ファン獲得に妙手 上原浩治氏×マネーフォワード社長

元メジャーリーガー、上原浩治さんが家計簿アプリなどを手掛けるマネーフォワードの辻庸介社長と対談した。同世代の上原さんと辻社長は、ともに大阪の出身だ。現状に満足せず、仲間と道を切り開いてきた。挑戦を続ける2人はスポーツビジネスの可能性についても意見交換し、スマートフォン時代に合った新たな野球ファンの獲得が必要ということで一致した。
ワンルームマンションから出発
上原さん「辻社長が会社を設立した目的は何ですか」
辻社長「10年ぐらい前、東京・高田馬場のワンルームマンションからスタートしました。当時は6人でした。その前は10年ぐらいネット証券に勤めていました。ネットでのサービスは便利なのですが、ツールを使いこなせず、損をしている人を見てきました」
「お金について誰からも習う機会がなく、日本では『金もうけは悪いことだ』というような文化もあります。お金って人生ですごく大事なのに、それについて教えてくれる人もいないし、便利なツールもありませんでした。ネットが盛り上がってきた時なので、お金の課題を解決するサービスを作れないか仲間と話をしていました。僕らのミッションは『お金を前へ。人生をもっと前へ。』なのですが、お金の使い方がうまくなり、人生をポジティブにすることに役立ちたいと思ってサービスを始めました」
上原さん「今では(オフィスも)広くなりました」
辻社長「社員は1400人ぐらいになっています」
上原さん「すばらしい」
辻社長「家計簿アプリ『マネーフォワードME』のユーザーは約1200万人で、会計や企業のバックオフィス向けクラウドサービスは17万社ぐらいが使ってくれています」
上原さん「お金を増やすというか、お金の使い道のサービスですか」
辻社長「お金の運用以前に自分がいくら持ち、いくら使ったか、分からなくなってしまいます。僕たちはお金の『見える化』を簡単にできるようにしています。企業の場合では請求書や給与の支払いがありますが、とにかく楽にしようという発想でサービスを広げました」
上原さん「いまキャッシュレス化が進んでいますが、年配の人たちは不安があると思います。便利になったといっても、使い方をもう少しわかりやすくしてもらいたいですね」
ITが苦手な人に支援を
辻社長「僕らも一番初めにサービスを出した時、お金に困っている人、ITに弱い人に届けば良いと思ったのですが、一番初めに使ってくれる人はお金への感度が高く、ITに強い人たちです。多くの人たちは使い方などを誰かに教えてもらわないとスタートできないですよね。ITが苦手な人に教えてくれる人が必要だと思います」
上原さん「必要です」
辻社長「がんばります」
上原さん「それと、自分から率先してやらないと頭の中には残らないですね」
辻社長「上原さんの著書も読みましたが、やってみないとわからないと書いています。実践ありきですね。お金のことも学校で習ってこなかったわけですし、どうしたら良いのかわからず、みんな困っています」
上原さん「高校で金融について習いますよね。僕らの時もそうした授業があれば、もう少し興味を持ったかもしれません」
辻社長「マネーフォワードはサッカーJ1の横浜F・マリノスのスポンサーです。スポーツ選手は若いころに大金を稼ぎますが、悪い人も寄ってきます。どう保全して運用するか、基本的な考え方を教えてほしいと言ってもらったので、メンバーが講義に行きました」
上原さん「野球もそうですが、最初に契約金など大金をもらって、どうしたらいいのかがわからないですし。それが事実上の退職金だということもわかっていないといけません。やめる時にはもらえませんし、やめてからの方が人生は長いです。セカンドキャリアと言っても『野球ばかりしていた、スポーツばかりしていた』という選手が多く、なかなか次の仕事が見つかりません。現役の時にお金をどう運用するかという知識はゼロなので、シーズンオフのキャンプの時にでもお金のプロの方が来て説明してくれたら、みんなもう少し将来を考えるようになるのではないでしょうか」
上原さん「日本のスポーツビジネスは欧米に比べて小さいですが、大きくするにはどうしたらいいと思いますか」

辻社長「やり方はあると思っています。サッカーチームが上場できるようになると、資金調達がしやすくなります。個人の方からも出資をいただき、そのお金を成長に投入できるとなると、応援するファンが喜ぶ設備を作ったり、オンラインで配信したりグッズを作ったりと、様々なつながりができてビジネスが生まれやすくなります」
「スポーツが持つパワーは大きいですよね。私たちも成長しようと思ったら、成長を阻害するボトルネックが人(ヒト)、モノ、カネのうち何なのか考えます。それぞれあると思いますが、人ならば、みんなが知っている上原さんのようなアスリートをコンテンツとしてどうビジネスにしていくか。そういう戦略がわかる人が入ってくれば良いですね。お金ならば上場やスポンサー獲得、クラウドファンディングなど、いろいろな方法があります。ファンが家にいる時もお金を落としてもらう仕組みを作っていけば、ビジネスが拡大すると思います」
「投げ銭」などの工夫を
上原さん「家で、ですか」
辻社長「例えば、今だと投げ銭などがあるじゃないですか」
上原さん「あれを野球で、ですか」
辻社長「野球でやってみます。『上原、頑張れ』であるとか『勝負どころで感動するピッチングをしてくれた。勇気をもらったから、これで払いたい』などです」
上原さん「おもしろいですね」
辻社長「あると思いますよ。後は法律改正などが必要ですが、スポーツくじもあります」
上原さん「サッカーはありますが、野球はないですよね。米国ではスタジアムにくじがありました。例えばですが、1000円でくじを買うと500円は寄付です。半分は寄付で、残りを当選者がもらいます。日本も取り入れてほしいと思っています」
寄付の仕組みに可能性
辻社長「寄付があるとみなさんが乗りやすいし、スポーツは多くの人に希望や夢を与えますからコンセプトとしてもいいですね。後は野球をしない時間や野球中継がない時間でも、上原さんのような人が発信するとコンテンツになります。ユーチューブのビジネスや書籍など、スマホの接触時間にどうスポーツを絡ませるかは面白いと思います」
上原さん「野球界も変わりそうな可能性はあります」
辻社長「変わらないとファンがついてきません。僕らの会社も年功序列や性別、国籍、学歴などを一切気にしないようにしています。それとグローバルです。スポーツ界も若い人や女性などがファンになってもらうには、そういう人たちの価値観を受け止め、そういう人たちが良いと思うコンテンツにしないと未来がなくなってしまいます」
=対談のもようはBSテレ東「日経ニュース プラス9」で4月20日(水)に放送する予定です。

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