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供給網CO2を高精度に測る イオンや三菱UFJ銀行

Earth新潮流 日経ESG編集長 馬場未希

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

大手企業が取引先の二酸化炭素(CO2)排出量に関する高精度の情報を集め始めた。イオンはサプライチェーン全体からの温暖化ガス排出量の削減のため、2012年度から続けてきた「スコープ3排出量」の管理や削減策を本格化する。将来は「トップバリュ」ブランドの食品など店頭に並ぶ多数の商品の製造過程におけるCO2排出量をより高精度に算出し、40年度までに製品製造を含む事業からの排出量を実質ゼロにする。

スコープ3はサプライチェーンの上流と下流の排出量を指す。事業に必要となる調達品や原材料が製造されるときの排出量や、販売した製品が使われるときの排出量もスコープ3だ。ほかに社内で燃料を燃やすことによる排出(スコープ1)と、買った電気や熱を使うことによる間接的な排出(スコープ2)がある。

イオン、スコープ3削減

イオンはスコープ3が最も多く、中でも原材料の調達、容器や包装の外部委託などによる排出量が多い。店舗への再生可能エネルギーの導入でスコープ2削減を進めてきたイオンが、次に取り組むのがスコープ3の削減だ。

50年までの脱炭素には、規模の大小を問わずあらゆる企業や経済活動のCO2削減が必要だ。サプライチェーンの頂点に立つ企業は、取引先と協力して排出量を実態に近い形で把握し、各社の排出や削減を分析して、効率的な対策を打つ必要に迫られている。

ここにきて、企業が一斉に排出量算定に乗り出した。きっかけは、東京証券取引所の市場再編だ。最上位のプライム市場への上場に、スコープ1と2の開示が必要になり、スコープ3も推奨事項となった。プライム上場企業が対応を求められる「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の指針は2021年秋の改訂時にスコープ3の開示を「強く推奨」した。

イオンのケースでさらに注目すべきは、「より高精度」の算出に乗り出したことだ。これまでのサプライチェーン排出量の算定は多くの場合、「推計値」の域を出なかった。今、イオンをはじめ企業が「より高精度」の算定に乗り出した。その理由について「取引先の企業1社ごとの排出実績や削減努力を評価したいとの考えがある」と、温暖化対策に詳しいみずほリサーチ&テクノロジーズの森史也主任コンサルタントは説明する。

高精度の排出量算定を支援するITサービスの開発も活発化している。21年にプライム市場上場の条件が明らかになったのと同じ頃、世界のIT企業が同サービスの提供に乗り出した。22年3~4月は毎週のように国内外IT企業による記者会見や報道発表が続いた。

排出量算定クラウド

小売業と同様に巨大なサプライチェーンを擁する自動車業界で、排出量算定サービスの活用が広がりつつある。

化学メーカー大手の藤倉化成は自動車部品のコーティング材や、住宅外壁用塗料などを主力事業とする。ITスタートアップのゼロボード(東京・港)が開発した排出量算定クラウドサービスを導入した。

「スコープ3? 一体、何かと戸惑った」。CSR推進室の佐々木功司室長は顧客企業が開催したサプライヤー向け説明会に、21年秋に参加したときをこう振り返る。プライム市場に上場している顧客企業は、上場要件を満たすため、開示が推奨されるスコープ3の情報を収集しようとしていた。藤倉化成も自社のスコープ3算定に乗り出した。

最初は表計算ソフトで計算した。「1年間に調達した全ての資材と購入量を教えてほしい」。調達部門に頼むと、同社の基幹システムから抽出した長大なリストを渡された。3年分の調達資材の生産時の排出量算定に数カ月でめどを付けた。今後は算定サービスの導入で、算定に割く時間を大幅に短縮できるという。

ポートフォリオ排出量

スコープ3算定を迫られているのは、金融機関も同じだ。特に融資先の企業や、保有している株式・債券などの発行企業が排出する温暖化ガスの量を全て足し合わせた「投融資資産のポートフォリオ」の算定には膨大な労力が要る。投融資先に算定サービスを導入する企業が増えれば、ポートフォリオ排出量の算定を省力化できる。

3月、三菱UFJ銀行と日本格付研究所(JCR)、ゼロボードは協業を始めると発表した。三菱UFJ銀行は大手企業向けに組成してきた、ESG目標の達成で金利を優遇する「サステナビリティ・リンク・ローン」を、中堅・中小企業にも展開する。省エネ設備導入資金などへの融資と、算定サービスの提供を組み合わせて、設備導入によるCO2削減効果を把握しながら脱炭素経営を実践できるように融資先企業を導く。

事業を取り巻く排出量の把握は、これからの脱炭素経営の一歩になる。信頼性と透明性が高く、精度も高い情報を開示できれば、顧客の評価が高まり、資本市場から資金供給も得やすくなる素地が作られつつある。

一方、排出量算定の最終目的は、網羅的で緻密な情報収集を追求することではない。CO2削減につながる事業や投資、その経営判断に生かすことだ。例えば世界でも早い時期にスコープ3算定に着手したキリンホールディングスは、算定結果を基に最も排出量の多い容器製造で、排出削減のためにアルミやプラスチックの効率的な使用に取り組んできた。

当面はスコープ3排出量の開示の有無で顧客や投資家が評価することもあろう。だがいずれは、サプライチェーン全体で削減の優先度を見極め、費用対効果の高い脱炭素対策を打つ経営判断に、排出データをどう生かしているかが企業の価値評価を左右するようになる。

[日経産業新聞2022年5月20日付]

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