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急成長「クリエーター経済」支えるスタートアップ

CBINSIGHTS
デジタルコンテンツの配信で個人が稼ぐ「クリエーターエコノミー」が広がっている。動画を編集・作成したり、アバター(分身)を動かしたり、彼らを支えるスタートアップも台頭している。その代表的な舞台の一つ、動画投稿アプリの「TikTok(ティックトック)」と絡める形で、クリエーターエコノミーのどんな分野でどんなスタートアップが活躍しているのかまとめた。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

中国の北京字節跳動科技(バイトダンス)が運営する動画投稿アプリ「ティックトック」は、現代のコンテンツクリエーターにとって最高峰のプラットフォームの一つだ。世界のダウンロード数は累計35億件を超える。

クリエーターエコノミーは急速な成長と進化を遂げ、新たなタイプのプラットフォームやコンテンツが次々と現れている。クリエーターとファンをつなぐプラットフォームは、購入判断を下す際の参考材料など、オンラインの購買行動でも重要な役割を果たす。さらに、消費者が直接購入する場にもなりつつある。

クリエーターエコノミーの未来は、フォロワーの「広さ」ではなく「厚さ」が左右するだろう。事業環境は、よりニッチなコンテンツのクリエーターに有利になっており、トークン(電子証票)化されたコンテンツやブランド商品など、新たな収益化手段も増えた。バーチャルインフルエンサーなど、合成メディアによる商機もある。ユーザーとの関わり方やマーケティングの予算配分など、企業のデジタルマーケティングや電子商取引(EC)大手の戦略にも影響が出ている。

今回は、ティックトックの要素技術やクリエーターエコノミーに、テック企業がどう挑んでいるかを取り上げる。各テック企業はコンテンツの制作、配信、収益の方法によって分類した。

カテゴリーの内訳

ティックトックを形作るテクノロジーとプロダクトを以下の3つに分けた。

・動画テクノロジー:動画や3次元(3D)コンテンツに特化したテクノロジーやプラットフォームを提供する企業

・コンテンツ配信:デジタルコンテンツの直接配信と収益化に関するプラットフォームやテクノロジー

・クリエーター事務支援:クリエーターの事務処理を支援し、事業運営を効率化する企業

動画テクノロジー

人工知能(AI)を活用した動画の作成・編集

動画SNS(交流サイト)は百花繚乱(りょうらん)の様相を呈しており、動画コンテンツのニーズは高まっている。ただ、動画は画像など他のコンテンツよりも作成・編集に時間も手間もかかる。

AI動画作成プラットフォームはAIを活用して動画を作成する。アニメやデジタルヒューマンを使う場合もある。被写体と背景の切り抜きや削除など編集機能もあり、短時間で洗練された動画を作成できる編集ツールを提供する。

・米ランウェイML(RunwayML)はAIを活用して、サイズ変更や切り抜き、ビジュアルエフェクトの追加など複雑な動画編集を数分足らずで完了する。

・台湾の集雅科技(GliaCloud)はSNSの投稿やニュース記事など既存の文書や素材を使い、動画を自動で作成する。

デジタルアバター(分身)&合成人間:

本物そっくりまたはアニメ風のアバターのほか、バーチャルインフルエンサーなどAIを活用してオンライン上で人間のように振る舞ったり会話したりする「合成人間」を作成する企業。

CG(コンピューターグラフィックス)で作成した人格は、人間のインフルエンサーと同じような魅力を提供できる半面、リスクや欠点は人間より少ない傾向にある。それでもバーチャルインフルエンサーと組むと、自社の評判に傷がつくリスクはある。例えば、バーチャルAIラッパーのFNメカは初のレコード契約を結んだが、歌詞や風貌が反発を招き、すぐに契約を解除された。

バーチャルインフルエンサーは、台頭するメタバース(巨大な仮想空間)で有名になる可能性がある。メタバースは、バーチャルインフルエンサーがファンや消費者と交流する新たなプラットフォームとして機能するからだ。

・米カリフォルニア州に拠点を置くソウルマシーンズ(Soul Machines)は娯楽など広範な用途を持つ人間そっくりの知的なアバターを開発している。米グーグルやソニーグループ、ネスレ(スイス)のクッキーブランド「トールハウス」、日用品大手の米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)、米マイクロソフトなどと提携・取引している。

