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Twitter、サブスク型ニュース買収 稼ぎ上手になれるか

ビジネススキルを学ぶ グロービス経営大学院教授が解説

ツイッターのロゴ=ロイター

140文字の投稿でおなじみのツイッターが、広告のない有料のニュース配信サービスを手掛ける米スクロールを買収すると発表しました。ツイッターのこうしたビジネスへの取り組みについて、グロービス経営大学院の嶋田毅教授が「サブスクリプション」の観点で解説します。下の動画でも、分かりやすく解説しています。

「マネタイズが得意でない会社」

ツイッターは日本人にとってもなじみの深いサービスです。実際にアカウントを持ってツイートしたり、友人とメッセージをやり取りしている人も多いでしょう。また、Yahoo! Japanのホームページにある「リアルタイム検索で話題のキーワード」に大きく影響を与えたり、NHKのニュース番組でも「話題になったツイート」が取り上げられたりと、人々の関心を示すバロメーターとして様々なメディアに用いられています。米国のドナルド・トランプ前大統領が主要な発信手法として用いたことでも有名です。

一方で、長年ツイッターは、「マネタイズ(収益化)が得意ではない会社」という不名誉な評価もされてきました。下図はアメリカの巨大プラットフォーマーの中でも広告を主要な収入源としている企業の時価総額を示したものです。

売り上げのほとんど大半を広告収入に頼るフェイスブックに比べて、ツイッターの時価総額は約18分の1ですし、グーグルに比べると約35分の1です。日本ではまだそこまで浸透していない写真共有サイトのピンタレストとほぼ同水準にとどまっています。

グーグルは、YouTubeの広告はやや鬱陶しいですが、メインの検索サービスの広告はストレスをそれほど感じません。アルゴリズムとグーグルアドワーズ(現在の名称はGoogle広告)というマネタイズ手法の優秀さを示すものと言えるでしょう。

ツイッターも広告のストレスをそれほど感じないメディアと言えます。ただそれは逆に言えば、広告の存在感が薄いということでもあり、そのことがツイッターの収入を抑制する結果にもなってきました。グーグルアドワーズのような優れた仕組みもなかったことがツイッターのアキレス腱(けん)だったのです。

新しい収益源づくり急務に

株価も、フェイスブックが上場来、基本的に右肩上がりに伸ばし約9年間で10倍以上になったのに比べ、多少遅れて上場したツイッターは当時とほぼ同じ株価にとどまっています。いったん下げたものが、最近の株式市場の活況で戻したといった方が正確です。

「3年で売り上げを倍にする」という野心的な目標を掲げるツイッターにとっては、ユーザー数をさらに増やして広告収入を増やすことはもちろんですが、新しい収益源をつくることが、時価総額を伸ばすうえでも大きな課題なのです。

ここでサブスクリプション(サブスク)モデルについておさらいしましょう。サブスクは、下の図に示すように、使うたびに課金するのではなく、一定期間定額を支払えばいくら使ってもいいという課金モデルです。本記事と連携しているグロービスの「グロービス学び放題」もサブスク型のサービスです。筆者も、スポーツ専門動画の「DAZN」や「NBA楽天」、あるいは「アマゾンプライム」やケーブルテレビなど、さまざまなサブスクサービスを利用しています。

追加コストはほぼゼロ

最近は「衣服のレンタル」や「居酒屋での飲食」などモノに関するサブスクサービスも多数登場していますが、サブスクが特に効果的なのはやはり動画も含むIT(情報技術)サービスです。なぜなら、ITサービスの場合、モノとは違っていったん顧客を獲得してしまえば、彼/彼女/企業に対するサービス提供の限界費用、つまり利用に伴う追加コストは限りなくゼロに近いからです。

視聴する人や回数が多くても配信側の追加コストはほぼゼロ(アマゾンプライム・ビデオ)=ロイター

「居酒屋での飲食」では、ユーザーが利用すればするほど原材料費などが追加でかかってしまうわけですが、たとえばDAZNであれば、視聴者が増えたからといって、あるいは長時間観たからといって、そこに追加コストはほぼかからないのです。

一般人が1日に数時間は利用すると言われるスマートフォンが消費者に行きわたったことも、サブスクのITサービスにとって追い風になっています。また、ITサービスの場合、顧客の行動履歴が取りやすいため、人工知能(AI)を用いて個々の顧客にあつらえたコンテンツのリコメンデーションをしやすいという側面もあります。

