米食品配達大手、スーパーのデジタル化支援に軸足 - 日本経済新聞
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米食品配達大手、スーパーのデジタル化支援に軸足

食品配達大手の米インスタカートが食品スーパーのデジタル化支援に力を注いでいる。同社はウーバーイーツの食品スーパー版のような企業で、ネットで注文を受けた商品を個人配達員がスーパーから届ける事業を手掛けている。契約先スーパーの店舗のスマート化やEC(電子商取引)構築を進めることで、ネットから店舗、配達までをデジタル技術で融合した食品購入の新たな仕組みを築く。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

食料品の値上がりとオンライン購入の増加を受け、食品スーパーは買い物客を囲い込むためにビジネスモデルの転換を迫られている。

インスタカートは食品スーパーのオムニチャネル(店舗とECの統合)強化の支援に乗り出している。

同社はここ2~3年、顧客の新たな期待に応えながら利ざやを確保するため、技術的な解決策の試行や実装を進めている。例えば、2020年にはブランド各社や広告代理店が広告枠を買ったり、管理したりできるシステム「インスタカート・アド(Instacart Ads)」の提供を開始した。22年9月には米食品スーパーと組み、ネットにつながる実店舗「コネクテッド・ストア(Connected Store)」1号店をオープンした。この店舗では人工知能(AI)を搭載したスマート買い物カート、買い物しながら自分のスマートフォンで商品をスキャンして決済する技術、電子棚札などを駆使し、食料品の買い物体験の魅力を高める。

今回のリポートではCBインサイツのデータを活用し、インスタカートの19年以降の買収や提携から5つの重要戦略をまとめた。この5つの戦略でのインスタカートとのビジネス関係に基づき、各社を分類した。

・デジタル広告

・EC構築支援

・インストア(店内)テック

・オムニチャネルのフルフィルメント(受注・配送管理)

・決済&特典システム

デジタル広告

インスタカートは顧客のエンゲージメント(愛着)を高める手段としてデジタル広告システムを活用している。

同社は最近、新たな広告システム「インスタカート・プロモーションズ(Instacart Promotions)」の提供を始めた。これにより、ブランドや小売りはインスタカートのマーケットプレイス(スマホアプリやウェブサイト)で新たな値引きやインセンティブ(誘因策)、販売促進策を仕掛けられるようになった。米食品メーカーのゼネラル・ミルズ、ソラ・カンパニー(Sola Company)、アスレチック・ブリューイング(Athletic Brewing)などが早速利用している。

インスタカートは20年、小売り分析プラットフォームの米スタックライン(Stackline)と提携し、スタックラインの広告運用自動化ツールをインスタカート・アドに導入した。米クアタイル・デジタル(Quartile Digital)とも組み、インスタカートの顧客企業にクアタイルの機械学習広告プラットフォームへのアクセスを提供した。

さらに、22年6月の米マーケティング大手オムニコム・メディア・グループとの提携により、オムニコムのデータクリーンルームを活用してブランドや小売りの広告の効果などについて知見を提供している。

22年には共同マーケティングシステムを築くため、ECの最適化を手掛ける英アセンシャルと提携した。提携の一環として、アセンシャルの顧客企業はインスタカート・アドの試験プログラムや新機能・商品をいち早く利用できるようになった。広告大手の英WPPとも組み、インスタカートのブランドパートナーに広告の効果を分析できるAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース=システム同士が相互に連携するための技術仕様)とデータ統合ツールを提供した。これによりブランド各社は顧客の購買習慣などについて知見を得られるようになった。

EC構築支援

食料品の買い物の大半をネットで済ませる客は今や30%近くに上るため、大手食品スーパー各社はEC構築支援システムに資金を投じている。インスタカートはこの時流に乗っている。

例えば、22年9月には顧客企業に最適な価格設定ツールと消費者についての知見を提供するため、AIを活用した価格設定、販促プラットフォームを運営する米エバーサイト(Eversight)を買収した。また同じ月に米ロージーも傘下に収めた。ロージーは小売りの顧客体験と収益を向上させるため、掲載商品を直接購入できるデジタルチラシや、店舗の会員・特典プログラムの統合などEC追加システムを手掛ける。

21年にはビッグデータの保管・分析サービスを提供する米スノーフレイクと提携し、インスタカートのマーケットプレイスでのトレンドや知見を示すアプリケーションを開発した。

インストア(店内)テック

インスタカートは食料品の買い物客を実店舗に回帰させ、利便性と費用対効果を高めた店舗体験を提供するためにインストアテックを推進している。

同社は21年、スマートカートや精算テックを手掛ける米ケーパーAI(Caper AI)を買収し、この分野に参入した。インスタカートのアプリにケーパーのテクノロジーを搭載し、「コネクテッド・ストア」でケーパーのスマートカートを提供している。

