VRでランニングも 「宅トレ」スタートアップ続々

新型コロナウイルス禍で在宅フィットネスは不可欠な存在になった。今やスポーツジムや小規模な特化型スタジオ「ブティックスタジオ」は営業を再開しているが、多くの消費者は日課にしているトレーニングの少なくとも一部を自宅で続けている。
こうした状況を受け、インターネットに接続した「コネクテッドフィットネス」機器や配信サービス、ウエアラブル端末を提供するスタートアップが続々と登場している。例えば、米エルガッタ(Ergatta)のスマートボートこぎマシン(ローイングマシン)はゲームや競争によりやる気を促す。同様に、米バーチュイックス(Virtuix)は好きなゲームをプレーしながら全身運動できる没入感の高いランニングマシン(トレッドミル)を手掛ける。
一方、企業は米ペースライン(Paceline)などのスタートアップと提携し、福利厚生にフィットネスやウエルネスのプログラムをとり入れている。ペースラインは運動するとキャッシュバックを受けられる報酬(リワード)サービスを手掛ける。
シニア向けのフィットネステックを提供する初期段階のスタートアップも増えている。各社は理学療法や、疾病を予防するコンテンツなどの提供に力を入れている。

CBインサイツのプラットフォームを活用し、こうしたコネクテッドフィットネスの未来を形成しつつある初期段階のスタートアップ約80社を抜き出した。
この市場マップに掲載した企業はベンチャーキャピタル(VC)から出資を受けており、シリーズAまでのラウンドで資金を調達している。
マップはこの分野の企業を網羅するのが目的ではない。カテゴリーは重複している場合もある。

