SKY-HI 力を注ぐべきは音楽に向かう「純粋性」
連載 SKY-HI「Be myself, for ourselves」(33)
前回「SKY-HI 『健康的なファン活動』と音楽チャート」に引き続き、今回も『日経エンタテインメント!』2022年1月号の連載分を掲載する。前回はチャートのためにファンが無理をしてまで「CDを積む」行為と、それにレコード会社や運営側が頼ることに対する不健全さを語ってもらった。任天堂元社長の岩田聡氏の言葉を引用しながら、射幸心や競争心をあおって一時的な利益や結果を追い求めるのではなく、ファンから本質的な意味での信頼を得ることが大事と話すSKY-HIだが、今回は、応援したいファンの気持ちに対し、BMSGはどう向き合うのかを聞いた。出てきたのは、「音楽に向かう『純粋性』を保つこと」という言葉だ。[「BE:FIRST」や「THE FIRST」についてはこちら]

SNSなどでは、BE:FIRSTと出会ったことで初めてもしくは数十年ぶりに「推し活」をするというコメントもよく見かける。その人たちが「どのように応援すれば、彼らのためになるのか」を考え、迷う様子も目にした。
「『どう応援したらいいんだろう』という考え方自体が不健康だし、応援したいようにしてほしいなと思います。CDは届いた人が喜ぶように作るし。ボーイズグループである以上、ビジュアルもこだわりたいクリエーションの1つです。だから、CDのアートワークにもこだわるし、ジャケット写真の撮影のときには優れた特典用の画像も作りたい。特典だって、できるだけ多くの種類を用意したいんです。僕自身としては、ファンが『欲しい』と思うものは作りたい。
無理してCDを買ってほしくはないけれども、グッズのようなものとしてファンのニーズがあるのであれば、CDを買ってもらう正当性はあると思っているんです。買って喜んでもらえるようにいろんな形を用意しているだけなので、好きなものを買ってほしいです。通常盤も気合いを入れてジャケットを作っていますし、コンプリートしたい特典があればそろえることを楽しんでもらいたい。それがあまりにも逸脱していたら、もちろん是正していきますし。僕らも常識の範囲内でやるから、欲しいものを買ってほしいです」
今が新しい仕組みを作るチャンス
「CDでもダウンロードでもストリーミングでも、聴きたい方法で聴いていただければいいし、僕らはどれでもうれしいんです。そのうえで、チャートの順位が上がればもちろんうれしいけど、SNSの『いいね』1つだって本当に幸せなんです。『いいね』したい人に『いいね』したいものが届くことで、『いいね』が付くと思うので。
今回、BE:FIRSTは歴代3位の1400万回のストリーミングの再生回数を記録しましたが(オリコンチャート『アーティスト別週間再生数記録』)、1回聴くことは1400万分の1を担っているわけではなく、我々が命を懸けて作った楽曲の1回の再生が1400万回行われたと捉えています。
だからこそありがたいのであり、10回聴いてくれた人は10回分それを味わってくれたわけだから、こちらとしては10回分うれしい。聴くに値するものを作るのはこっちの仕事だし、作る側の僕らはそこを忘れちゃいけないと思っています。楽しみ方は本当に自由なので、それぞれの幸せのために楽しんでほしい。本当にそう思います」
「僕が最近、希望的に感じたことの1つが、自分が音楽業界に抱いていた問題と同じようなことを感じている人が、世の中にはいっぱいいたということでした。ここ10年、日本の芸能の状況があまり良くない方向に進んでいたのは間違いないと思うんですよ。それを愛している人からすると厳しい言葉になるかもしれない。ただ、『THE FIRST』なりBE:FIRSTで初めて『推し活動』をする人が生まれているということは、新しいシステムを作っていけるチャンスでもあるんです。ここで強い気持ちを持って考え続けて変えていかなきゃいけないと思っています。
アーティストでもアイドルでも、エンタテインメントを生業にしている人って、本質的には人の生活を幸せにするためにやっていると思うんです。それなのに、経済的に苦しめられ、精神的に圧迫されるけれども応援したいといった共依存を求めるタイプのファンを作るのは本質から明らかにズレているから、そこは否定しないといけない。何のためにBMSGを立ち上げたのかと言えば、現状に対しての問題提起でもあるわけです。それを絶対に忘れちゃいけないと思っています。
本当に我々がやるべきは『いい音楽を作る』『届いた人が喜ぶものにする』『そんな人をたくさん増やす』の3点。今回のBillboardの1位の勝因は何かと言ったら、音楽に向かう『純粋性』だったと思います。今の時代、データを扱う人間と実際に作品を創る側の人間に分かれていたほうがいいし、僕ら後者はこの先もデータや数字は極力気にしないで、純粋性を保つことが絶対に必要だと強く感じています」

【過去の記事一覧と「BE:FIRST」についてはこちら】
(ライター 横田直子)
[日経エンタテインメント! 2022年1月号の記事を再構成]
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