アドビはサブスクの先行例

既存の売り切り型ビジネスをサブスク化したことで飛躍した有名な例は「Photoshop」などで有名なアドビです。売り切り型のサービスではどうしてもそのタイミングに合わせて製品開発などを行うわけですが、それではビジネスに波ができてしまいます。環境変化の速い近年では、それは場合によっては大きなダメージになります。アドビはおよそ10年前にサブスクにかじを切った結果、継続的に顧客満足につながるようなサービスを提供することに成功し、高い成長率を実現したのです。

ではツイッターのサブスクビジネス成功のカギは何でしょうか。ビジネスによって多少は変わりますが、シリコンバレーでは一般に、LTV/CAC比3.0以上が成功の一つのめどとされます。LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)とは、顧客が生涯にわたって利用してくれる金額を指します。たとえば顧客が年間9000円のサービスを平均4年使ってくれるなら、平均のLTVは3万6000円となります。

CACはCustomer Acquisition Costの略で、文字通り顧客獲得コストです。個々の媒体への広告費などに加え、間接的な費用なども加味した、実質的な顧客獲得コストです。上記のLTVが3万6000円のサブスクサービスであれば、CACが1万2000円以下ならば、LTV/CAC比は3.0を超え、成功と言えるわけです。もちろん、サービス導入初期にはCACは高くなる傾向があるので、最初から3.0を超えるのは難しいですが、一定期間後には確実に3.0以上とすることが望まれます。

最初はマーケティングに加え、コンテンツの準備など、先行投資的なコストがかかるものの、徐々にそれが相対的に下がり、収益化する様子を表したのが下の図のフィッシュモデルです。

さて、LTV/CAC比を上げるには、分子であるLTVを上げるか、分母であるCACを下げることが必要です。

まずLTVを上げるためには、顧客単価を上げるか、解約率を減らす(平均継続期間を長くする)ことがポイントとなります。これはいずれも、顧客にとって価値のある、満足度の高いサービスを提供し、エンゲージメントを高めることによって実現されます。成功している多くのサブスクサービスはそれを実現しています。たとえば動画サービスであれば、新作や、そこでしか観られない独自のコンテンツを提供することで「高いお金を払ってもいい」「解約するのはもったいない」と思ってもらうのです。

独自性どこまで出せるか

今回のツイッターのケースであれば、すでに(競争が激しい)レッドオーシャン気味であるニュース配信サービスでどこまで独自性を出せるかがカギとなるでしょう。幸い、提携先との関係は良好なようなので、それを生かしてそこでしか読めない記事などを提供できれば、LTVを上げられる可能性はあります。

一方、CACを下げる方法については、ツイッターがすでに持っているユーザー基盤をいかに活用するかがポイントになるでしょう。いわゆるシナジーの追求です。ツイッターの2020年第4四半期の決算によると、mDAU(収益化可能な1日あたりのアクティブユーザー)は全世界で1億9200万人です。新型コロナウイルス禍にあって、その数は前年比で27%増えており、この増加率はSNSサービスの中でもトップクラスだったといいます。このユーザー基盤にいかに効果的にアプローチしてサブスクサービスの顧客になってもらえるかが問われるということです。

世界で2億人近いユーザー基盤をいかに有効活用できるかが問われる=ロイター

マーケティングの方法は未知数ですが、うまいやり方でCACを低く抑えることができれば、仮にLTVは多少低くても、LTV/CAC比は早い段階で高くすることが可能となります。これは、ツイッターが買収したり、独自に始めようとしているサブスクサービスすべてに当てはまるでしょう。

これまでオーソドックスな広告モデルで収益を上げてきたツイッターが、いかにこうした課題に立ち向かい、ノウハウを獲得していくのか、非常に注目されるところです。

しまだ・つよし
グロービス電子出版発行人兼編集長、出版局編集長、グロービス経営大学院教授。88年東大理学部卒業、90年同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経て95年グロービスに入社。累計160万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」のプロデューサーも務める。動画サービス「グロービス学び放題」を監修

「サブスクリプション」についてもっと知りたい方はこちら

https://hodai.globis.co.jp/courses/298902e0(「グロービス学び放題」のサイトに飛びます)

ビジネススキルをもっと学びたい方はこちら

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