苦境ホンダを支える二輪車 稼ぎ頭に迫る中国の影
上期の連結決算では、営業利益4534億円のうち、半分の2247億円を二輪事業が占めた。四輪事業(同635億円)をはるかに上回る。四輪車の販売に関連する金融サービス事業(ローンやリースなど)の稼ぎを合わせても2113億円と、二輪事業の利益には届かない。
前年同期も二輪事業の営業利益が四輪事業を上回っていたが、二輪事業の利益に占める割合は約3割にとどまっていた。二輪事業への依存度は今期に入ってより強まっている。

四輪事業は半導体不足の影響を強く受け、生産を軌道に乗せられなかった。特に中型セダン「シビック」や多目的スポーツ車(SUV)「CR-V」など主力の米国市場にドル箱とも呼べる車種を十分に供給できず、低迷を余儀なくされた。4~9月期の米国での販売台数は46万2000台と、前年同期比44%減という大きな落ち込みとなった。
トヨタ自動車や日産自動車など競合メーカーは22年上期に四輪車のグローバル生産台数を前年同期比で伸ばした一方で、ホンダは減少した。「半導体調達環境は競争他社に対して回復が遅れている感は否めない」。ゴールドマン・サックス証券の湯澤康太マネージング・ディレクターはリポートでこう指摘している。「取引先の中でも、ホンダが半導体不足の影響を比較的大きく受けていた」。ある部品メーカーの幹部も話す。
今回はシビックやCR-Vで使われていた、微細化が進んでいない古いタイプの半導体が特に不足したという。湯澤氏は「今後のモデルチェンジのタイミングで新しい半導体への切り替えを進めることで調達環境は改善する」と指摘する。ただ切り替えや調達の安定化にはある程度の時間が必要だ。一夜にして供給が好転するとは考えにくい。
四輪車の苦境を二輪車が支える構図はしばらく続くだろう。ホンダは足元で電気自動車(EV)シフトに大きくカジを切っており、先行投資はかさんでいる。万が一にも二輪車が不振に直面した場合、ホンダの四輪車のEV戦略も大きく揺らぐことになりかねない。
ホンダを支える二輪車が最も売れている地域はアジアだ。22年上期の二輪車のグループ販売台数920万台のうち、86%に当たる790万台がアジアで売れた。特にインドやベトナム、インドネシア、タイといった主要各国での販売台数は589万台に上る。販売は各国ともおおむね好調で、ベトナムでは9月単月で過去最高の販売台数を記録したという。
ホンダの二輪車は人々の移動の足として完全に定着しており、そのブランドイメージは高く、他社を寄せ付けない強さを誇る。その牙城が容易に崩れることはないだろう。ただし、金城湯池に安穏としていられる状況でもない。脅威は主に中国メーカーが手掛ける電動二輪車だ。
電動二輪車の普及加速
中国では電動二輪車が急速に普及し、既に3億台を超える電動二輪車が国内を走っているという。中国で電動二輪車が普及し始めたのは2000年前後。その勢いはすさまじく、「電動化の波が一気に押し寄せ、(エンジンで走る)スクーター市場が急速にしぼんだ。ゲームチェンジとはこういうことかと思った」。当時を知る二輪事業の関係者はこう振り返る。
「中国製の安価な電動二輪車は既に東南アジアにも入り込んでいる。とても油断できない」と、この関係者は話す。インドネシア政府は35年にも二輪車の国内生産台数の30%を電動化する目標を掲げており、足元では配車大手のゴジェックなど国内有力企業が普及に乗り出している。
東南アジア屈指の工業国、タイで電動二輪車の生産を模索する中国メーカーも少なくない。「中国生産では採算が合わなくなってきた。タイで生産できれば、中国にも輸出できるし、東南アジアでも市場を確保できる」。中国のある電動二輪車メーカーの幹部はこう話している。
二輪車の世界最大市場であるインドでは、現地二輪車最大手のヒーロー・モトコープが既に電動二輪車を発売している。配車大手のオラもグループ会社を通じて電動二輪車を販売し、さらに年1000万台の電動スクーターを生産できる工場の建設も進める。市場の拡大をにらみ、8月には日本電産がインドに電動二輪車向け駆動モーターの工場を新設すると発表した。
電動二輪車がひしめく中国では経済成長が鈍化し、需要は大きくは伸びない見通しだ。そうなると中国メーカーは生き残りを懸けて販路を国外に拡大させようとするだろう。その際、東南アジアは格好の進出先だ。食品や燃料の値上がりが、アジアで電動二輪車を普及させる後押しとなるとも考えられる。
ホンダも手をこまぬいているわけではない。今年9月には25年までにグローバルで電動二輪車を10車種以上投入し、今後5年以内に年100万台、30年には年350万台レベルで販売する方針を発表。ようやく二輪車の電動化に関するビジョンを明らかにした。
11月に入ると主要市場の1つであるインドネシアで30年までに新たに7車種の電動二輪車を投入し、年100万台を販売する計画を明らかにした。「アジアでは相当大きな台数で電動化を進めていく考えを持っている。他社の圧力は感じているが、我々も戦略を持って進めている」(ホンダの竹内弘平副社長)
アジアの二輪車市場が中国のようにあっという間に電動化するとは考えにくいが、かといって雪崩を打って消費者が電動二輪車に乗り換え始める「Xデー」が来ないとも限らない。少なくとも今後は電動二輪車を引っさげて進出する中国勢や新興勢との競争が激化するだろう。
ホンダの四輪車におけるEVシフトを支えるためにも二輪車の電動化は待ったなしだ。四輪車以上の素早い変革が必要とされている。
(日経ビジネス 飯山辰之介)
[日経ビジネス電子版 2022年11月15日の記事を再構成]
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