22年9月には食品スーパーが実店舗の買い物体験を効率化し、利便性を高め、パーソナライズ化する手段として、「コネクテッド・ストア」を発表した。5つのブランドの食品スーパーを展開する米グッドフードホールディングスと提携し、同社傘下の高級食品スーパー、米ブリストル・ファームズが手掛ける米カリフォルニア州アーバインの店舗を「コネクテッド・ストア」1号店としてオープンした。

この店ではスマートカート「ケーパーカート(Caper Carts)」、買い物しながら自分のスマホで商品をスキャンし、支払いを済ませられる「スキャン・アンド・ペイ(Scan & Pay)」、買い物リストをケーパーカートに同期できる「リスト(Lists)」、電子棚札「キャロットタグ(Carrot Tags)」、インスタカートが21年に買収したケータリング業者向けソフトウエア企業の米フードストームのソフトウエアを活用している。

オムニチャネルのフルフィルメント(受注・配送管理)

食料品のネット購入が増え続けているため、インスタカートはネットで注文した商品を店舗など自宅以外の場所で受け取る「クリック&コレクト」やマイクロフルフィルメント(小型の受注配送拠点)など、食品スーパーのデジタルとリアルのチャネルをスムーズにつなぐシステムの構築に取り組んでいる。

22年4月には米フロリダ州マイアミの食品スーパー、パブリックス(Publix)と提携し、インスタカートの小型フルフィルメントシステム「キャロット・ウエアハウス(Carrot Warehouses)」を使って注文から最短15分で商品を届けるサービスを始めた。21年には米食品スーパー大手アルバートソンズとのEC事業での提携を拡大し、ECで注文した商品を店頭で受け取る「ボピス(BOPIS)」を米南西部6都市で実証実験した。

さらに、21年にはカナダの食料品テック企業マーケイトス・テクノロジーズ(Mercatus Technologies)と組み、食品スーパーが店舗を自前で運営する一方、ECフルフィルメントではインスタカートの資源を使う「インスタカート・コネクト(Instacart Connect)」を開発した。同年には米国とカナダの顧客スーパー向けに自動フルフィルメントサービスを開発するため、米ファブリック(Fabric)と提携した。ファブリックの自動化ソフトウエアとロボットを活用して倉庫や既存店に自動フルフィルメントシステムを構築し、インスタカートのマーケットプレイスで受注した商品を同社の個人契約者が配達する。

決済&特典システム

インスタカートは顧客体験の向上や買い物客との関係強化、ひいては顧客の囲い込みを進めるため、決済や特典システムに資金を投じている。

例えば、20年にはカード発行・決済処理のクラウド基盤を運営する米マルケタ(Marqeta)と提携し、米アップルのモバイル決済サービス「アップルペイ」や米グーグルの同「グーグルペイ」に対応した。22年にはオランダのアディエン(Adyen)と組み、暗証番号を入力せずにデビットカードで決済できるようにした。22年9月には消費者に柔軟な支払い方法を提供するため、スウェーデンの後払い決済サービス大手クラーナ(Klarna)と組んだ。

22年には米銀大手JPモルガン・チェースの個人向け(リテール)ブランド「チェース」と提携し、共同ブランドのクレジットカードを発行すると発表した。米カード大手マスターカードがこのサービスの独占決済ネットワークになる。このカードを使ってインスタカートで商品を購入すると、ポイントが付与される。インスタカートとチェースはすでに既存のチェースカード会員に無料配達サービスやキャッシュバックサービスを提供している。

インスタカートは米デルタ航空と提携し、デルタのマイレージサービス「スカイマイル」とインスタカートのアカウントの連携によってインスタカートのアプリで買い物した客にマイルを付与するサービスも手掛けている。さらに、キャッシュバックアプリの米アップサイド(Upside)と提携し、インスタカートの配達員にガソリンや軽食などで特典を付与している。

その他

インスタカートはこれら5つの重要戦略に加え、次の2つの分野でも注目すべき提携や買収をしている。

顧客体験:インスタカートはレシピ動画の視聴者が材料をインスタカートのアプリから購入できる機能「ショッパブル・レシピ(Shoppable Recipes)」を始めた。米ペッパーや米ハーストなどが運営するプラットフォームで導入される。両社は22年、顧客エンゲージメントを高めるためにインスタカートと提携した。

20年には米セキュリティーサービスADTと提携し、インスタカートの利用者に位置情報を活用した年中無休の緊急対応サービスを提供している。

食事宅配:インスタカートは21年にミールキットを手掛ける米サンバスケット(Sunbasket)、22年に食材や調理済みの食事を手掛ける米クイックリー(Quickly)と提携し、両社はインスタカートのマーケットプレイスに新規出店した。これはインスタカートが消費者に直接販売する「D2C」ミールの宅配サービスに事業を拡大したことを示している。

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