Aimer デビュー10年 転機の曲は鬼滅『残響散歌』と…
Aimerインタビュー後編
2022年2月まで放送されていた『テレビアニメ「鬼滅の刃」遊郭編』のオープニングテーマ『残響散歌』とエンディングテーマ『朝が来る』を歌った歌手のAimer(エメ)。『残響散歌』は、Billboard JAPAN 総合ソング・チャート"JAPAN HOT 100"で通算9度の1位を獲得。ストリーミングの総再生回数は1億75万回を超えた。エンディングテーマ『朝が来る』もストリーミング、ダウンロードともに好調で、両曲を収録したCDシングルもオリコン週間ランキング1位(1月24日付)を記録している。『残響散歌』について聞いた前編「『鬼滅の刃』歌うAimer 作品と気持ちのリンク求めて」に続き、後編では『朝が来る』について、そしてデビュー10周年を振り返り、影響を受けた人物、そして印象に残る3曲について話を聞いた。

レコーディングでは試行錯誤した『朝が来る』
「『朝が来る』は、今まで梶浦由記さんとご一緒させていただいたどの曲とも違う、また全然新しい印象がある曲だなと思いました(※梶原由記さんに関しては前編「『鬼滅の刃』歌うAimer 作品と気持ちのリンク求めて」参照)。このように分かりやすく光が見えてくる、浮かんでくるようなコード、メロディーにいったことがなかったですし、闇の部分と対照的な光の部分の振り幅がすごくある楽曲なので、自分の声でどうやって表現しようかな…と迷いました。どういうテンション感、音色、声色で歌ったら、この旋律が一番響くだろうか。そう考えながら挑戦、というか試行錯誤したことが印象に残っています」
『残響散歌』と『朝が来る』は多くの人の心に響き、Aimerの代表作に加わった。アニメ『鬼滅の刃』に出合ったことは彼女に何をもたらしたのか。
「まだ(『遊郭編』の)最終回が終わって間もないですし、何かこう…作品と一緒にこの2曲がみなさんに知っていただいている、そのまさに渦中にいるという感じがしていて。どのくらいの人に聴かれているか、まだそこまで実感がないんです。
でも、『鬼滅の刃』という作品は――原作もアニメーションも、もの作りの片隅にいる自分にとって"信念"みたいな部分で、シンプルにすごく感動させられますし、心からリスペクトできる作品です。だからこそ、一緒に作品を作れたのは本当に光栄だと思いますし、触発というか、『自分もこうやって音楽を作り続けたい』と思う気持ちになりました。
10年音楽活動をやってきていろいろなご縁があって、10周年の節目に、このような素晴らしい作品に歌い手として、音楽家として関われたことは感謝しかありません。私も1ファンとして毎週放送を楽しみに見ていたので、今は『遊郭編』の放送が終わってさみしいなという気持ちです」

2022年はデビュー10周年イヤー
11年にシングル『六等星の夜/悲しみはオーロラに/TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR』でメジャーデビューしたAimerは、現在10周年イヤーの真っ只中。1月にはB面を集めた初のベストアルバム『星の消えた夜に』を発売し、2月からは全国22カ所(28公演)を回るライブツアーを行うなど、精力的に活動している。この10年はAimerにとってどんな10年だったのか。

「どんな10年…そうですね、これはデビュー5周年のときから言っているんですけど、一番私が誇れるのは出会う人に本当に恵まれていること。本当に。私は1人で全部できる人間じゃ全然ないので、いろんな方に仲間になってもらって自分のやりたいことをかなえてもらったり、誰かと一緒にやることで新しいところにいけるとかそういうことが多くて。だから10年間を一言で言うのは難しいですけど、出会ってきた人たちがいなかったらここまでこられなかったので、そのことを一番に思ってしまいますね」
野田洋次郎(RADWIMPS)、Taka(ONE OK ROCK)など様々なアーティストから楽曲提供を受けてきたAimer。昨年12月には、Vaundyプロデュースによる『おもかげ』で、milet、幾田りらという注目の女性アーティストとも共演し大きな話題に。
そんななかでも印象的だった人を聞くと、「難しいですけど、本当にたった1人しか挙げてはダメというなら…」と、自身が所属するクリエイター集団agehaspringsのプロデューサーである玉井健二の名を挙げた。
「玉井さんがいなかったら私、Aimerはいなかったので。私を最初にフックアップして(引き上げて)くれた人でもあり、音楽家として、今でも学ぶことだらけです。"歌"という表現においても、『こんなプロデューサー、他にいるのかな?』と思うくらい、歌をすごく大事にしてるんですよ。例えばディレクションするにしても、ボーカルの歌の形とか、この曲はこういうコード感だからこういう形で歌が上がるべきとか細かく言ってくださる。
最初の頃は『ディレクションって何? 自由に歌えばいいんじゃない?』と思っていたんですけど(笑)、これを受けて歌うと、歌って全然変わるんだなと、本当に勉強になりました。10年一緒にやってきていますが、まだまだこれから玉井さんとやりたいことがいっぱいあるし、学びたいことがあるなと思っています」

