Amazonが日本で再エネ網 利益と社会貢献、両立探る
ビジネススキルを学ぶ グロービス経営大学院教授が解説

米アマゾン・ドット・コムが三菱商事と組み、日本で450カ所以上の太陽光発電所網をつくることを発表しました。こうした動きについて、グロービス経営大学院の嶋田毅教授が、「CSV」と「イノベーション」の観点で解説します。
相次ぐ「再エネ100%」宣言
自社が使う電力をすべて再生可能エネルギーで賄うことを目指す企業が増えています。米巨大IT企業「GAFAM」の中ではマイクロソフトやアップルが比較的早くそうした目標を打ち出しましたが、ここにきてアマゾンが一気に再生エネへの関与を強めています。
アマゾンは日本以外でも特に地元の米国や欧州で取り組みを加速させており、プロジェクト数は200件を超えます。4月に発表したプロジェクトにより、すでに欧州では最大の再生エネ調達企業になったとも宣言しました。アマゾンはもともと2030年の「再生エネ100%」を目標としていましたが、現在は5年前倒しして25年の実現を目指しています。
なぜアマゾンはこうした動きを加速させているのでしょうか。1つは、大手テクノロジー企業に対する批判が増したことに対する「風よけ」という側面があるのは間違いないでしょう。「21世紀の石油」とも言われるビッグデータの囲い込みに加え、巧みな租税回避など、近年、大手テクノロジー企業は批判にさらされ続けています。それを緩和する方法論として地球にやさしい政策をとるという側面は否定できません。

時代はCSRからCSVに
もう1つは、企業にとってCSV(Creating Shared Value、共通価値の創造)を実現するのが当然だという機運が高まったことがあります。CSVの提唱者であるマイケル・ポーター教授は、11年の論文「Creating Shared Value」において、企業活動そのものが共通価値の原則にのっとって行われるべきで、それまでのCSR(企業の社会的責任)からCSVへの移行が必要であるとしました。「共通価値の創造」というのは、企業が利益を出しながら手掛ける本業と社会課題解決を両立させる取り組みのことです。

背景に、CSRの中心を占めていた単純な慈善活動や寄付といった活動は、貧困や環境保護といった社会課題の解決にあまり寄与しないという研究もありました。CSRが企業イメージ作りに偏重していたり、企業本来の活動と切り離された活動では、企業にとっても結局は身が入らず実効性が小さいという事実があったのです。
そこで、CSVの実現が「社会的公器」でもある大企業の責務であると認識されるようになったわけです。近年話題になることが多いSDGs(持続可能な開発目標)やESG(経済・社会・企業統治)の概念とも非常に相性の良い発想といえるでしょう。
CSVに3つの方法論
ポーター教授は、先の論文の中でCSVの具体的な方法論を3つ挙げています。1つ目は、製品と市場を見直すという方法です。食品メーカーが安価で健康に良い製品を提供するなどが典型的です。2つ目は、自社のバリューチェーンの生産性を再定義するという方法です。例えば配送ルートの短縮によりエネルギーや環境問題に貢献するといったやり方です。そして3つ目は、企業が拠点を置く地域を支援するというものです。例えばその企業が保有する海外の農産物の栽培地で人材教育を行ったり新しいプロジェクトを立ち上げたりするなどです。
今回のアマゾンのやり方は、上記の2つ目と3つ目の複合系と見ることができます。

