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エーザイ、認知症事業出直し 次期薬開発にシフト

エーザイが認知症薬事業の戦略を大幅に見直す。アルツハイマー病の進行抑制が期待される世界初の治療薬として2021年に米国で承認された「アデュヘルム」の利益拡大を事実上断念し、次期アルツハイマー薬の開発を優先する。アデュヘルムは有効性への疑義が示され収益が見通せない。同薬への関与を減らし新薬開発に経営資源を集中させて挽回を図る。

「承認過程での反対意見によってアデュヘルムの販売に大きな(マイナスの)影響が出るとは想定していなかった」。エーザイの内藤晴夫最高経営責任者(CEO)は16日にオンライン事業説明会で語った。同社は同薬を共同開発する米バイオジェンとの契約を見直し、23年1月以降は開発や販売から手を引く。

代わりに、両社で開発する別のアルツハイマー病薬候補「レカネマブ」の実用化を急ぐ。当初は23年3月までの承認申請を目指す方針を示していたが、米国では22年4~6月にも申請が完了する見込みで、計画を最大1年程度前倒しする。

アデュヘルムは21年6月に米食品医薬品局(FDA)から条件付きで承認された。エーザイは年間売上高1000億円以上の大型薬になると期待していた。方針転換したのは、販売拡大に大きな誤算があったためだ。

同薬はアルツハイマー病の原因物質とされる「アミロイドベータ」を除去し、症状の進行抑制が期待できるとされた。だが承認審査中から有効性に対して疑問が呈されたうえ、薬価が高く患者への投与が進んでいない。

同年12月には欧州や日本で承認可否の判断が見送られた。米国の高齢者向け公的医療保険「メディケア」でも保険適用が見送られる公算が大きく、投与対象者が大幅増加する可能性は小さい。21年12月までの販売額は300万ドル(約4億円)にとどまる。

収益見通しが立たないなか、エーザイはこれ以上の開発・販売コストを負うよりも、他の薬に経営資源を投じたほうが良いと判断した。従来契約はエーザイも開発費などを一部負担し利益を地域ごとに分配する形だった。今回の見直しで、エーザイの取り分は売上高の最大8%と従来より目減りする一方、費用負担はゼロになる。

アデュヘルムの普及を妨げた最大要因は、治験の一部で有効性が示せず、医師ら専門家の理解が得られなかったことだ。医師が治療のよりどころとする学術論文も未掲載。内藤氏は「重要な教訓はデータの透明性を確保すること」とし、契約変更で浮いた経営資源をレカネマブに集中させる。

レカネマブもアデュヘルムと同様に症状の進行抑制を目指す。中期段階の臨床試験(治験)では投与しないグループと比べて3割の進行抑制効果を得られた。副作用は投与者の10%程度とアデュヘルムに比べて患者への負担も小さいもようだ。

米国では迅速承認制度を活用し、22年中に承認の可否判断が出る可能性がある。最終段階の治験の主要データは22年9月にも示すとする。アデュヘルムでは未達成の論文掲載対策も力を入れる。

レカネマブはエーザイの自社開発品のため、アデュヘルムよりも取り分が大きい。実用化できれば売上収益の全額が計上され、米国や欧州、日本での利益の5割が入る。

エーザイは国内で唯一、認知症薬事業を経営の柱に据えてきた。世界保健機関(WHO)によると、認知症は世界で5500万人以上が罹患(りかん)する病気でケアにかかる費用も非常に大きい。1990年代後半に「アリセプト」を実用化したのをはじめ、開発費の多くをつぎ込み、周辺サービスも含めた事業拡大を目指してきた。

開発の遅れは収益にも打撃となる。主力の抗がん剤の特許切れが26年に迫るからだ。同薬は22年3月期の売上高見通しが1815億円と連結売上高の25%を占める。後発品が登場すれば減収は確実だ。アリセプトの特許が切れた2010年代も減収に転じた。「レカネマブが実用化されれば特許切れを補う可能性は十分ある」(シティグループ証券の山口秀丸氏)

だが、海外勢も類似の薬を開発する。米イーライ・リリーは「ドナネマブ」について21年10月から米国への申請を開始。スイス・ロシュも「ガンテネルマブ」の最終段階の治験を進めている。薬の有効性が競合間で比較されれば、開発はさらに難しくなり収益期待も押し下げられかねない。

内藤氏は「レカネマブは副作用が少なく効果の発現も速い。他剤に対する不利な面は全くない」と強調。「アデュヘルムの教訓を生かしレカネマブに全力で取り組む」と話した。次期薬に集中して開発効率を高められるかが戦略の成否を分ける。

(赤間建哉)

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