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ネット広告の効果測定でシェア6割超 市場を勝ち取る

市場の6割以上を占有。コロナ禍でEC事業者などから広告効果測定の需要が高まっており、追い風が吹いている=山本尚侍 撮影
日経ビジネス電子版

マーケティング支援サービスの開発・販売のイルグルムは、インターネット広告の効果測定サービスを2004年に開始。業界の先駆者として市場をリードし続けた。コロナ禍すら追い風に、マーケティングテクノロジーの総合企業を目指し事業の拡大を推し進める。

◇   ◇   ◇

コロナ禍にあっても市場規模が拡大しているものの1つがインターネット広告。電通が発表した「2020年 日本の広告費」によれば、インターネット広告費の市場規模は2兆2290億円で、テレビや新聞などマスコミ4媒体の広告費2兆2536億円に肉薄する勢いで成長している。

今でこそ重要視される存在だが、市場がはるかに小さかった2000年代前半に将来性を見抜き、広告効果の測定という分野でトップシェアを勝ち取った先駆者がイルグルムだ。バナー広告やメールマガジン、あるいはスマートフォンなどのアプリ経由の流入データから、アクセス件数や滞在時間など、顧客との接点情報を収集・分析できるサービス「アドエビス」を提供している。コロナ禍でもニーズは衰えることはなく、売り上げを伸ばし続けている。

イルグルムの売上高の推移

顧客がどんな経路から購買行動に至ったのか、どういった媒体に掲示した広告が売り上げにインパクトを与えたのか……。広告の効果測定から、その情報をどう生かすのかまでワンストップで分析できるのが強み。提供開始から17年で累計導入社数は1万社を超え、現在も常に1000社以上が利用している。当初から安定した売り上げが見込めるサブスクリプション方式で始め、顧客平均単価は月額約14万円。業界シェアは圧倒的トップの66%だ。

飲食店経営で味わった挫折

「事業を成功させるには、『競争が不要』といえるほどの市場寡占が必要」。イルグルムの岩田進社長が業界トップにこだわる背景には、学生時代に味わった挫折がある。

岩田社長が起業を意識し始めたのは大学1年の頃だ。大学の勉強もサークル活動も性に合わず、入学1カ月足らずで早くも休学。「自分探しの旅がしたい」と東南アジアや米国へ旅立った。だが、ニューヨークで人種差別を受けたり、スラム街のホテルで孤独な日々を過ごしたりする中、「このままでは自分は誰にも感謝、歓迎されないまま死ぬ。国際的にビジネスで成功し、世界のどこに行っても歓迎される経営者になりたい」と起業を志した。

帰国後に選んだ仕事は、実家のある堺市のオムライス店でのアルバイト。飲食業で成功を志したが、店は毎月赤字で従業員の士気も低い。周囲とは仕事への取り組み姿勢に温度差があり、同僚との口論も絶えなかった。そこで思いついたのは自分自身が経営者になること。「経営権を譲ってくれれば借金から解放されますよ」とオーナーを口説いて店を譲り受け、20歳で経営者としての第一歩を踏み出した。

しかし、客足は回復軌道に乗ることなく1年足らずで閉店に追い込まれた。ショックに打ちひしがれながらも、失敗の原因を分析した。飲食店は常に周囲の店との激しい競争にさらされている。「そもそも競争のない環境に身を置くことが成功の秘訣」と考え、「競争しなくてもいいくらいの圧倒的ナンバーワンを目指せる事業」を探した。

目を付けたのは、旅行関連情報を扱うポータルサイトの開発だった。現在のトリップアドバイザーのような口コミサイトを構想して起業したが、これも1年ほどで頓挫した。競争こそなかったが、構想の実現には時間と資金が膨大に必要なことが問題だった。旅行サイトは諦め、ウェブサイト制作会社として生き残りを目指した。

無名でもすぐに800社が導入

アドエビスが生まれたきっかけは、当時のウェブサイトのデザインから岩田社長が得た気づきだった。ウェブサイトを訪問するたびに「あなたは何番目のお客様」とパーソナライズされている点に岩田社長は可能性を見いだした。加えて、アクセスやクリックによる情報を蓄積し、それらを分析するツールはまだ見当たらなかった。

04年にアドエビスの提供を開始。無名のIT(情報技術)企業が優位に立つには先行してシェアを握ることと考え、当初の価格は月額約1万円と低く設定した。06年に食品通信販売のやずや(福岡市)が導入したことがきっかけになり、花王や博報堂など大手も相次いで採用し、利用社数はすぐに800社を超えた。

事業の急拡大への対応に追われ、競合の猛追を許した時期もあったが、「他社が十数人の人員で開発をするなら、我々は100人で開発の速度を上げよう」と、サービスを毎月のようにアップデートし続けるほど投資を積み重ねてきた。

ポータルサイト、SNS(交流サイト)やスマートフォンのアプリなど、インターネット広告の掲載場所は年々多角化していったが、機敏に対応を続けた。サービスの陳腐化を防いだのがトップシェアを維持できた理由だ。現在では競合のM&A(合併・買収)にも積極的に乗り出し、ネット広告の効果測定分野で圧倒的な地位を確立している。

今後の目標は広告効果測定事業を起点に、事業の幅を広げること。広告代理店とクライアントのマッチングサービスや広告リポート自動作成ツールなど、既に新たな成長への種はまいている。「M&Aもさらに促進し、マーケティングテクノロジーの分野でリーディングカンパニーになりたい」と話す岩田社長。コロナ禍すら追い風にさらなる飛躍を目指す。

(日経ビジネス 神田啓晴)

[日経ビジネス2021年6月14日号の記事を再構成]

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