ポイント
・2021年に入ってからのフィットネス分野への投資額はすでに72億ドルに達し、20年通年の2倍以上にのぼっている。初期段階のスタートアップは米マベロン(Maveron)や米ファースト・ラウンド・キャピタル(First Round Capital)などのVCから出資を受け、コネクテッドフィットネス機器やウエアラブル端末などの分野に続々と参入している。
・シニア(55歳超)向けフィットネス市場が拡大しつつある。スタートアップ各社は人工知能(AI)技術を活用した理学療法(米ワイズケア=Wizecare)、仮想現実(VR)を使ったエクササイズ(スペインのオロイ=Oroi)、オンラインフィットネス(米ビボ=Vivo、米ボールド=Bold、スペインのロジータ・ロンジェビティ=Rosita Longevity)を手掛けている。
・企業が従業員の心身の健康を推進する「コーポレートウエルネス」は最も重要な分野になりつつあり、雇用主は在宅勤務の従業員にもプログラムを拡大している。スタートアップは活動に基づく報酬プログラムを通じて従業員のウエルネス向上を目指す法人向けソフトウエアやサービスを提供している。
例えば、アラブ首長国連邦(UAE)のステッピ(Steppi)は歩数と引き換えに割引クーポンを提供し、活動を促す。ブラジルのハダルフィチ(RadarFit)のゲームアプリでは、利用者は日々の行動や運動の報酬としてコインを獲得し、健康や運動の目標を達成すると実際の賞品と交換できる。
カテゴリーの内訳
コネクテッドフィットネス機器:ネットに接続したローイングマシンやバイクなど、在宅フィットネス用のコネクテッドフィットネス機器を手掛ける企業。
例えば、米ハイドロー(Hydrow)のローイングマシンは、水上でボートをこいでいるような体験をしながらインストラクターの指導を受けられる。一方、米クライマー(Clmbr)のコネクテッドクライマーを使えば、自宅にいながらにして垂直クライミングができる。
アプリ&配信サービス:好きなときにトレーニングできるフィットネスクラスのストリーム配信やアプリを手掛ける企業。米モキシー(Moxie)はプロのインストラクターによるクラスをライブやオンデマンドで配信する。ダンスクラス(米ダンスチャーチ=Dance Church)や瞑想(めいそう、米オープン=Open)、筋トレ(米オベ=Obe)など特化型のオンデマンドレッスンを提供するスタートアップもある。
ウエアラブル端末&デジタルトレーナー:運動レベルを数値化したり、運動療法を通じて利用者を指導したりするために健康データを取得するウエアラブル端末を提供する企業。
アイスランドのタイムウエア(Tyme Wear)や英プリベイル(Prevayl)は小型の追跡センサーと「スマート」シャツを組み合わせ、モバイルアプリで健康やパフォーマンスについての個別の知見を提供する。
同様に、米フォームセンス(Formsense)のウエアラブルシステムはスポーツウエアに20以上のセンサーを埋め込み、ウエアを着用したアスリートのフォームを追跡することで、けがを減らし、疲労回復を促す。同社の製品はプロのスポーツチームやアスリート向けに開発された。一方、米ニックス(Nix)は汗を感知する生体センサーのデータに基づき、アスリートの水分補給レベルを追跡する。
ジム&スタジオネットワーク:対面の集団フィットネスやレッスン、ジムの制限を設けない利用を推進している企業。韓国のDa-gymは自社のスポーツ施設ネットワークの口コミを掲載し、割引クーポンを提供する会員プラットフォームを構築している。
一方、ドイツのアーバンスポーツクラブ(Urben Sports Club)はドイツ、フランス、イタリアの各都市でジムを利用できるサブスクリプション(定額課金)サービスを提供している。米フィットリザーブ(Fitreserve)は対面やライブ配信の様々なスタジオのトレーニングを組み合わせることができるマルチスタジオ会員システムを手掛ける。
フィットネスソフトウエア:入会やオンラインでの決済処理、会費、クラスの運営、予約スケジュールの管理、分析などフィットネス事業の中核業務を管理するソフトウエアを手掛けるスタートアップ。
例えば、アイルランドのグロフォックス(Glofox)は最近、新たな機器の購入や人材育成、スタジオ内体験の改善など事業拡大を支援する柔軟な資金をスポーツジムに提供するため、米VCストライプキャピタル(Stripe Capital)と提携した。
コーポレートウエルネス:従業員にウエルネスサービスを提供する企業向けのソフトウエアシステムを手掛ける企業。米ジアモ(Zeamo)や米グローカー(Grokker)などがこれに含まれる。米クラウドフィット(KrowdFit)、オーストラリアのパモル(Puml)、南アフリカのストローブ(Strove)などは、従業員に割引クーポンや賞金と引き換えにフィットネスプログラムへの参加を促すリワードプログラムを提供している。
VRフィットネス&ゲーム:VRを使って没入感の高い在宅エクササイズ体験を生み出す企業。例えば、英クアル(Quell)はエクササイズ用バンドを使い、プレーヤーが仮想世界で戦いながら運動できるようにする。英フィットXR(FitXR)は米メタのVR端末「オキュラスクエスト」で仮想ボクシングやダンスのクラスを提供している。
フィットネストラッカー:ランニングやサイクリングなどの活動を追跡するモバイルアプリを開発している企業。利用者同士でやり取りしたり、競争したりできるコミュニティー機能も搭載している。
例えば、ドイツのヤス(Yas)はランニングや自転車、ヨガ、ロッククライミング時の活動量を追跡できるアプリを手掛ける。米ヘッズアップヘルス(Heads Up Health)は臨床やライフスタイル、食事、自動収集のデータを個別の分析や知見と統合し、健康とフィットネスを一体化する。
センサーメーカー:米バレンセル(Valencell)や米ベンドラボ(Bendlabs)などのスタートアップは専用センサーを開発し、ウエアラブル各社に自社技術の使用許可を与えている。
トータルでの健康&フィットネスの指導:減量や食習慣の改善など行動の変化を通じて消費者を指導するデジタルプログラムを提供する企業。米アセンセイ(ASensei)はアプリと機器、センサー技術を駆使し、リアルタイムの音声フィードバックで利用者を指導する。一方、米エクサー(Exer)はAIを活用したモーションソフトウエアによる指導プラットフォームを運営している。
3D(3次元)ボディースキャニング:インドのポートル(Portl)や米シェイプスケール(ShapeScale)は身体を3Dスキャンして体重や筋肉量、体脂肪率などの体格を測定し、追跡する技術を開発している。
シニア向けフィットネス:VRを使ったウエルネスプログラムやシニアに特化したオンライントレーニングなどにより、シニア向けフィットネスをより使いやすく、効率化するスタートアップ。
オロイは世界の様々な場所をバイクで走行したり、認知機能を刺激するゲームをプレーしたりできるVRプログラムを開発している。ボールドは高齢者の筋力や柔軟性、バランスが向上するように設計されたトレーナーとのフィットネスプログラム、科学的評価、個別のフィットネスプランを提供する在宅デジタルフィットネスプラットフォームだ。
関連リンク
関連企業・業界