは顧客次第」(東レ)だとする。アンテナの設置場所には、透明性を生かせる窓ガラス周辺や天井などを想定している。2022~23年度の実用化を目指しており、「数年後に売上高20億円規模にしたい」(東レ)と意気込む。

(日経クロステック/日経エレクトロニクス 土屋丈太)
[日経クロステック 2021年11月17日掲載]
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