パナソニック、車載電池の上場も テスラ向け第2弾

「まずは和歌山工場で量産をしてから米国に投資すべきかを見極める。投資規模によっては上場もあるかもしれない」
11日、決算発表前に急きょ開かれたパナソニックHDによる記者会見。主題は21年に同社が買収した米ソフトウエア会社、ブルーヨンダーを中心とする新会社の株式上場を検討するとの内容だったが、楠見社長は車載電池の事業会社「パナソニックエナジー」の上場可能性について問われるとこう説明した。
和歌山工場で試作 「本丸」は米国工場
エナジー社の話題が出るのも無理はない。パナソニックHDの数ある事業の中で最も資金力が必要とされるのが車載電池だからだ。業界関係者は「装置産業である車載電池こそ資金力が不可欠」と話す。同社としても17年に2000億円程度を米テスラ向けの電池工場「ギガファクトリー」に投じて以降、大規模投資はしていない。
その車載電池で注目されるのが、ギガファクトリー以来の大規模投資となる米国投資に踏み切るかどうかだ。パナソニックHDは23年度、約800億円を投資し、和歌山県に高容量の新型円筒形電池「4680」を量産する工場を建設する。ただ、これは「試作」にすぎない。同社が試作の先に見据えるのが「本丸」となる米国工場である。

大規模投資への判断に追い風を吹かすように、車載電池の業績は改善している。11日同社が発表した22年3月期連結決算では車載電池の営業利益は前の期比約2倍となり、3年ぶりの増収増益。電子部品事業などとともに全体の業績の押し上げ要因となり、パナソニックHDの売上高は2年ぶりに7兆円を回復した。
「短期間で米国工場を立ち上げる」
電気自動車(EV)用の電池は世界的に旺盛な状況が続くと見込まれる。すぐ増産に入る判断もあり得そうだが、まずは試作のための工場を建設するという。慎重姿勢を取るのはなぜなのか。
パナソニックHD幹部の頭をかすめるのが17年に生産開始したギガファクトリーの立ち上げ時の苦労だ。世界でもトップ級の電池技術を持つ同社だが、歩留まりの改善に苦しみ、黒字化まで4年以上かかった。
エナジー社の只信一生社長は「今回は短期間で立ち上げられるように国内でまず見極める」と話す。電池業界に詳しい調査会社テクノ・システム・リサーチのアナリストは「前回の反省を受け、満を持して出て行く構えだろう」と解説する。
パナソニックHDは車載電池全体では中韓勢にシェアを奪われ続けている。だが、円筒形電池に限れば同社の優位性を評価する見方は多い。みずほ銀行の湯進主任研究員は「車載電池の世界最大手、中国の寧徳時代新能源科技(CATL)も24年に円筒形を量産する予定だが、この分野ではパナソニックHDに太刀打ちできない」と指摘。円筒形では同社が依然、技術面で他社を圧倒する。テスラが円筒形を使い続ける限り、優位性が続く可能性は高そうだ。
パナソニックHDが22年4月に移行した持ち株会社制度は、各事業会社の競争力強化が狙いだ。権限は従来以上に事業会社に委譲され、早速、ブルーヨンダー新会社の上場検討を打ち出した。車載電池を巡っては「中韓勢に見劣りする資金力」(アナリスト)が最大の弱点といわれ、上場の可能性を指摘する声が一部出ていた。楠見社長の発言でその現実味が高まった。
(日経ビジネス 中山玲子)
[日経ビジネス電子版 2022年5月16日の記事を再構成]
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