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新技術で「捨てない経済」へ 新興小売りテックが挑む

CBINSIGHTS
小売業界で世界的なサステナブル消費へのトレンドをつかみ、最新技術を使って新しいサービスを開発するスタートアップが増えている。アプリを使ったリサイクル流通システム、電子機器の修理による電子ごみの削減など、廃棄のない「捨てない経済」の実現に挑んでいる。投資マネーも引き寄せているこうした新興小売りテックの取り組みをCBインサイツがまとめた。

小売りの各業界はごみの排出量が非常に多く、環境を汚染していることで知られる。例えば、ファッション業界は毎年9200万トン以上のごみを出しており、世界の食品ロスは計16億トンに上る。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

消費者は変化を求めつつある。繊維業界の専門家の52%はファッションにおけるサステナビリティー(持続可能性)への関心の高まりをけん引しているのは消費者だと答えている。これにはサプライチェーン(供給網)の透明化、代替素材の活用、中古品の購入などがある。同様に、代替たんぱく質から堆肥化可能な包装容器まで、持続可能な食品プロダクトを求めていると回答した消費者は65%に上る。

規制当局もごみ削減に重点を置いた循環型経済への移行を主導している。例えば、欧州連合(EU)は繊維に関する戦略を立てており、耐久性が高く、再利用やリサイクルが可能で、エネルギー効率に優れた持続可能な製品の開発を目指している。この戦略は2022年初めに採用される予定だ。米国ではバイデン大統領が21年、連邦政府機関に対し、消費者が電子機器などのツールを修理する権利を守る規制を策定するよう指示する大統領令に署名した。この規制が実施されれば、電子ごみが減り、製品の寿命を延ばせる。

循環型経済への移行は小売りにとって確かに大きな試練だが、大きなチャンスでもある。しかも、移行を容易にする新たなテクノロジーが続々と登場している。中古販売(リセール)プラットフォームなど、テクノロジーを活用して持続可能な小売りの未来がどう形成されつつあるかについて調べる。(英語の原文では環境再生型農業や自動配達車などについても解説)

製品の寿命を延ばす

循環型経済の柱の一つとして、古くなった製品を捨てるのではなく新たな命を吹き込むことに大きな注目が集まり、テクノロジーの進化がこれを推進している。中古販売やレンタルのプラットフォームがこの動きを主導しており、再生や詰め替えが可能な包装容器の活用も増えている。

中古販売プラットフォーム

CBインサイツのデータによると、古着経済の規模は28年には640億ドルに達する見通しだ。この拡大をけん引するのは質の高い製品を主に扱う中古販売市場で、今後3年間で衣料品小売り全体の11倍の速さで成長するとみられている。

古着屋は特に目新しくもないが、スタートアップ各社はこうした古着屋がオンラインで生まれ変わるのを支援し、多額の資金を調達している。

・中古アパレルサイトの米スレッドアップ(thredUP)は21年3月、上場前の資金調達で3億200万ドルを調達した。企業価値は10億ドルになった。

・高級ブランドバッグのフリマサイトを運営する米リバッグ(Rebag)は21年12月、シリーズEの資金調達ラウンドで3300万ドルを調達した。調達総額は1億ドルになった。

・リトアニアのビンテッド(Vinted)は中古販売モデルを踏襲する一方で、会員がアイテムを交換できるサービスも手掛ける。同社は21年5月、事業を海外に拡大するため3億200万ドルを調達した。

・中古ブランド品の委託販売サービスを手掛ける米ザ・リアルリアル(The RealReal)の21年の大型セール日「ブラックフライデー」と「サイバーマンデー」における売上高は過去最高を記録した。デザイナーのステラ・マッカートニー氏は同社と提携し、自身のブランドのアイテムを委託販売した利用者にザ・リアルリアルで使える商品券を提供している。

中古販売プラットフォームへの関心の高まりを受け、高級ブランドはシンガポールのリフローント(Reflaunt)など中古販売の課題を解決してくれる業者を活用し、独自の中古取り扱い経路の構築に資金を投じている。リフローントは21年初め、シードラウンドで270万ドルを調達した。このラウンドには高級ブランド数社が参加した。

リフローントは消費者がブランドのサイトで直接中古品を販売し、そのブランドの商品券や現金を受け取る仕組みを築く。高級ブランド品の通販サイト、英ネッタポルテは最近、中古販売システムを構築するためにリフローントと提携した。つまり、買い物客は商品を買ったサイトで、後にその商品を売ることができる。

