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祖業と決別したJSR、ライフサイエンス事業20%成長へ

日経ビジネス電子版

旧社名の「日本合成ゴム」の由来でもあるエラストマー(合成ゴム)事業の売却を2021年5月に決めたJSR。祖業に別れを告げて照準を絞ったのはデジタルソリューション事業とライフサイエンス事業の2つだ。

このうちライフサイエンス事業については、24年度まで年平均20%で成長し、24年度の全社目標である「コア営業利益600億円以上」の3分の1を稼ぎ出す目標を掲げる。18年度に黒字化したばかりのライフサイエンス事業で強気の見通しを掲げる根拠はどこにあるのか。

「中期計画の目標達成は射程圏内にある」。12月8日にJSRが開いたライフサイエンス事業の説明会で、JSRの執行役員を務めるティム・ローリー・ライフサイエンス事業部長は胸を張った。

19年6月に小柴満信・現名誉会長の後を継いで経営トップに就いたエリック・ジョンソン最高経営責任者(CEO)の下、JSRは半導体材料などを中心とする「デジタルソリューション事業」と創薬支援サービスなどの「ライフサイエンス事業」に注力する方針を打ち出した。

24年度(25年3月期)を最終年度とする中期経営方針では、24年度に自己資本利益率(ROE)を10%以上、コア営業利益を過去最高となる600億円以上にする目標を掲げている。

JSRがライフサイエンス事業に乗り出したのは、1980年代に診断用材料の提供を開始したことがきっかけだ。そして2013年に診断薬や研究用試薬などを手掛ける医学生物学研究所(MBL)に資本参加して以降、積極的なM&A(合併・買収)と投資で事業規模を急拡大させている。

ただし、ライフサイエンス事業が黒字化したのは3年前の18年度からだ。それでもローリー事業部長が目標達成に自信を見せるのは、M&Aで獲得した医薬品開発製造受託(CDMO)や医薬品開発受託(CRO)などのサービス事業が絶好調だからだ。

CDMOの市場成長を上回る伸び

けん引役は15年に5100万ドルを投じて買収したCDMOの米KBIバイオファーマだ。KBIを中核とするJSRのCDMO事業は21年度に前年度比35%の成長を見込んでおり、24年度にかけても毎年20~25%ほど成長する見通しだ。

医薬品市場では、遺伝子組み換え技術を用いるバイオ医薬品の存在感が増している。00年前後に姿を見せ始めたバイオ医薬品は、今や売上高が世界トップ10の医薬品の半分を占めるほどになっている。

ただ、伝統的な低分子の医薬品とは製造技術が大きく異なり、遺伝子を組み換えた動物細胞や微生物の細胞を培養するための培養タンクなどが必要となる。臨床試験に多額の資金を振り向けなければならない製薬企業にとって、その設備に多額の投資が必要になることが頭痛の種となっていた。

この課題を解決する存在として広がり始めたのが医薬品製造受託(CMO)やCDMOと呼ばれる受託サービスだ。CMOとCDMOの市場は年平均成長率10%前後で成長を続けており、今後も同程度の伸びが続くとみられている。

そうした中でJSRのCDMO事業は、市場全体をさらに上回る成長率を誇る。強さの鍵を握るのは、17年に買収したスイス企業、セレクシスだ。同社が持つ細胞株構築技術がJSRのCDMO事業の差異化につながっている。

「細胞株」の構築技術で差異化

バイオ医薬品の開発初期段階では、細胞株の構築という作業が必要になる。動物や微生物の細胞に、目的とするたんぱく質をつくり出す遺伝子を組み込んで作製していく。ここでうまく細胞株を構築できるかどうかが、最終的なバイオ医薬品の製造量やコスト、医薬品の基準を満たす製造工程を実現するまでの時間などに影響する。

セレクシスはこの細胞株構築の技術に特化した企業。これまでに米アムジェンや武田薬品工業などの製薬企業から約150品目の細胞株構築を受託した実績を持つ。JSRはセレクシスによる細胞株の構築とKBIによる製造プロセスの開発を並行して進めることで、量産開始までの期間を短縮するサービスも提供している。

より複雑な構造のバイオ医薬品の研究が増えていることも追い風となった。たんぱく質工学の技術を駆使して2つの異なる抗原に結合するように改良した「二重特異性抗体」などを研究する企業が、細胞株の構築と製造プロセスの開発を並行するJSRのサービスを利用する例が増えているという。

旺盛な需要を受けて、KBIは20年10月に欧州と米国で相次いで製造設備の増強を決めた。これまで2000リットルの動物細胞培養タンク4基で展開してきたが、米国では同規模のタンク6基を、欧州では2基を持つ拠点の整備を進めている。それぞれ22年に稼働する計画だ。中期計画の目標達成に自信を見せるのは、これらの稼働が視野に入っているからだ。

技術を重層的に備えて相乗効果生む

JSRは、細胞株の構築と製造プロセスの開発のように技術を重層的に備えて相乗効果を生み出そうとする戦略を他分野でも実践している。

例えば16年に発売した、精製用のバイオプロセス材料。バイオ医薬品の製造工程で用いるこうした材料は、医薬品としての承認取得後に採用してもらうのは難しい。臨床試験用の医薬品を製造する段階から使ってもらえれば、承認取得後の量産段階での採用が視野に入ってくる。

JSRの精製用材料を採用した臨床試験段階の品目数は、19年度上期に44品目だったが、20年度上期に64品目、21年度上期に85品目と急増した。このうち15件はKBIのCDMO事業を通じて採用が決まったという。この材料の事業は現時点では収支がトントンだが、24年度まで年率40%程度で成長し、コア営業利益の拡大に大きく貢献する見通しだ。

クラウン・バイオサイエンス・インターナショナルの買収で参入したCRO事業でも、さらなるM&Aで技術を重層的に備えて相乗効果の創出を狙う。

クラウン・バイオサイエンスは免疫不全のマウスにヒトのがん細胞を移植して医薬品の評価に用いる技術を有する企業。動物実験の受託が中心だったが、動物を用いない試験管内での実験を受託するオランダのオセロを21年5月に買収。これにより、CRO事業の売上収益は21年度に前年度比33%拡大する見通しだ。さらに24年度まで年平均15~20%以上の成長を見込んでいる。

JSRの川橋信夫社長兼最高執行責任者(COO)は、「当社の技術開発のコアコンピタンスは高分子化学だ。これに様々な技術を付加してソリューションとして顧客に提供できているのが好調さのポイントだ」と説明する。

M&Aで取り込んだ企業同士の相乗効果でライフサイエンス事業の成長への道筋をつけたJSR。今後はクラウン・バイオサイエンスが持つ研究受託の技術や、傘下にあるMBLの診断技術などを組み合わせて精密医療分野への進出も狙う。

スイスのロンザや韓国のサムスンバイオロジクス、富士フイルムなどがCDMO分野で規模の勝負を繰り広げる中、祖業に別れを告げて事業転換に挑んだJSRは存在感を発揮し続けられるだろうか。

(日経ビジネス 橋本宗明)

[日経ビジネス電子版 2021年12月15日の記事を再構成]

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