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Netflixはディズニーになれるか、知財活用に軸足

CBINSIGHTS
動画配信サービスの市場拡大ペースが鈍化するなか、米大手ネットフリックスが次の手を模索している。広告付きプランの導入など既存事業のてこ入れのほか、知的財産の活用やゲーム事業の拡大など新たなビジネスモデルの構築に向けた取り組みを進めている。ネットフリックスが提携・買収した企業などから同社が目指す姿を探った。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

ネットフリックスは消費者と直接つながる「D2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)エンターテインメント」というビジネスモデルを開拓し、メディア界の巨人になった。2022年の売上高は316億ドル(約4兆3000億円)にのぼる。

それでもなお、エンターテインメント分野でSNS(交流サイト)やゲーム、動画配信大手との激しい競争を勝ち抜くため、ビジネスモデルの変革に取り組んでいる。

ネットフリックスのアドテクノロジー(アドテク=広告技術)や価格戦略、コンテンツ制作費は大きな注目を集めるが、同社の活動からは今後の重要戦略や米ディズニーのような企業への移行など他の構想もうかがえる。

今回のリポートではCBインサイツのデータを活用し、ネットフリックスの21年以降の買収や提携から4つの重要戦略をまとめた。この4つの戦略でのネットフリックスとのビジネス関係に基づき、企業を分類した。

・アドテク

・関連グッズ

・デジタルコンテンツ

・ゲーム

ポイント

・より広い加入者層にアピールするため、戦略的な提携や買収によりコンテンツを拡大している:デジタルコンテンツは4つの重要戦略のうち、ネットフリックスが最も活発に動いている分野だ。21年以降、少なくとも14件の重要な提携や買収を進め、フィットネスからアニメまであらゆる分野にコンテンツを拡大している。

・主に提携を活用してデジタル広告事業を発展させている:広告の導入でネットフリックスの収益がどれほど改善するかに注目が集まっている。だが同社はM&A(合併・買収)ではなく提携に目を向け、この分野で徐々に前進している。

・ゲーム分野で速やかに存在感を築くため、ゲーム開発会社を買収している:22年だけでゲーム開発会社3社を買収し、この分野で足場を固める姿勢を示している。参入に成功すれば、新たな収益源や広告の機会が開ける。

・ディズニーのように知的財産(IP)で稼ぐビジネスモデルに軸足を移しつつある:ネットフリックスの重要戦略を俯瞰(ふかん)すると、映画やテレビのコンテンツ、ゲーム、グッズなど知的財産を軸にした包括的な「ユニバース(経済圏)」を構築しようとしていることが分かる。これはディズニーの運営方法に似ている。

アドテク

ネットフリックスは22年11月、収益を改善するために広告付きプランを開始した。売上高全体に占める広告事業の割合を最終的には10%以上にする考えを示している。

23年1〜3月期の決算説明会では、広告が同社の収益を大幅に高める可能性を以下のように示した。

「細かい点は控えるが、(広告には)約50%かそれ以上の増益効果があると考えている」――23年1〜3月期、スペンサー・ニューマン最高財務責任者(CFO)

ネットフリックスは買収または社内での部署新設により広告機能を築こうとしているとされるが、ビジネス活動では主に提携を通じてアドテクを開発していることが示されている。

マイクロソフトはネットフリックスの広告付きプランや運用型広告の取引プラットフォームを支える技術を提供している。

関連グッズ

ネットフリックスはここ数年、衣料品や飲料など様々な消費者向け商品に知的財産の使用権を与えている。

こうした提携は限定的だが、同社が動画配信以外の新たな収益化手段に注目していることを示している。例えば、英酒類大手ディアジオとの提携では、ネットフリックスの人気ドラマ「ブリジャートン家」に基づいたカクテルキットを発売した。

はやり廃りが早い今のエンターテインメント業界では、これは特に重要だ。

新たなコンテンツが大量にリリースされるなか、ネットフリックスは短くなる一方の人気期間をフル活用するために、関連性の高い提携先を見つけ、グッズの生産サイクルをより短くするよう迫られている。言い換えれば、今の人気メディアの限られた寿命から利益を得るには、期間や数量を限定して一気に売り抜ける「ハイプ商法」を活用する必要がある。

これは利益をもたらす可能性がある。ディズニーのように成功を収めている企業は、知的財産の使用権供与で数十億ドルを稼いでいる。

デジタルコンテンツ

消費者の関心、ひいては広告主の予算を獲得して維持するネットフリックスの戦略の要となるのが、一流コンテンツの開発だ。同社は24年にコンテンツ制作に170億ドルを費やす計画を発表し、この分野で最も活発に買収と提携を進めている。

アニメやフィットネスなど、映画やテレビ番組以外の新たな形のコンテンツも模索している。これは22年10月のオーストラリアのアニメスタジオ、アニマル・ロジック(Animal Logic)の買収や、22年12月の米ナイキとの提携で裏付けられている。

ネットフリックスには知的財産を活用した配信動画やゲームのコンテンツの「ユニバース」を構築し、消費者を引き付けておく力がある。この手法はシリーズ作品を中心に相互につながったユニバースを築いているディズニーと似ている。

ネットフリックスは21年7〜9月期の決算説明会などで、ディズニーとの「差の縮小」について以下のように直接言及している。

「ディズニーのような企業は体験全体の統合という点ではなお当社の先を行く。だが当社も進歩しており、今後3〜5年で差を縮め、目を見張るようなオールラウンドな体験で抜きたいと考えている」――21年7〜9月期、ネットフリックスの共同創業者、リード・ヘイスティングス氏

いくつかの提携は、知的財産を軸にコンテンツの拡充を目指すネットフリックスの野望を示している。例えば21年9月には、ゲームや映画、没入型体験などコンテンツの「ユニバース」を築くため、英ロアルド・ダール・ストーリー・カンパニー (RDSC) を買収した。同年には映画やゲーム、仮想現実(VR)のコンテンツを増やすために米ションダランド(Shondaland)との提携を拡大した。

ゲーム

ゲームはネットフリックスがデジタルコンテンツの次に活発に動いている分野だ。

同社は21年11月に参入したゲームで、新たな収益源を築こうとしている。米スプライ・フォックス(Spry Fox)、米ボス・ファイト・エンターテインメント(Boss Fight Entertainment)、フィンランドのネクスト・ゲームズ(Next Games)、米ナイト・スクール・スタジオ(Night School Studio)などのゲーム開発会社を相次いで買収し、今や社内に6つのゲームスタジオを持つ。

「加入者の全てのネットフリックス対応端末でゲームを楽しめるようにする」目標を掲げ、スマートフォンをコントローラーとして使うオンラインゲームの開発に取り組んでいるとされる。

米ロブロックスなど成功しているプラットフォームを見ると、ゲームは特にバーチャルグッズの販売により、ネットフリックスに広告や収益化のさらなる機会をもたらす可能性がある。

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