・2021年10月にカナダのダッパーラボに買収された米ブラッド(Brud)は、バーチャルインフルエンサー「リル・ミケーラ(Lil Miquela)」をつくった。ミケーラは米アパレルブランド「カルバン・クライン」や「パックサン」と契約し、広告キャンペーンに登場したり、SNSのアカウントに頻繁に投稿したりしている。

・アバター開発の米ジーニーズ(Genies)は、パーソナライズされたアニメ風アバターを作成するプラットフォームを手掛ける。作成されたアバターは同社のモバイルアプリに加え、ソフトウエア開発キット(SDK)やAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース=システム同士が相互に連携するための技術仕様)を通じて様々なプラットフォームで利用できる。ジーニーズは高級ブランド「グッチ」と組み、アバターをカスタマイズするバーチャルアイテムを販売したことで知られる。

ライブストリーミング

コンテンツクリエーターが買い物体験やオンラインイベントをライブ配信するプラットフォームを提供する企業。ライブコマースはアジアで最も人気が高いが、他の地域ではそれほど導入が進んでいない。ティックトックはライブショッピング機能を試し、欧米などの新市場の攻略に取り組んでいる。

・米フリップ(Flip)は美容品のソーシャルコマース(商品を購入できる機能を持つSNS)だ。利用者は22年初めから500%、取引件数は同600%増えている。

・イスラエルに拠点を置くバイウィズ(buywith)はコードの統合やアプリのダウンロードをせずにライブコマースを開催できるプラットフォームだ。

コンテンツ配信

編集新興SNS&メタバース

ティックトックは世界で最も人気の高いSNSアプリの一つで、アクティブユーザー数は月10億人を超える。テック大手もユーザー拡大へ、クリエーターを自社につなぎとめようと奮闘する。消費者の可処分時間を奪おうと、新たなSNSも登場している。

・フランスのSNS「ビーリアル(BeReal)」の1日あたりの利用者はわずか1年で1万人から1000万人に爆発的に増えた。ユーザーは毎日2分間だけ写真を共有できる。

・インドで人気のSNS「チンガリ(Chingari)」は最近、非代替性トークン(NFT)の電子取引市場「マーケットプレイス」を追加した。

一方、次世代のSNSはメタバースで利用が広がる可能性がある。仮想世界はすでに多くのライブコンサートやオンラインゲームの場となっており、プレーヤーが多くの時間を費やしているからだ。メタバース信奉者は実世界の人間のアバターとして暮らすような、社会全体がオンラインに移行して繁栄する未来を思い描いている。

・ブロックチェーン(分散型台帳)上に作られたプラットフォーム「ザ・サンドボックス(The Sandbox)」では、クリエーターはバーチャル素材やゲーム体験を販売して、収益化できる。

コンテンツのモデレーション(不適切なコンテンツの監視・削除)

モデレーションを手掛けるスタートアップは、AIを使ってSNSから悪意ある不適切な投稿や偽情報を見つけ出す。モデレーションのコストは安くない。米メタ(旧フェイスブック)は16年以降、安全とセキュリティー対策に130億ドル以上を費やしている。

コンテンツが増えれば、SNS自体やインフルエンサー、企業にとってはコンテンツが顧客にとって適切で評判にダメージを及ぼさないよう監視するためのツールが必要になる。

・米ハイブ(Hive)はAIを活用して「レディット」や「イクヤク」などのSNSの動画や音声、画像、ライブストリームのモデレーションを手掛ける。

・カリフォルニア州に拠点を置くスペクトラム・ラボズ(Spectrum Labs)はオンラインプラットフォームが文字や音声のメッセージからヘイト(憎悪)スピーチや暴力的な過激主義といった有害な行動を見つけ出すシステムを提供している。

NFT&トークン化されたコンテンツの配信

クリエーターがコンテンツをトークン化できるプラットフォームを手掛ける企業。NFTとは、ブロックチェーン技術によって本物だと証明された画像や楽曲、動画、ツイートなどのデジタル資産やバーチャルグッズを指す。

