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楽天に住信SBI、ネット銀行の「上場話」が続く理由

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日経ビジネス電子版

このところ、インターネット専業銀行(ネット銀行)の「上場話」が立て続けに出てきている。10月8日、SBIホールディングスおよび三井住友信託銀行傘下の住信SBIネット銀行は、東京証券取引所に上場申請したと発表した。一方、その前の週の9月30日には、楽天グループ傘下の楽天銀行が上場準備に入ったことを明らかにしている。上場が実現すればネット銀行としては国内初となる。

なぜこのタイミングで上場の動きが相次いでいるのだろうか。

「楽天は携帯電話事業の先行投資がかさんでおり、資金を必要としているから」「SBIホールディングスは、上場で得た資金を新生銀行のTOB(株式公開買い付け)に使うのでは」──。

銀行関係者の間では、さまざまな臆測が飛び交っている。だが実際のところは、ネット銀行の利便性や存在が見直され、収益が上向いている点が関係しているようだ。

インターネット調査を手掛けるマイボイスコム(東京・千代田)によれば、インターネットバンキングを「現在利用している」と答えた人は2021年1月の調査で66%と前年より2.3ポイント増だった。「現在利用している」の割合は16年以降、61~63%台を推移していたので、例年よりも増加幅は大きい。

利用目的としては「口座情報の照会・明細の確認」「振り込み・送金」「口座振替」「ネットショッピングでなどの決済」が上位に並ぶ。新型コロナウイルス禍で非対面のサービスに対するニーズが高まり、利用者が増加傾向にあることがうかがえる。

店舗網を持たないため低い経費率を実現できる代わりに、預金金利を優遇し、振込手数料や住宅ローン金利を対面型の銀行よりも低く抑える――。これがネット銀行の優位性であるが、「経費率の低さは利益率の高さにもつながる。同規模の地方銀行と比べてもポテンシャルは高い」と銀行セクターの動きに詳しいマネックス証券の大槻奈那チーフ・アナリストは話す。

加えて最近目立つのが、他のデジタルサービスとの「相乗効果」だ。例えば楽天銀行は、グループの電子商取引(EC)事業である楽天市場での決済や、楽天証券での金融取引といった需要を取り込み急成長している。各サービスの連携強化につながる施策も実施しており、中でも「楽天ポイント」を軸としたポイントプログラムは、利用者の囲い込みにもつながっている。

PayPay銀行(旧ジャパンネット銀行)が強化するのは、スマートフォン決済でシェア5割を超えるPayPay(ペイペイ)との連携だ。例えば、個人ユーザー向けにはPayPayの残高からPayPay銀行への出金手数料は無料にしている。また法人向けでも、PayPay加盟店が売上金の入金口座をPayPay銀行に指定すれば、売上金が翌日に入金されるなどの施策を打っており、顧客獲得につながっている。

グループ内のデジタルサービスとの連携にとどまらず、異業種との連携を強める動きもある。その代表例が住信SBIネット銀行の「NEOBANK(ネオバンク)」事業だろう。これは、決済、預金、貸し出しといった銀行としてのインフラ機能を銀行以外の事業者に提供するサービス。20年4月の日本航空(JAL)を皮切りに、CCCマーケティングホールディングス(CCC)、ヤマダホールディングスオープンハウスと提携先は増えている。

提携先は銀行代理店業のライセンスを取得すれば、銀行サービスを顧客に提供できる。一方の住信SBIネット銀行は、顧客接点の部分だけ提携企業の仕様にし、あとは住信SBIネット銀行のシステムにつなぐため、預金残高が増えてコストメリットが生まれる。同行はこれまで、取扱額7兆円を超える住宅ローン事業が主力だったが、今後はネオバンク事業にも注力し、収益の多角化をはかる考えだ。

コングロマリット・ディスカウントの解消狙う?

こうしたネット銀行のサービス拡充の成果は口座数および預金残高の急増にも表れている。楽天銀行は21年6月末に預金残高が6兆円を突破したと発表した。20年12月に5兆円を超えてからわずか半年で1兆円積み増したことになる。個人口座数も三菱UFJ銀行の約4000万口座、三井住友銀行の約2800万口座、みずほ銀行の約2400万口座とメガバンクには及ばないものの、1138万口座とネット銀行としては初めて1100万口座を突破した。住信SBIネット銀行も預金残高が約6兆4000億円と、中堅の地銀並みの規模まで成長している。

モルガン・スタンレーMUFG証券の長坂美亜株式アナリストは「日本初のネット銀行が営業を開始して約20年がたった。その事業領域はここにきて拡大している」と指摘する。上場は次の成長ステージを目指すものと捉えてよいだろう。

上場にはもう一つの思惑もあるようだ。楽天グループの三木谷浩史会長兼社長は、2月の決算説明会で、次のような発言をしている。「楽天銀行やクレジットカード、証券は他社に比べると成長スピードも収益性も圧倒的だが必ずしも株価に正確に反映されているとはいえない」。

つまり、三木谷氏は「コングロマリット・ディスカウント」が起こっていると捉えているのだ。コングロマリット・ディスカウントとは、多くの事業を抱える複合企業(コングロマリット)の企業価値が、各事業の企業価値の合計よりも小さい状態のこと。事業の全体像や相乗効果が見えにくく、市場にきちんと評価されていないことを意味する。三木谷氏は収益性が高く急成長中の金融事業がこのまま楽天グループの100%子会社にとどまっていると、かえって経営効率が悪くなるとの判断から、上場させることを考えているともいえる。

マネックス証券の大槻氏も「(グループから)外に出した方が、価値が正当に評価される。それが上場の目的の1つだろう」と話す。楽天銀行と住信SBIネット銀行の純資産はそれぞれ約1900億円、約1390億円となっている。仮に上場した場合は「4000億~5000億円規模になるのでは」と複数の証券アナリストたちは見ている。

もっとも、今後もネット銀行の収益環境が順風満帆とは限らない。最近はフィンテックの発達で、スマホを使って融資や預金といった銀行サービスを提供する「デジタルバンク」が増えている。21年5月には福岡銀行などを抱えるふくおかフィナンシャルグループが「みんなの銀行」を始めた。東京きらぼしフィナンシャルグループもデジタルバンクに参入する準備を進めており、既存の銀行勢の「巻き返し」も今後活発化しそうだ。それだけに「ネット銀行の調子がよいうちに上場させてしまおうと考えたのでは。今なら株式市場の株価水準も高い」(メガバンク関係者)との声もある。

次なる成長への資金調達と、出口戦略。さまざまな思惑が絡まり合った、上場話の行方はどうなるのか。

(日経ビジネス 武田安恵)

[日経ビジネス電子版 2021年10月14日の記事を再構成]

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