米トローブ(Trove)も循環型経済のプラットフォームで、米リーバイ・ストラウスや女性向け衣料の米アイリーン・フィッシャーなどと提携している。トローブの調達総額は1億2100万ドルだ。

中古販売はファッション業界だけに限らない。スウェーデン家具大手イケアグループは20年、27カ国で家具の回収・中古販売プログラムを導入し、廃棄家具と引き換えに商品券を提供した。21年には、このサービスを米国の33拠点に拡大した。

レンタルプラットフォーム

洋服や家具のレンタルは購入よりも持続可能な代替手段になる。所有よりも利用を重視してシェア経済を活用し、消費者に高価なデザイナー商品を利用する手段を提供する一方で、その商品の寿命を最大化する。

新型コロナウイルス禍でレンタル業界には大きな影響が及んでいる。テレワークの普及で自宅にオフィスを構える消費者が増え、レンタル家具の利用が急拡大している。例えば、定額制の家具レンタルサービス、米ファーニッシュ(Fernish)の20年5月の自宅用オフィス家具の注文は同年3月比300%増えた。同社は家具のレンタルや修理によって二酸化炭素(CO2)排出量を1042トン抑え、250トン近い家具を捨てずに済んだとしている。

その他の「ファーニチャー・アズ・ア・サービス」(家具のレンタルプラットフォーム)企業には、インドのファーレンコ(Furlenco)や米フェザー(Feather)などがある。両社はサブスクリプション(定額課金)モデルを提供している。ファーレンコは21年7月、海外に進出するためにシリーズDで1億4000万ドルを調達した。

洋服のレンタルは家具よりも浮沈が激しい。20年初めには外出制限によって新たに洋服を買う必要性が減り、米レント・ザ・ランウェイ(Rent the Runway)など各社の会員数は大幅に減少した。だが、規制が解除されると、利用者はこうしたプラットフォームに戻った。21年5月のレント・ザ・ランウェイの会員数は前年同月比92%増えた。

この分野で勢いを増しているもう一つの企業は、米シアトルに拠点を置くアーモワール(Armoire)だ。同社は毎月定額料金で顧客のためにレンタル衣料を収集する。プロのスタイリストと機械学習のアルゴリズム(計算手法)を併用し、ユーザーの着心地や体形、サイズなどスタイルの好みを考慮してクローゼットを構成する。同社は21年初め、資金調達で620万ドルを調達した。

普段着ではなく特別な時に着る洋服のレンタルに特化したスタートアップもある。例えば、オーストラリアのDesignerexの利用者はドレスを互いに貸し借りする。同社は19年に米国で事業を始め、「ドレス版(米民泊大手)エアビーアンドビー」と呼ばれている。同社のサービスにより買い物客はお金を節約でき、洋服のごみも減る。

テック企業はベビー服業界でもサステナビリティーをけん引している。スイスに拠点を置くOiOiOiはオーガニックのベビー服レンタルサービスを提供する。サイズはいつでも大きくできる。

ブランドはレンタル分野の課題を解決してくれる業者を活用し、独自のレンタル事業を簡単に設立できる。例えば、フランスのパリに拠点を置くリゼ(Lizee)はブランドが在庫商品をレンタル(または中古販売)することで、循環型経済に参入できるようにする。同社は独アディダスや仏スポーツ用品店デカトロンなどと提携し、中古販売やレンタル事業に伴う物流業務を一括して請け負う。

カナダのループト(loopt)は北米の「返品物流(リバースロジスティクス)」で同様のサービスを提供している。同社は中古販売される洋服や家具のクリーニング、組み立て、配送を担う。

修理プラットフォーム

ブランドが洋服の寿命を延ばし、ごみ削減を進めるもう一つの手は修繕サービスを提供し、消費者がその洋服を着る頻度を高め、洋服が長持ちするよう促すことだ。

環境保護に力を入れているアウトドア衣料・用品大手の米パタゴニアは自社サイトに修理やお手入れ方法を掲載し、自社製品のリサイクル・修理プログラム「ウォーン・ウエア(Worn Wear)」を運営している。

