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鬼滅・トレカ… 世界のオタク化加速する「越境EC」

新型コロナウイルス禍で日本に旅行できなくても、日本のエンタメグッズは海外で着実に売れている
日経ビジネス電子版

トレーディングカードが数千万円で取引され、コミック「鬼滅の刃」全23巻のまとめ買いが引きも切らず続く。人気VTuber(バーチャルユーチューバー)グループ「ホロライブ」の限定グッズに注文が殺到した。

これは日本の話ではない。2021年上半期、海外で起きたトレンドだ。新型コロナウイルスの感染拡大により、インバウンド(訪日外国人)消費は蒸発した。しかし、日本を訪れることができなくても、日本の商品を入手できるルートは開かれている。

それが越境EC(電子商取引)というサービスだ。国内最大手「Buyee(バイイー)」の流通総額(21年1~3月期)は前年同期比45.6%増の77億1600万円と四半期として過去最高を更新した。

「推し活」が世界へ

Buyeeは、ヤフオク!やYahoo!ショッピング、メルカリ、楽天市場、ラクマ、ZOZOTOWN(ゾゾタウン)など日本国内の主要ECサイトと連携し、そこに出品されている商品を、海外にいながらにして購入できるサービスだ。海外から注文が入ったら、Buyeeが代理で購入。日本の出品者はBuyeeの国内拠点に商品を発送するだけでよく、あとはBuyeeが検品し、海外への配送までを一手に引き受ける。

Buyeeは、ヤフオク!やメルカリ、ZOZOTOWNなど日本国内の主要ECサイトの商品を代理購入してくれるサービスだ

配送先として目下、最も伸びているのが、米国である。特に利用者が多いのは、20代の男女。「日本のゲームが大好き」と語る米国在住の25歳の女性はBuyeeで約80回購入し、累計15万円以上を費やした。フェイスブックのゲームグループに参加しており、そこで情報を収集しているという。

コロナ禍でステイホームを強いられた結果、日本のエンタメコンテンツに接する時間が増えた。それが流通総額を押し上げている。「新型コロナをきっかけに、世界のオタク化が進んだ」と分析するのは、Buyeeの運営企業を傘下に持つBEENOS(ビーノス)の直井聖太社長兼グループCEO(最高経営責任者)だ。好きなアイドルやキャラクターなどを応援する日本の「推し活」文化が、越境ECを通じて、世界に広がり始めている。

ヒットまでの「時差」が縮まる

注目すべきはヒットまでの「時差」が縮まっていること。Buyeeに参画する総合書店サイト「honto」で海外客に売れたのは、「鬼滅の刃」をはじめ、「進撃の巨人」「呪術廻戦」「東京卍リベンジャーズ」など。日本でも大ベストセラーのコミックスだ。

「以前は日本でヒットしてから海外で発売され、人気になるというタイムラグがあった。コロナ禍の巣ごもり需要で動画配信サービスが浸透し、日本ではやっているコンテンツが海外でもリアルタイムに人気が出るようになった」。hontoの担当者はそう実感を込める。日本では最新刊から売れる傾向にあるが、海外では1巻から、あるいは送料負担を考慮して全巻まとめての購入が目立つという。

男性同士の恋愛を扱った「BL(ボーイズラブ)」の作品も、米国、中国、台湾、タイを中心に引き合いが強かった。

BLというジャンルは日本発祥とされるが、近年は「2gether」(タイ)、「陳情令」(中国)など海外発でヒットドラマが生まれている。「BL沼」にハマるファンが、国境を越えてじわりと増えているのだ。テレビ東京系で20年にドラマ化された「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい(通称:チェリまほ)」の主演・赤楚衛二を表紙に起用した雑誌「My TV Style 2021年8月号」は発売前から台湾で話題になり、問い合わせが殺到した。

1970年代から80年代にかけて日本でリリースされたシティポップのLPレコードは、時代を超えて「発掘」された。竹内まりやの「プラスティック・ラブ」、松原みきの「真夜中のドア~stay with me」、大貫妙子の「都会」――。音楽配信全盛の中、ジャケットや温かみのある音質が逆に新しく、モノとして手元に置きたいというコレクター心をくすぐっている。シティポップ関連商品のBuyeeでの流通量(21年1~3月期)は、前年同期比2.24倍に急伸した。

この他、急成長しているジャンルが、VTuberだ。英語と日本語のバイリンガルVTuber桐生ココの「誕生日記念ジャージパーカー」は1万円と高額にもかかわらず、世界中のファンが争奪戦を繰り広げた。

