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トヨタ、EVシフトへ本気示す 「後ろ向き」レッテル払拭

日経ビジネス電子版

2021年12月の記者会見で電気自動車(EV)への本気度を示したトヨタ自動車。しかし「ハイブリッド車(HV)にこだわる姿勢から方針転換した」といった報道には違和感を覚える。

トヨタ自動車の記者会見は驚きの連続だった。同社は2030年に年間350万台のEV販売を目指す。従来目標は燃料電池車(FCV)とEVを合わせて200万台。いったん掲げた目標を7カ月で修正した。

350万台と言えば、独ダイムラーやスズキの全販売台数に匹敵する。それを現在、EV販売で世界のトップ10にも入らないトヨタが、わずか8年余りで実現するという。

これから販売するEVを16車種、ステージ上で披露したシーンも圧巻だった。自動車業界で、今後の商品計画をここまで一気に「見える化」した例は記憶がない。

この発表を受けて、メディアは一斉に「トヨタがEVで大攻勢」「本気のEVシフト」などと報じた。だが、「HVに固執していたトヨタが変節した」といった論調には、腑(ふ)に落ちないところもある。

元来トヨタはEVで攻勢をかけようと思えば、かけるだけの実力を持っていた。他社に先駆けてバッテリーなどEVのコア部品をHV上で実用化し、知見を蓄えてきた。

それでもEVシフトを進めなかった理由はいくつかある。1つめは「そもそも顧客が望んでいるのか」と懐疑的だったこと。EVは依然としてバッテリーの充電時間や寿命、航続距離などに課題を抱えており、顧客に不便を強いる。現に多額の補助金を付けてEVシフトを進めようとしている欧州でも、いまだにHVはEVの2倍以上売れている。

2つめに、EVシフトは国・地域によっては脱炭素につながらない。EVに搭載するバッテリーの製造には、多大なエネルギーを要する。再生エネルギーの割合が高い欧州ならともかく、火力に依存する国では、EVシフトはかえって二酸化炭素の排出量を増やしかねない。電力不足を助長し、電気代の上昇を招く恐れもある。

「後ろ向き」レッテルを払拭

3つめに、安全保障上の懸念が浮上している。EVに用いられるレアメタル(希少金属)の生産は一部の国に偏る傾向が強く、特に中国のシェアが高い。とりわけモーターに使われる高性能磁石の原料を中国が押さえていることには、世界的に警戒感が広がっている。

それでもトヨタがこの時期に目標を上積みしたのは、なぜか。

「EVに後ろ向き」というレッテルを払拭し、風向きを変えたかったからだろう。環境団体のグリーンピースは先ごろ、世界の自動車大手10社の気候変動対策についてトヨタを最下位に位置付けた。こうした評価が続けば、ブランドイメージが傷つく。

株式市場からの圧力もあった。米テスラの時価総額は100兆円を超えている。トヨタの約3倍だ。販売台数でトヨタグループの10分の1にも及ばないEVメーカーが資金調達で優位に立つ状況は、看過できない。

同社は今後も全方位戦略を貫く。30年までにEVに4兆円を注ぎ込む一方で、他の電動車向けにも4兆円を投じる。引き続き、HV、プラグインハイブリッド車(PHV)、FCVなどの品ぞろえも強化する。トヨタは今でも本音では「急激なEVシフトはやがて世界中で軌道修正を迫られる」と踏んでいるのではないか。

筆者の経験で言えば、海外では遠い目標に対する必達意識は日本よりも薄い。そうしたことを踏まえたうえで、トヨタは「仮にEVシフトが進んでも、十分対応するだけの備えはある」と強調したかったのだろう。

50年のカーボンニュートラルに向けた道筋は、各国の実情に合わせたものであるべきだ。欧米や中国の動きにあおられ、追従するのは避けた方がよい。トヨタの会見から読み取れるのは、日本政府や産業界に対するそんなメッセージだ。

(日経ビジネス編集委員 山川龍雄)

[日経ビジネス 2022年1月10日号の記事を基に再構成]

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