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「U35会員権」が開くゴルフ新市場 若者狙い大ヒット

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「とにかくゴルフがうまくなりたかったし、共通の話題で盛り上がれる。1人参加のプレーにもすぐに慣れました」。こう語るのは埼玉県所沢市に住む会社員の小菅大介さん(27)だ。約3年前、社内ではやったのをきっかけにゴルフを始めた。

比較的安価なゴルフ場でラウンドしていたが、毎度知人と予定を合わせるのが難しくなった。そこで、1人参加型・同伴者募集型のゴルフサイトに登録。初めて会う男性3人とラウンドを楽しんだ。以降も同サイトを利用しゴルフ仲間を増やしている。

そんな小菅さんがSNS(交流サイト)の広告で見つけたのが、35歳以下限定の会員制度があるゴルフ場だった。

入会金1万1000円、年会費1万1000円。会員になるとプレー料金が平日3700円で通常より2000円ほど、土日祝日は5700円で数千円それぞれ安くなる。すぐ応募し、これまで80回以上ラウンドして腕を磨いた。「会員限定のコンペも実施しており、年が近いだけにすぐ仲良くなれる。キャディーとも顔見知りになれるし、今はプレーよりもゴルフ場で人と交流することの方が楽しい」と語る。

この会員制度を創設したのが栃木県鹿沼市の「鹿沼72カントリークラブ(CC)」だ。ゴルフを長く続けてもらえるように若いゴルファーの取り込みを狙い、2017年から募集を始めた。そんなさなか、新型コロナウイルス禍の追い風が吹いた。

日本ゴルフ場経営者協会によると、21年度のゴルフ場の延べ利用者数は、前年度比10.3%増の8969万人。コロナ禍前の19年度と比べて373万人増えた。21年度の1ゴルフ場当たりの延べ利用者数も前年度比10.7%増の4万641人と24年ぶりに4万人を超えており、「家族や仲間と楽しめるレジャースポーツとしてゴルフが評価された」(同協会)。けん引役は若年層の新規ゴルファーとみられており、鹿沼72CCでも35歳以下の会員1300人を獲得し、正会員の減少を一定数カバーできた。

「会員制度を考えたきっかけは、16年にニュージーランドに行ったこと」。同ゴルフ場を運営する鹿沼グループ(栃木県鹿沼市)の福島範治社長はこう振り返る。

ニュージーランドは人口当たりのゴルフ場数が世界1位とされる。現地を視察すると、ゴルフ場の会員制度が多種多様なことに気づいた。正規、9ホール利用、初心者、30歳以下、18歳以下──。日本の場合はほとんどが正会員のみだ。

福島社長は、ビジネスチャンスがあるとみて、30歳以下の会員制度を新設することにした。だが、反応は全くない。「ゴルフは27〜28歳から始める人が多い。すぐに退会しないといけない」「割高だ」などの意見が噴出した。

そこで制度の対象年齢を35歳以下とし、価格を見直してSNSに広告を出した。これが「見事当たった」(福島社長)。会員は100人、200人、1000人と増え、正会員数とのバランスも考え、最終的に約1300人で募集を打ち切るまでになった。

福島社長が驚いたのは会員の居住地だ。鹿沼72CCの35歳以下は東京都が44%を占め、栃木県と埼玉県が各約2割。一方、60歳以上が7割を超える正会員は栃木・埼玉が70%弱に対し、東京は16%だった。SNSなどでのマーケティングが功を奏し、新たな顧客層を開拓できた。

若者を意識した取り組みはこれだけではない。ナポリピザのコンテストで受賞経験もあるシェフが監修し、専用窯で焼き上げる本格ピザをクラブハウスで提供、地元自治体と連携して子供を対象にピザづくりを体験する催しも開催する。クラブハウスの一角に210以上の世界の有名コースを楽しめるシミュレーターでのバーチャルゴルフを楽しんでもらう有料ラウンジも設けた。ここで婚活パーティーも開き、22年8月のラウンジ開設以来、2000人以上が利用した。

こうした施策が奏功し、鹿沼72CCを含む鹿沼グループのゴルフ場の来場者は20年が前年比13%減と下がったが、21年が同15%増、22年も同5%増と息を吹き返し、売り上げもほぼ同様の傾向だ。

鹿沼グループはバブル崩壊のあおりを受け、民事再生法適用からの再出発という苦い経験をしている。福島社長は「これからのゴルフ場はかつての不動産産業のフィー(手数料)ビジネスから、サービス産業へと転換しなければ生き残れない。地域密着でまた来たいと思ってもらえるようなエンターテインメント性のある『次のゴルフ場』づくりを目指す」と語る。今後も、地元自治体と連携し、若者が多く集まるようなゴルフ場づくりを進めていくという。

(日経ビジネス 小原擁)

[日経ビジネス電子版 2023年3月15日の記事を再構成]

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