1点当たりの販売数は少なくても、取り扱っている商品数が膨大なだけに、その積み重ねが大きな経済効果を生む。越境ECは、まさにロングテールのビジネスモデルだ。Buyee上のトレーディングカードの流通量(21年1~3月期)は前年同期比2.42倍、流通額は4.51倍と急拡大した。

商品別1位は岐阜のはさみ、いぶし銀に鉱脈あり

ジャンル別ではなく、商品別に売れ筋を追うと、ロングテールの特徴がより際立って見える。21年上半期(1~5月)の購入件数でトップに立ったのは、やおき工業(岐阜県関市)の「パンフラワー用ハサミ」。パンフラワーとは粘土細工のこと。関市は「刃物のまち」として知られ、コロナ禍の「おうち時間」で手芸などに重宝された。

2位に名を連ねたのは、倉敷化工(岡山県倉敷市)の「軽量用防振ゴムKXBシリーズ」。小型ポンプやファン、モーターなどに使われる部品で、はさみ同様、日本の精緻なものづくりが支持された格好だ。

3位はマテル・インターナショナル(東京・千代田)のミニカー「ホットウィール ニッサン・シルビア S15」。5位に浜田商会(大阪市)の釣り具「ASA015ハゲ皮サビキ」が入るなど、ホビー商品も上位につけた。9位にランクインした猪商店(大阪市)の「綿シャーチング・オフホワイト精錬済み」は、藍染めや草木染に使われる布である。

食品関係では4位に日清フーズ「日清 スーパーカメリヤ ドライイースト(お徳用)」、8位に昭和産業「業務用パリッジュ~から揚げ粉」が食い込んだ。

Buyeeで21年1月~5月に売れた商品のランキング。「パンフラワー用ハサミ」をはじめ、かなりニッチな商品が並ぶ

ベスト10の顔ぶれを見て分かる通り、いわゆる「爆買い」で連想するような華やかな高級ブランドは皆無。どちらかといえば、ニッチでいぶし銀的なアイテムばかりが売れている。裏を返せば、そこに未開の鉱脈が広がっている。

予測不能なヒットが生まれる

インターネット上に並べておくだけで口コミが口コミを呼んで勝手に売れることがある。それが越境ECの特徴であり、面白さだ。例えば、5位のサビキ(シラスに似せた疑似餌)は「簡単に使えて、水中でいい動きをする。針が特殊で魚を逃さない」と北米の釣り好きの間で評判になったことが、ロングセラーにつながった。

「以前であれば釣具店に行って『どれがいいですか』と尋ねていたのが、今は動画投稿サイト『ユーチューブ』で釣り番組を見て『道具ならこれがいい』と学んでから釣りに入っていく時代。世界中で情報がつながっているからこそ、爆売れしそうな商材でなくても、情報が拡散し、自然な広がりが発生する」(直井氏)。世界の所得水準が上がり、趣味にお金を使えるようになったことも、この現象に拍車をかけている。

現状はBuyeeというサイトを経由して注文する形を取っているが、BEENOSでは今後、現地で最も使われているECサイトから直接、日本の商品を買える体制を整えようとしている。

既にグループ会社を通じ、ポケモン(東京・港)の「Tモールグローバル(天猫国際)」への出店を後押しした。店名は「ポケモンセンター海外旗艦店」。オンライン店舗の運用や中国へのポケモングッズの配送を担っている。21年3月にはメルカリと中国アリババグループの間を取り持ち、メルカリで出品された商品が、中国最大級の通販サイト「淘宝(タオバオ)」、フリマアプリ「閑魚(シェンユー)」にも表示されるようにした。

BEENOSグループは、Tモールグローバルで「ポケモンセンター海外旗艦店」の運営を担っている

越境ECは、コロナ禍限定の特需なのか。直井氏はその可能性を否定し、コロナ後も伸び続けると予測する。世界のEC市場そのものが年々拡大しているのに加え、日本へ再び旅行できるようになれば、それが日本の商品に触れる入り口になるからだ。

「宿泊した温泉旅館で飲んだ日本酒がすごくおいしかった」「レストランで出てきた皿がすてきだった」。旅をきっかけにファンになり、帰国後は越境ECを通じて取り寄せるという消費行動が定着すれば、日本の津々浦々にある知られざる逸品が、海外で日の目を見るという「逆転現象」が起きるかもしれない。

現地に行かないと買えないと思っていたものが、ネット上で簡単に買える。越境ECは、日本と世界の心理的距離を大きく縮めるツールになり得る。

(日経ビジネス 酒井大輔)

[日経ビジネス電子版 2021年8月11日号の記事を再構成]

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