2021年アナログレコード・チャート 4万枚超えた1位は
音楽シーンの中で確実に存在感を増しているアナログレコード。2021年に最も売れたアナログレコードは何か? トップ20に入っているのはどんなアーティストなのか? サウンドスキャンのデータを元に、音楽マーケッターの臼井孝氏が分析する。[※記事中の『』はアルバム、「」はシングル曲を示しています]
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近年、その音質やアートワークへのこだわり、シティポップや歌謡曲、洋楽など20世紀の名盤の再評価などで、人気が高まっているアナログ盤。一時は年間生産金額が2億円を切るまでに落ち込んでいたが(日本レコード協会調べ、以下同じ)、2015年ごろに年間10億円を突破し17年から20年ごろは20億円前後で安定していた。この時期は、中古レコード店はかなり賑わってきていたが、新作リリースがかなり限られた状況にあったように思う。
しかし、21年のデータを見ると、1月から10月末までで32億円と、前年同期比220%のペースを示している。いったいどんな作品が人気なのか、サウンドスキャンで21年1月から11月上旬までの年間データを見てみた。
1位は宇多田ヒカル、2位は山下達郎

トップ10を見ると、20年はゼロだった累計1万枚以上の作品が2作。その中で『エヴァンゲリオン』劇場版シリーズのテーマソング等を集めた宇多田ヒカルのEP盤『One Last Kiss』は4万枚と群を抜いてトップ。CDは碇シンジ、アナログ盤は綾波レイがそれぞれ描かれた原画風のジャケットも購入を促進しただろうが、何より安定のハイ・クオリティーな楽曲やサウンドが大きな要因だろう。
2位には、山下達郎の1991年のアルバム『ARTISAN』の30周年盤が登場。CDも含めた売り上げは約6万枚なので、パッケージ購入の延べ6人に1人はアナログ盤を選んでいるということになる。こちらは、「さよなら夏の日」「アトムの子」などを収録。本人こだわりの最新リマスタリングや全曲解説も大きな魅力だろう。
ちなみに、このチャートではシングル盤は対象外となっているが、世界的なシティポップブームの代表作となった竹内まりや「PLASTIC LOVE」のアナログ盤も発売4週間で累計1.8万枚と大きなヒットとなっている。85年に発売した際はアルバム『VARIETY』からのリカットということもありオリコン最高86位、売り上げも1万枚以下だった。それが今では、CDやストリーミング、ミュージックビデオの動画などで聴けようが、アナログで持っていたいという人が2万人近くいるということだ。
発売パターンも多様化
トップ20を見ると、新作(CD発売から数カ月遅れて発売されたものも含む)が6作、アーティストの旧作の初アナログ化が9作、そして元のアルバムを復刻したものが3作、さらにアナログ盤のために新たに編成したものが2作と、アナログ盤の発売のパターンも多種多様となっている。特に、新作や新編成が増え、そのセールスもスケールアップしていることもアナログ活況の要因と言えるだろう。
8位の藤井風は、昨年に続き約5千枚が発売され、いずれも数週間内に完売し、既に定価の数倍のプレミア価値がついている。ストリーミング全盛となり、CDやダウンロードが徐々に目減りしている中で、音質やビジュアルなど、パッケージならではの魅力が詰まっているアナログ盤が、今後どこまで伸びるかにも注目したい。
1968年生まれ。理系人生から急転し、音楽マーケッターとして音楽市場分析のほか、各媒体でのヒット解説、ラジオ出演、配信サイトの選曲(プレイリスト【おとラボ】)を手がける。音楽を"聴く/聴かない""買う/買わない"の境界を読み解くのが趣味。著書に「記録と記憶で読み解くJ-POPヒット列伝」(いそっぷ社)。渋谷のラジオにてレギュラー番組『渋谷のザ・ベストテン』放送中。 Twitter @t2umusic
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