次代占うインド金融規制
SmartTimes GMOペイメントゲートウェイ副社長兼GMOベンチャーパートナーズファウンディングパートナー村松竜氏
「中央銀行の規制強化に加え昨年末から投資家の目も厳しくなってきた。早く資金調達を完了させて安心して事業運営に集中したいのに」。2月末、インドのベンガルール(旧バンガロール)の投資候補先の社長は私たちにつぶやいた。

歴史的な過剰流動性の大波の中、2021年第4四半期には1兆3000億円もの資金が投資家から流入したが、22年同時期には前年同期比7割減の3500億円となった。インドフィンテックはまさにいま岐路に立っている。
インドを代表するスタートアップとなったRazorpayをはじめとする決済事業者が10年代後半に爆発的に成長し、UPIと呼ばれる国が推し進める「無料」「即時口座間決済」の基盤が昨年は年間約200兆円もの支払いを処理しているといわれる。
加えてAadhaarと呼ばれるこれも国が推し進めるデジタル個人識別情報基盤も浸透した。これまではデータが全くなく手作業の与信では費用対効果が合わないため金融機関が相手にできなかった個人や中小企業に対するデジタル貸金業が新業態として成立、数年で空前の勃興を示した。
一方でフィンテックの本質は規制テック。特に既存金融機関の存在を脅かすほどの規模となってきたデジタル決済・貸金業については20年ごろからインドの中央銀行RBIが本格的に決済ライセンス運用、デジタル貸金業ガイドラインの明確化による貸金業のグレーゾーン撤廃に動き始めた。
これに伴い、多くのフィンテックが顧客や提携先との契約改定や、ノンバンクライセンスの取得に動くなど業界全体が地殻変動のさなかにある。
当局に規制されるようになることは何も悪いことではない。それは同国におけるフィンテックが一定の規模となり市民権を得たひとつの証明でもあり、業界が健全化しつつ更に拡大することに資する重要な局面でもあるからだ。また投資家の立場からすれば、この難しい局面に起業家がいかに真摯に迅速に対応できるかということは投資判断をする際の大きな試金石となる。成長の過程で欠かせない資質なのだ。
市況の悪化に伴いスタートアップへの投資全体に対する熱狂が落ち着くとともに、特に売り上げ年間数億円レベル以上のミドルステージのスタートアップへの投資では収益性を保ちつつ業績が着実に成長しているかなどの点を投資家がしっかりと実績評価する状況に戻りつつある。
短期的なリスクだけを見て撤退してしまう投資家も多いが、同時に好機ともとらえている。困難な現状に順応し、価値のある事業を長期にわたって築こうという起業家を応援させていただき、これからのインド金融を担う一助となるような投資を、志を同じくする投資家と共に、積極的に続けていきたい。
[日経産業新聞2023年3月24日付]
