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日本の入国制限「緩和のふり」? 非効率に不満相次ぐ

日経ビジネス電子版

「政府は外国人労働者の受け入れ再開に前向きに動き出したように感じるが、実態は全然違う。本当に受け入れる気があるのか疑問だ」。東南アジアから日本に外国人技能実習生を送り出している企業の幹部はこう不満をあらわにした。批判の的になっているのは政府が発表した新しい「水際対策」だ。

日本は新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため外国人の新規入国を原則認めていなかったが、11月8日に外国人技能実習生や留学生、短期滞在のビジネス関係者について条件付きで入国できるようにした。東南アジアの国々では日本で働きたくても渡航できず、待機することを余儀なくされていた人も多い。「これでようやく往来が可能になりそうだ」と、実習生の送り出し機関や受け入れ機関(監理団体)の関係者らは歓迎した。

だが、現状で受け入れプロセスがスムーズに進んでいるとは言い難い。分かりづらく煩雑な申請手続きが求められた現場では混乱が広がっており、関係者からは不満の声が相次いで出ている。

「電話は通じず、メールアドレスも分からない」

「手続きを進めたいが、政府の対応があまりにもひどすぎる。どこに相談すればいいのか、どうやって申請をすればいいのか、いつ許可が下りるのか、何もかもがさっぱり分からない」。複数の企業から委託を受けて活動する関東のある監理団体の職員はこう話す。

企業は自社の業務を所管する省庁の事前審査を受けて承認を得れば、受け入れる外国人の入国が認められるようになった。入国後は3~14日間の隔離期間を経て国内での活動が認められる。一刻も早い受け入れ再開を望んできた企業からすれば利用しない手はない。

だが、この「業所管省庁の事前審査」という今回新たに導入された規則が混乱を招いている。自社業務の所管省庁や部署がどこなのかはっきりしない例が多い。申請を受け付けるのは「国土交通省都市局都市安全課」といった各省庁の部署単位となり、公表されている「各省庁申請窓口一覧」には約60の受付先が並ぶ。監理団体や受け入れ企業はどこに申請を出せばいいのか戸惑い、問い合わせをしても省庁間や部署間でたらい回しになるケースもある。

外国人技能実習生の送り出し機関も監理団体も今回の緩和措置について事前に詳しい説明は受けておらず「報道以上の情報がない」(東京都の監理団体)。そこで問い合わせをしようにも、各省庁や部署窓口には問い合わせが殺到しているとみられ「何度電話してもつながらない」(複数の監理団体職員)状況だ。結局、各省庁の担当部署がどういう基準で何を審査するのか、いつまでに結果が出るのかといった基本的な情報すら把握できずにいる。さらに申請関連書類はメールで送るよう指示されているものの、肝心のメールアドレスが記載されていない窓口も少なくない。

監理団体からは「せめて窓口だけでも一本化してほしい」(愛知県の監理団体職員)という切実な声が出ている。また「省庁間で連携が取れているようにも見えない。そもそも各部署は通常の業務で手いっぱいなはず。外国人の受け入れまで審査する余裕があるだろうか」(複数の監理団体関係者)といった不安の声も上がる。

外国人労働者は日本の産業にとって不可欠な存在になっており、人手不足が懸念される中で入国規制が緩和されたことは前進と言えるだろう。だが、このままでは「結局、働く意欲と資格のある人が来日できない状況が続いてしまう」(送り出し機関幹部)恐れがある。

中国・インド製ワクチン接種者への対応どうする

外国人労働者、特に外国人技能実習生の受け入れ再開で対応すべき課題は他にもある。実習生を多く送り出している東南アジア各国は中国が開発したワクチンを承認し、その供給を受けてきた。北京を拠点とするコンサルタント会社ブリッジ・コンサルティングによると、例えばインドネシアには2億1000万回分以上、ベトナムでは1700万回分以上、そしてアジア全域では約7億回分の中国製ワクチンがこれまでに供給されている。

日本での就労を希望する外国人労働者の中にも中国製ワクチンを接種した人は少なくないだろう。ただ日本では承認されていないため「未接種者」として対応されてしまう。世界の流れはどちらかといえば逆だ。世界保健機関(WHO)は今年に入り中国製ワクチンの緊急使用について承認し、米国は11月8日、米、英国製に加え中国製ワクチンでも接種していれば隔離なしの入国を認めるとした。またロイター通信などの報道によれば、英国も11月下旬には同様の対応を取る見通しだ。

さらにWHOは11月、インドの製薬会社が開発したワクチン「コバクシン」の緊急使用について承認した。このワクチンは途上国に普及することが期待されているため、中国製に加えてインド製ワクチンを接種した就労希望者も増えてくる。日本で承認されていないからといって、彼らを一律に「未接種者」と見なして長期間の隔離を求め続けられるか。送り出し国側から何らかの対応を求められる可能性もあるだろう。

今回の新たな入国制限に関する措置の対象は外国人労働者に限らず、日本人の海外出張者や在留邦人にも適用される。日本人の場合、10~14日の隔離を経ての入国であれば所管省庁の事前審査は不要だが、3日隔離を希望する場合は外国人と同様、会社の「受け入れ責任者」経由で所管省庁に行動計画を提出して事前に審査を受けなければならず、帰国後も受け入れ責任者の管理を受けなければならない。

「隔離期間が3日に短縮されると聞き、それならば久しぶりに一時帰国して年末を日本で過ごせるかもしれないと期待していた。だが手続きは複雑で電話も通じず、会社に面倒をかけることにもなる。結局今年も帰れそうもない」。ある日本企業のタイ駐在員はこう肩を落とし、「なぜこんな面倒な仕組みを導入したのか理解に苦しむ」と不満を口にした。

入国のプロセスについては継続的に改善していく必要はある。空港の検疫のキャパシティーといった課題もあるとはいえ、現状の枠組みは明らかに非効率で、結果として入国を希望する者だけでなく、企業や各省庁など多くの関係者に大きな負担を強いる形になっている。

実習生の送り出しの現場からは「受け入れる外国人の数をできる限り絞りたいというのが日本政府の本音なのだろう。入国規制の緩和で感染が拡大してしまった際に、責任の所在を曖昧にしたいといった意図も透けて見える」(送り出し機関関係者)という声も出ている。規制の緩和は「建前」にすぎないのか。手をこまぬいていては混乱も疑念も深まるばかりだ。

(日経BPバンコク支局長 飯山辰之介)

[日経ビジネス電子版 2021年11月12日の記事を再構成]

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