アマゾンのビジネスは電力を多く消費します。特にデータセンターや物流拠点であるフルフィルメントセンターでの消費電力は少なくありません。それを適切な方法で再生エネに置き換えることができれば、企業の競争力を維持しながら社会貢献もできるというわけです。当初こそ電力コストは割高になるかもしれませんが、規模が拡大し、アマゾンならではのテクノロジーを用いて効率よく電力需給をマッチングできれば、結局は元が取れると考えているのかもしれません。
イノベーションを促す
こうしてCSVを実現しようとすると、必然的に知恵や工夫が必要となり、その結果、イノベーションが加速されるという側面も非常に大切なポイントです。アマゾンは様々なイノベーションを通じて成長してきた企業です。CSVへの挑戦はアマゾンのDNAでもある起業家精神を刺激し、従業員の貢献意欲を高める効果もあるのです。
CSVに関係するアマゾンの他の活動としては、復興支援もあります。これは自然災害による被害や課題が発生した際に、迅速に対応できるよう取り組むものです。自社の物流網などを活用し、世界各国で非営利団体と関係を築いて地域社会に貢献するなかで、アマゾンが持つビッグデータを巧みに組み合わせればイノベーションにつながる可能性を持っているといえそうです。
再エネ網づくりの「先」
ここまでは主にCSVの観点から再生エネへの取り組みを見てきました。ただ、アマゾンが単なるCSVやESGの発想で取り組んでいるかといえば、そうではないように思われます。
アマゾンは貪欲にビジネスチャンスを追い求めることでも有名な会社です。創業者のジェフ・ベゾス氏は「あなたの利益は私のビジネスチャンス」と言ったとされます。アマゾンが活動範囲を広げることで他業界をのみ込んだり、場合によっては破壊(ディスラプト)してしまったりということはよく見られた光景です。つい先日は、百貨店ビジネスにより本格的に取り組むことを発表し、そのセクターの競合企業の株価が一時大きく下がるという事態も起きました。
あるいは、もともと社内で利用するためにつくったサービスをどんどん洗練させ、規模を拡大し、外販に堪えるサービスに練り上げ、収益源にするというやり方もアマゾンの得意技です。

いまやアマゾンの稼ぎ頭の1つとなったクラウドサービスのアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)はその典型です。AWSではアマゾンマーケットプレイス事業にならったAWSマーケットプレイスという外部ベンダー向けのサービスも提供しており、極めて高い収益性を実現しています。アマゾンが場所を貸すだけで手数料を得られる仕組みです。これもアマゾンらしいイノベーションと言えるでしょう。
広がるビジネスチャンス
今回の再生エネも実はこのAWSのようなビジネスチャンスを見据えているのではないかというのが私の予測です。電力、特に再生エネは非常に無駄やムラが多いものです。そこにアマゾンの人工知能(AI)やビッグデータ関連の技術を持ち込めれば、低価格かつクリーンな電力を外部にも安定供給できる可能性は高いでしょう。そうなれば、AWSがそうであったように、アマゾンが30年には再生エネのトッププレーヤーとなっている、というシナリオも荒唐無稽ではないように思われます。

もし実現すれば、さらにその先には次世代移動サービス「MaaS(マース)」のほか、物流や製造の自動化を通じた全く新しいサービスとのシナジーが生まれるかもしれません。移動や運送、工場のロボット化などは電力利用と切っても切れない関係があり、アマゾンがクリーンで質の良い電力を供給できることはユーザーにも大きな意味を持つのです。そう考えると隣接領域におけるビジネスチャンスは無限にあるといってもいいでしょう。
アマゾンが何らかの理由で解体でもされない限り、果敢な先行投資によってイノベーションを起こし、ビジネスをつくったり、他の業界をのみ込んだりということは今後も進むでしょう。いまやアマゾンは多くの人にとってなくてはならないインフラですが、そのインフラの範囲はエネルギーからさらに広がっていくかもしれないのです。今後もアマゾンの動向に注目しましょう。
グロービス電子出版発行人兼編集長、出版局編集長、グロービス経営大学院教授。88年東大理学部卒業、90年同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経て95年グロービスに入社。累計160万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」のプロデューサーも務める。動画サービス「グロービス学び放題」を監修
「CSV」についてもっと知りたい方はこちら
https://hodai.globis.co.jp/courses/1a230066 (「グロービス学び放題」のサイトに飛びます)

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