NFTとブロックチェーンが流通すれば、消費者はコンテンツの代金を支払い、クリエーターは自分のコンテンツを管理して直接お金を稼げるようになる。もはや収入を得るために閲覧数や「いいね!」の数を気にする必要はなくなる。収益を得る可能性はファン層の広さより、厚さで決まるようになり、ニッチなマイクロインフルエンサーでも稼ぎやすくなる。

メタは最近、同社のSNS「インスタグラム」と「フェイスブック」で自分のNFTを掲示できるようにすると発表した。デジタルコレクションが目に付くようになり、様々なSNSで社会的価値が増す可能性がある。

・カリフォルニア州に拠点を置くキャラクシー(Calaxy)では、クリエーターは独自の暗号資産(仮想通貨)を作成できる。ファンはインフルエンサーとのビデオ通話など様々な対価として、この仮想通貨を購入する。

・クリエーターは米MomentoNFTを活用し、自分のコンテンツをファンが収集するNFTとして販売できる。報酬や限定コンテンツも提供している。

クリエーター事務支援

事務管理プラットフォーム

ブランド各社との報酬のナビゲーション、チームメンバーやコラボレーターの発掘、確定申告の準備などクリエーターの事務管理を支援する企業が増えている。こうした機能を組み込んだSNSは、さらに多くのクリエーターを引き付ける。

・米コレクティブ(Collective)は起業家に会社設立や会計、簿記、税務サービスを提供するワンストップの財務プラットフォームだ。

・米ハイビーム(HiBeam)はSNSの受信トレイをフィルターにかけて優先順位を付け、クリエーターがチャンスを逃したり、メッセージを見落としたりしないようにする。

なかでも、報酬データを手掛けるスタートアップは、クリエーターと企業側の情報格差を減らす。報酬の基準など透明性が高まれば、ブランドや小売りにとって、クリエーターと組むコストは高くなる。

・米FYPMはクリエーターに様々な企業と仕事をした際の報酬データや体験談を匿名で報告してもらう。他のクリエーターはこの情報を参考に、自分のサービスの対価を決められる。

インフルエンサーマーケティングのプラットフォーム

マーケティング策の管理ソフトを手掛けるスタートアップ。リンクの管理、アトリビューション(最終的に購入に至るまでのメディアの寄与度を分析する)モデルの決定、コンバージョン(ユーザーの行動)の追跡、歩合給の支払いなどが含まれる。

様々なチャネルでコンテンツを作成できるよう、マーケティング担当者が関連性の高いインフルエンサーを見つけて始動できるシステムもある。コラボがどれほど成功したかを測る分析も含まれる。

自社のマーケティング戦略にインフルエンサーを組み込む企業はますます増えている。米メディアキックスの最近の調査によると、インフルエンサーマーケティングは質の高いマーケティングと潜在需要の開拓に有効だと実感していると答えた担当者は8割に上った。

・米マーベリック(Mavrck)はデータベースに300万人以上のインフルエンサーを抱えるティックトックの公式マーケティングパートナーだ。マーベリックは企業が様々なキャンペーンで組むインフルエンサーやコンテンツクリエーターを見つけ出し、成果を測定する。不正なインフルエンサーのアカウントやフォロワー数を検知し、支払いを管理する機能もある。

・ベトナムのHiipは東南アジアのインフルエンサーに特化している。1000~100万人のフォロワーを持つクリエーターと組んでいる。

商品販売&閲覧者から収益を得るプラットフォーム

インフルエンサーやクリエーターがSNS以外からも収入を得られるよう、オリジナル商品・サービスの販売を支援する。NFTとは違いブロックチェーン技術を活用していない。事務管理ツールと同様、追加収益の機能を提供できるSNSはクリエーターを引き付けるだろう。

・米スプリング(Spring)、英モチーフ(Moteefe)、インドのリデザイン(Redesyn)はコンテンツクリエーターによるオリジナル商品の作製を支援する。

・21年3月に企業価値が10億ドルに達した米カメオ(Cameo)は、お気に入りのセレブやインフルエンサーから有料でメッセージ動画を送ってもらえるアプリだ。米グーグル・ベンチャーズや米アマゾン・アレクサ・ファンドから出資を受けている。

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