ESGファンド、運用手法に変化 低ESG・超分散に注目
Earth新潮流 日経ESG編集部 半沢智

企業のESG(環境・社会・企業統治)に注目して銘柄を組み入れた投資信託であるESGファンドに変化が起きている。世界的な株価低迷の影響を受け、これまでとは違う運用スタイルでリターンを狙うESGファンドが登場し始めた。
ESG投資は現在、厳しい環境にある。QUICKの調べによると、新規に設定したESGファンドは2021年に93本あったが、22年は11月時点で39本と、およそ半分以下になった。減少の背景にあるのが、ロシアによるウクライナ侵攻や米国の利上げなどによる世界的な株安だ。
苦戦するESGファンドの多くが、米ハイテク銘柄に代表される成長株(グロース株)を高ESG銘柄として厳選して組み入れている。こうした銘柄は格付け会社によるESG評価も高く、ESGファンドの投資対象となってきた。いま、これらの銘柄を含むESGファンドの多くが、価格(基準価額)と純資産総額を減らしている。

変化の「予兆」に注目
こうした状況を打開すべく、これまでの「高ESG」「厳選」の逆を行く、「低ESG」「超分散」の運用スタイルを実践するESGファンドが登場してきた。
「低ESG」に注目したのが、UBSアセット・マネジメントが22年10月31日から運用を開始した「UBSサステナブル向上・コアバリュー株式ファンド」だ。世界の上場株式の中から、将来的にESGの改善が見込まれる企業を選び、その中でも割安度が高いと判断する銘柄に投資する。独自のESGスコアで企業のESGを評価し、あえてESGの「劣等生」を選ぶのが特徴だ。
注目するのは、ESGの改善が企業価値の向上につながるかどうかだ。そのために、企業の公開情報や第三者によるESGデータを活用する。データを解析することで、企業によるESGの進捗や改善の兆候を見つけ出す。例えばガバナンス面では、企業の有価証券報告書やプレスリリース、最高経営責任者(CEO)や最高財務責任者(CFO)の発言内容を解析し、改善の予兆を示す文言を見つけ出す。
株式運用部長の松永洋幸マネージング・ディレクターは、「今は約10年続いたグロース相場から、割安株のバリュー相場に変わる転換点といえる。企業のESGの変化を時系列でウオッチし、その変化をリターンにつなげる」と話す。積極的なエンゲージメントも実践し、市場平均を上回るリターンを目指す。
主力ファンドのESG版
一方で「超分散」を実践するのが、りそなアセットマネジメントが11月1日から運用を開始した「ラップ型ファンド・プラスESG」だ。ESGやSDGs(持続可能な開発目標)に注目した9つのファンドに分散投資する。特に国内債券・株式や先進国債券・株式への投資でESGやSDGsを重視する。企業のESGを0~10のスコアで格付けし、投資判断に生かす。
一般的に、投資対象の資産は分散するほどリスク(値動き)が小さくなる一方、リターンも小さくなる。そこでこのファンドは、目標リターンが異なる2%、4%、6%の3つの商品を用意した。投資先の組み入れ比率を変えることで、これらのリターンを目指す。例えば、目標リターン2%の商品は先進国債券への投資比率を大きく、6%の商品は先進国株式の比率を大きくする。
目標リターン別にタイプが異なるファンドの先行例として、16年2月から運用している「りそなラップ型ファンド」がある。長期に安定した資産形成を望む投資家の支持を得て、運用総額1400億円を超える人気商品となっている。
今回投入したのは、このESG版だ。現在は金融機関が顧客と運用契約を交わし、顧客に代わって資産運用する「ファンドラップ」の人気が高まっている。ファンドラップと同様の運用手法を取る投資信託を、中核ファンドとして打ち出す金融機関が増えている。
クライアントサービス部の白垣洋一郎グループリーダーは「ESG投資は長期投資と相性が良い。主力商品をESG化し、資産運用の中核ファンドとして勧めていきたい」と話す。りそなグループは「サステナビリティ長期目標」で、30年度までに10兆円のESG投融資を目標に掲げており、3兆円を資産運用ビジネスで実現するとしている。
マーケットの変化を背景に、リターンを求めてESGファンドは姿を変えている。一口にESGファンドと言っても、その内容は千差万別だ。ESGの何に期待し、その期待がファンドと一致しているか。投資家は資産運用会社やファンドマネジャーの運用方針に注目することが重要だ。
[日経産業新聞2023年1月20日付]
