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H.U.グループ、半導体の街「あきる野」を医療検査拠点に

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

血液検査など臨床検査受託で国内最大手のH.U.グループホールディングス(旧みらかホールディングス)は2022年1月4日、東京都あきる野市で巨大な検査拠点を稼働させる。以前は日本の半導体産業で重要な役割を担った場所が、最先端の医療を支える拠点へ生まれ変わろうとしている。

新拠点の愛称は「アキルノキューブ」で、敷地面積は東京ドーム2.7個分に相当する。1日に最大で30万件を検査する能力があり、H.U.は「世界でも最大級だ」と説明している。この場所には過去に富士通系の半導体の開発拠点が存在し、当時は最先端の技術水準とされていた。

日本の半導体技術を象徴

現在でも電機大手の研究者などは「あきる野」を、日本が半導体技術で世界的な競争力を保っていた時代を象徴する地名として覚えている。この場所に魅了されたのが、16年10月に就任してから間もなかったH.U.グループの竹内成和社長だった。

八王子市に持つ検査拠点は稼働から約40年が過ぎ、建て替えるため候補地を探していた。10カ所ほどを巡って地盤の固さや八王子市からの近さなど、最も必要な条件を満たしたのがあきる野だった。

竹内社長は建設を決断すると自らレイアウト案を作った。施設全体に水と緑を取り入れ、通路はガラス張りにした。訪問者のための見学スペースも複数設けた。その狙いを竹内社長は「検査受託施設は非公開が常識だが、臨床検査の社会的使命を理解してほしいと考え、あえて『見せる』つくりにした」と語る。

総投資額は850億円で、子会社のエスアールエル(SRL)の受託検査施設や研究開発棟、食堂やホールを備える厚生施設で構成する。受託検査の能力は当初の段階で1日あたり十数万件を予定しており、最大で30万件と旧拠点の2倍に高める。血液などの検体は関東圏を中心に、全国の医療機関から集まってくる。拠点全体では技術者ら約1000人が働く予定だ。

「新しい時代の臨床検査を体現する施設になる」と語る竹内社長の狙いは、大きく2つある。1つは検査の効率や品質を高めるDX(デジタルトランスフォーメーション)を追求することで、もう一つはゲノム医療や再生医療など次世代の医療を支える検査技術を生み出すことだ。

一般検査はほぼ自動化

企業の健康診断で調べるような項目を扱う一般検査のラインはITやロボットを駆使し、ほぼ完全に自動化した。エスアールエル特命プロジェクト室の佐藤学担当課長は「医療機関に少しでも早く結果を返すとともに、人の介在によるミスを減らすためだ」と話す。24時間稼働させ、検体を受け入れてから4時間後には結果を出す。1検体あたりの検査コストは以前の施設と比べて15%下げる計画だ。

医療機関から集まる検体は中央の搬送ラインを流れていく。検体はそれぞれの検査工程に分岐し、検査が終わると本来のラインに戻ってくることになる。すべての検査が終われば巨大な保管庫に自動で格納される仕組みだ。

検体は個別番号で管理し、再検査や廃棄の際にはロボットが自動で選び出す。従来は検査装置1台ずつに従業員が必要だったが、新拠点では担当する従業員を大幅に減らす。検査を管理する帳票も電子化し、検体や物資を階をまたいで運ぶための自走式ロボットも10台以上を導入した。

これに続く22年5月には、遺伝子や感染症など「特殊検査」のラインが稼働する。前処理と呼ぶ検査の前工程を自動化するほか、細菌の種類を見分ける人工知能(AI)も導入して精度を高める。

研究開発棟にはSRLに加えて試薬や装置を扱う富士レビオ、基礎研究のH.U.グループ中央研究所からも研究者が集まり、総勢で100人近くになる予定だ。グループ横断でアイデアを共有し、開発を進めることを目指す。

がんや難病の治療につながるゲノム解析や再生医療向けの検査、血液による認知症の判定など、近未来の医療を支える技術に力を入れる。

H.U.グループは現在、全国に分かれた検査拠点の再編を進めている。アキルノキューブは中核を担う存在だ。21年3月に全面稼働させた福岡市の拠点と24年3月期に京都府で稼働させる拠点とともに、主力拠点と位置づける。その他の拠点は緊急性が高い検査を受託し、短時間で結果を返す役割などを担う。

大型投資は将来の負担にも

竹内社長は「旧態依然の検査は、この先続かない。リスクを取ってでも変えるべきだと考えた」と投資の意義を強調する。ただしアキルノキューブに使った大規模な資金は将来へ重い負担ともなる。

現在は新型コロナウイルス感染を確かめるPCR検査や抗原検査の需要が多いが、中長期でみれば事業環境は厳しい。検査の公定価格引き下げなどを背景に、医療機関からは料金引き下げの要請が強い。アキルノキューブでどこまで生産性を改善できるかは、H.U.グループ全体の採算を左右することになる。

同社は連結売上高を21年3月期の2230億円から年平均で6%以上伸ばす目標を打ち出しており、営業利益率は継続して10%以上を目指す。これらを実現するには、アキルノキューブの運用を成功させることが欠かせない。

(大下淳一)

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