アイリーン・フィッシャーも同様に、自社の衣類を回収し「リニュー(Renew)」プログラムで中古販売している。状態の良いものは洗ってきれいにし、簡単な修繕が必要な場合には繕う。修繕で対応できないほどダメージの大きい衣類は芸術作品やクッションカバー、壁掛けなど別のアイテムに再生される。

高級ブランドのネット通販を手掛ける英ファーフェッチも高級品のアフターケアを提供する英ザ・レストリー(The Restory)と提携し、修繕サービス「ファーフェッチ・フィクス」を始めた。消費者はファーフェッチのサイトで、自分のバッグやシューズ、革製品をプロに修繕してもらうために集荷を予約できる。

一部の高級ブランドは数年間の無料修理サービスを提供している。だが、イタリアのファッションブランド「ブルネロクチネリ」の場合には、長年営んできた修理サービスが最近になってようやく人気を博している。これは消費者の間で購入した服を長持ちさせる意識が高まっていることを示している。

修理された機器の販売

消費者はスマートフォンからデジタルウオッチ、ノートパソコンまで、次のアップグレードに常に目を光らせている。だが、ひっきりなしのアップグレードは大きな環境問題を引き起こしている。国連の「世界電子ごみモニター2020」によると、30年には世界の電子ごみは7400万トンに達する見通しだ。

消費者は毎年新しい電子機器を買うのではなく、修理された機器など、より持続可能な選択肢に資金を投じる手がある。電子機器の修理を手掛けるスタートアップは勢いを増している。

例えば、フランスの電子機器中古販売プラットフォーム、バック・マーケット(Back Market)の調達総額は10億ドルを超える。直近のシリーズEでは5億1000万ドルを調達し、企業価値は57億ドルになった。同社のサイトでは世界の600万人以上の顧客にスマホから家電まで様々な製品を提供している。同社のプラットフォームで機器を販売しようとする業者は厳しい審査を受ける。販売を認められるのはわずか3分の1だ。

同様に、中古電子製品の売買サイト、仏セルティディール(Certideal)は最近、欧州域内で事業を拡大するために資金調達ラウンドで1700万ドルを調達した。同社は修理した機器の品質を保証する「レスポンシブル・リサイクリング(Responsible Recycling)」を発行している。

中国の中古電子機器・家電の売買プラットフォーム、愛回収(Aihuishou)もこの分野で成功を収めている。20年3月~21年3月の販売台数は2610万台で、21年6月に上場した。

詰め替えや再利用可能な包装容器

企業は使い捨ての包装容器を廃止し、より持続可能な選択肢を導入するよう求める圧力にさらされている。リサイクル可能な包装容器の利用は解決策の一つだが、全ての消費者がリサイクル対応店舗にアクセスできるわけではない。しかも、リサイクル可能な製品は汚れたり、海外に送られてそこでごみとして処分されたりすることも多い。

詰め替えや再利用が可能な包装容器は、企業や消費者にプラスチックなどの使い捨て包装容器を減らす簡単な手段を提供している。

リサイクルを手掛ける米テラサイクル(TerraCycle)は19年、商品の容器を再利用するプラットフォーム「ループ(Loop)」を開始した。このプラットフォームは米国で始まり、その後英国、フランス、オーストラリア、日本、カナダに拡大した。買い物客はループのサイトでアイスクリーム「ハーゲンダッツ」やスキンケア「バーツビーズ」、カミソリ「ジレット」など様々な食品や日用品を注文できる。

そもそも持続可能な包装容器を利用している企業もある。米美容ブランド、ケアーウィス(Kjaer Weis)は口紅やマスカラなどの商品を再利用可能な金属の容器に入れている。

プラスチックの利用は食品業界、特に配達や持ち帰りの場合にも大きな問題になっている。米サンフランシスコに拠点を置くディスパッチグッズ(Dispatch Goods)は再利用可能な容器を使うことでプラスチックごみの撤廃を目指しており、レストランやケータリング業者、料理宅配サービスと提携している。同社は21年12月、提携を拡大し、人員を増やすため、シードラウンドで370万ドルを調達した。

チリに拠点を置くアルグラモ(Algramo)は使い捨てプラスチック容器の革新的な解決策を編み出している。利用者は同社のサイトでボトルを洗って繰り返し使う製品として購入し、アルグラモのスマートディスペンサーが設置された店舗で中身を詰め替え、その代金をアプリで支払う。同社は20年に米国に参入し、ニューヨーク市周辺の自動販売機にディスペンサーを設置している。

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