コミュニケーションアプリ、リアルのつながり重要に
読み解き 今コレ!アプリ フラーシニアデータストラテジスト 木下大輔氏
もうすぐ勤労感謝の日(23日)。新型コロナウイルスによって大きく変容した人々の働き方は、スマートフォンアプリのデータにも表れている。変化の端緒をたどるキーワードは"コミュニケーション"だ。
フラー(新潟市)が手がけるアプリ分析ツール「AppApe(アップ・エイプ)」では、働き方に関わるアプリが数多く属する「ビジネス」と「仕事効率化」の各カテゴリーの上位50アプリの合計利用者数をまとめた。

その結果、2022年10月は1億5850万人とコロナ禍前の19年10月に比べて19.3%増加した(数値はすべてiOS・アンドロイド合算)。
特にビデオ会議やチャットなどビジネスコミュニケーション系アプリの伸びが著しい。主要ビジネスコミュニケーション5アプリ「Chatwork」「LINE WORKS」「Slack」「Teams」「Zoom」の22年10月の合計利用者数は約980万人。19年10月に比べ3.7倍に拡大している。
個々のアプリを見ると、アプリの特性を踏まえた利用動向の微妙な違いも浮かび上がる。5アプリのうち、月間利用者数は「Zoom」が最も多い。20年1月から比較すると、月間利用者数は16.2倍に増加した。一方、平均日間利用者数は「Slack」が1位でほぼ同じ規模で、「Teams」が続く。
月単位や日単位の指標によって優位なアプリが入れ替わるのは、使われ方や利用シーンが関係しているのは間違いないだろう。
筆者自身の行動を振り返ってみても、一日数回ある会議で使うのはもっぱらパソコン版アプリの「Zoom」で、スマホアプリの利用頻度は外出先で数回程度。逆にテキストコミュニケーションの「Slack」はアプリ・パソコンともに毎日使っている。
コスト削減や時短の観点から、どこにいても誰とでも働けるオンラインコミュニケーションアプリのプラスの影響は大きい。一方で、オフラインだからこそ生まれるセレンディピティー(偶然の出会い)や信頼関係もいっそう重要になっていると強く感じている。
例えば、オンラインでもできる作業や一人で集中した方が効率が上がるタスクはリモートワークでも可能だし、オンラインコミュニケーションで十分だろう。
一方で、事業そのものの方向性を考えたり、企業が生き残っていくためのアイデアを生み出したりといった創造的な作業もある。メンバーが知恵を絞って取り組むような場合は、オンラインのコミュニケーションだけでは限界を感じる。
ツイッターを買収し、大規模なリストラを断行したイーロン・マスク氏が社員にオフィスに来るよう求めたのも、既存事業の維持ではなく創造的な生産によって経営を再建するには、オンラインコミュニケーションだけでは難しいという危機感からかもしれない。
オンラインでのコミュニケーションが増えるなか、リアルのイベントやミーティングで顧客と向き合う重要性もかつてないほど高まっている。コミュニケーション全体を見渡してデジタルの力を使いながら最適化するためには、しなやかさとバランスが求められる。
[日経MJ2022年11月21日付]