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生成AIの破壊力

SmartTimes 大阪大学教授 栄藤稔氏

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Smart Times

chatGPT(チャットGPT)が話題になっている。筆者は2016年米グーグルが実用化したニューラル機械翻訳が登場した時のザワザワとした気持ちを再び感じている。また何かが起きそうなのだ。

今から2年前、筆者が関係したLINE社でAI産業の進むべき方向を示した。その中の一つが「生成AI」だった。それから2年の間に、この生成AIが実用化のレベルを超えることになった。

一つ例を示そう。私がコンピューターに以下の文章を入力する。「200文字の報道発表文章を書いてください。キーワードはタイムマシン、未来旅行、競馬の予想、宝くじが当たる」。コンピューターが返してきた文章は以下だった。

「タイムマシン開発社は未来旅行による競馬の予想技術を開発しました。これにより、将来的に競馬のレース結果を知ることができ、宝くじにも当たる可能性があります。これは、タイムトラベル技術の進化により、科学的に可能になったものです。今後も、さらに多くの分野にタイムトラベル技術を活用し、人々の生活を豊かにすることを目指します」。私の書きたい空想記事をコンピューターが自動生成してくれた。

仕組みはこうだ。まず人間がインターネット上にある有用な文章を大量にうまく選んでコンピューターに入れ、文字の順序を学習させる。つまり文章を自動生成するプログラムを作る。このプログラムをさらに人間との会話に適した文章を生成するように訓練する。そうすると、プログラムが人間の論理的思考を模倣するようになる。

誤解ないように述べておくと、今の生成AIは人間のレベルにはない。過去に記録された文章を学習して確率的に起きる文言の連鎖を表層的に学習しているにすぎない。だから明日の天気予報を尋ねても答えられない。突発事故に対応して出動できる消防士にもなれない。それでもだ。この生成AIで自動化できることは非常に多い。

プログラミング、仕様書や報告書の作成、翻訳、音声書き起こしが劇的に効率化されることになる。社内文書には各社の内規や独特な言い回しがあるが、それをコンピューターが学習してしまえば、多くの定型的な文書作成は簡単なコンピューターへの指示で自動化される。

今後5年間で人間に求められることは何か。生成AIを道具として使いこなす指示力が重要となる。生成AIの著作を採用するかしないかの判断力も求められる。

だから教育現場も変わる。宿題を学生本人がやったかどうかの真贋判定するよりも、当人のコンピューター以上の文章が書ける能力を問うようになる。生成AIの破壊力により人間にしか提供できない価値が先鋭化し、企業事務と教育のあり方が変わるのだ。

[日経産業新聞2023年3月22日付]

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