Aimerの歴史を知る3曲
10年間を振り返る中で、自分の転機となった曲、印象に残っている楽曲は何だろう。「難しい」という彼女に、あえて3曲を選んでもらうと…。
「1曲はやっぱり『残響散歌』(21年発売)ですね。他は迷いますけど…でもデビュー曲の『六等星の夜』(11年発売)かな。個人的に始まりの曲というところですごく思い入れが強いのと、最初は『残響散歌』にたどり着くなんて考えられもしないくらいバラードしか歌ってなかったんですよ。『眠れない夜に寄り添いたい』――そういう私になりたいと思って"アーティストAimer"は始まったので、それを一番象徴しているという意味でもデビュー曲は入れたいかなと思います」
「もう1曲はめちゃめちゃ難しいですね(笑)。難しいですけど、澤野弘之さんに作っていただいた『RE:I AM EP』(13年発売)かな。実は玉井さん以外の方に、楽曲、詞も曲もプロデュースしていただくのは澤野さんが初めてだったんです。本当にそれまで激しい感じの曲を全然歌ったことがなかったんですが、いただいた曲が重厚なロックだったんですよね。また、そこからいろんな方とやっていくという道ができたというか。多分、澤野さんとのやりとりが、『RE:I AM EP』がなかったらそれは始まっていないので。しかもAimerという綴(つづ)りを澤野さんが入れ替えてタイトルにしてくださっていたので、そういう意味でも、Aimerを壊して1つ新しいAimerを作れた気がします。のちの『daydream』(16年発売)というアルバムにつながるんですけど、原点みたいなものは澤野さんが作ってくださったこの曲だと思います。
自分が一番恵まれているのは人との出会いと言ったのは、本当にこれで。いろいろな方が自分の声を使って『こういうことやりたい』とか、『こういう曲どう?』 とか一緒にやってくださって、ポップやロックなサウンドにも触れて自分の可能性が広がってきた。ホームはagehaspringsなんですけど、いろいろな方とやってこれたことが、この10年で自分の音楽性をどんどん膨らませていってくれた――それがなければ、『残響散歌』にもたどり着けなかった、こういうふうに音楽性が広がっていくことはなかなかないんじゃないかな、と思います。だから今、自分が10年かけてここまでたどり着いたなっていうボーカルのスタイルだったり、クリエイションだったり、一応確立…あるところまでやっと自分の中で満足のいく部分に、ゾーンに行けているというタイミングで今回『鬼滅の刃』のお話もいただいたので、本当にすごくありがたいというか。今だったからこうやってこの曲にたどりつけたなと思っています」
Aimerにとって「歌う」とは
「例えばですけど、ある人が教会の日曜礼拝にいって、そこで賛美歌を聞いたとき、教会に響き渡っている聖なる響きを持つものが自分の救いになったりする――私にとって歌うことは自分自身にとって"救い"なんです。歌というもののなかで試行錯誤して、新しい表現にたどり着けたり、今までできなかった表現ができたりっていうのが自分にとって生きる意味や救いだったりするんですね。それで、今10年かかってやっと、今までは自信がないというか、そこまではっきり言えなかったけど…。やっぱり自分の歌を通して誰かを、すごくおこがましいかもしれないけど、助けたい、救いたいってちゃんとはっきり言葉にしたいなと思えるように、最近やっとなってきました。
私も音楽を聴いて弱い部分を肯定してもらってここまでやってこられたので、そういう人を守りたいというか。音楽を通してそこを守りたいという自分は最初からずっと一番奥のコアのところにいます。だから音楽は、私にとって救いでもあるし、誰かを救える可能性がある手段だなと思います」
最後に、10周年を経ての"これから"についても聞いた。

「今後については、ライブは大きな会場でやってみたいです。それこそアリーナツアーもやってみたいなと思いますし。それと同時にまたこれから10年、20年と活動させていただくなら、たくさんの方に自分の音楽を届けたいという気持ちと同じくらい、1人1人にちゃんと寄り添いたい。難しく観念的なことかもしれないですが、1人1人にとってAimerというアーティストが遠いものじゃないというか、自分に寄り添ってくれているという気持ちを裏切りたくない。
そういう思いもあって、広げていきたいけど、すごくこぢんまりとしたものも大事にしたいという相反する気持ちもあって。それを同時にちゃんとクリアしているアーティストに、これからもなっていきたいし、なり続けたいと思っています」
2011年メジャーデビュー。21年よりSACRA MUSIC。これまでアニメ『NO.6』、『機動戦士ガンダムUC』、ドラマ『あなたの番です』などに楽曲を提供している。
(ライター 山内涼子)
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