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創業期はTAMよりペイン 

SmartTimes GMOペイメントゲートウェイ副社⻑兼GMOベンチャーパートナーズファウンディングパートナー村松⻯氏

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Smart Times

「TAMはどの程度だとよいのか」と聞いてくれる起業家が時々いる。

TAMとは「Total Addressable Market」の略で獲得可能な最大の市場規模、つまり商品・サービスの総需要のことだ。この10年で急速に浸透した起業家と投資家の共通キーワードだ。

サービスや会社が、どの程度まで成長するかを決める要素のひとつである。将来の売り上げ規模が50億円か1兆円なのか、天井の高さを表す数字とも言える。昨年後半から世界的に調整が進んでいる株式市場を構成する各種の指標とは別に、投資家にとってはリターン倍率に大きく影響する本質的な数字である。

しかし、十数年前の投資を振り返る事で実感されるのは創業期にTAM思考が強すぎなくてもよい、ということだ。事業を続けるうちに視界が開け、より多くの顧客のペイン(お金を払ってでも解決したい課題)が見えてくるからである。その結果としてTAMが想像を超えたレベルで上がっていくことがある。その良い例がSaaSの雄、Sansanだった。

彼らの創業時、名刺をデジタルで読み込むビジネスは他に数社しかなかった。SaaSというビジネスモデルもまだ新しい概念だった。SaaS市場「全体」の規模が100億円程度、年率30%成長というデータがあるだけだった。100億円というのは昨年のSansan1社の売り上げより小さい数字である。多くの投資家が見送る規模感だった。

社長の寺田さんは当時「日本人の全名刺交換が対象のビジネスなのだから、考えるまでもない巨大な市場規模でしょう」と具体的なTAMなど意に介さなかった。出資判断には具体的な数字が必要な私は困ったものだったが結果はご存じのとおり日本有数のARR規模の会社となった。

一般的にペインには問題の発生頻度、問題の深さ、問題で生じるコスト、困っている人の多さ、改善で得られる利得の大きさ、改善時の感動の大きさなどがある。Sansanの場合「名刺をスキャンしてPCで管理したい」だけが顧客のペインではなかった。

外出先でスマホでも見たい、社内の人脈資産を可視化したい、取引先の人事異動情報を毎朝確認したい等のニーズを、次々に継続課金で捉えていった。ペインポイントの一つ「問題の発生頻度」は、サービス利用の継続性につながるからSaaSビジネスでは最重要だ。名刺は営業部隊なら毎日交換し、毎日誰かに連絡する。だから月課金も受け入れやすい。

今でこそ彼らは具体的なTAMの大きさを材料に、売り上げや時価総額がさらに数倍以上になる可能性を有することを投資家に説明している。しかし創業期に集中すべきはTAMではなくペインなのだと彼らから改めて学んだ。

[日経産業新聞2022年3月25日付]

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